昔から疑問に思っていることがあります、それはウイスキーは瓶の中でも熟成が進むのかということです。
行きつけのショットバーでも結構な話題になるようなので疑問に思うのは私だけではないようです、でも事実はどうなのでしょう?
そこで昔実際に実験してみたことがあります、常飲のボトルを5年ほど放置して新しいボトルを買ってきて飲み比べてみたのです。
結論から言うと封を開けていなければ5年程度だと「同じ味がした」です、つまり瓶の中では確かに樽から染み出した若干の有機物が入っているので熟成が進むとは思うのですが数年では味が変わるほどの変化は無いようです。
ただし20年とか置いておいたら味や香りは若干ながらも変化すると思います、熟成が進むのですから角が取れてマイルドになると思います。
でも逆の考え方もあります、それは瓶の中でアルコールの連鎖結合が進み辛く感じるようになるというものです、しかしこれも理論は合っていますが実際にどうなるかは解りません。
ただウイスキーなどのスピリッツ(蒸留酒)は醸造酒と違い温度や年数による変化が少ないので保存が楽なので助かります、ワインや日本酒では保管方法が悪いと確実に味が変わります。
ここで瓶に詰めた状態で海底熟成という貯蔵法を売り物にしている焼酎があるのですが、これは本当に美味しく熟成するのでしょうか、こればっかりは自分では実験できないので何とも言えません。
もう一つはっきり経験で言えるのですが、ブレンデッドウイスキーは確実に20年以上経つと味に変化が起きるようです、おそらくブレンデッドウイスキーでは当たり前のように品質保持の目的で使われるカラメル着色剤にその原因があるように思います。
ウイスキーのボトルの形状もいろいろありますが、スコッチウイスキーのボトルの多くのネックは真ん中が膨らんでいるものが多く見られます。
この膨らみを巡って人それぞれに想像をするわけですが、よくあるのが「昔はガラス球が入っていた」、「注ぐときにいい音がするため」、「ガラス球を入れて1ショット分を測るため」などが主な結論です。
正解を先に言ってしまうと確かに「ガラス球を入れていた」ですが、問題はその理由です。
その理由は「瓶の口から混ぜ物を入れさせなくさせるため」なのです、昔はシングルモルトのスコッチウイスキーは非常に高価なお酒でした、そこで出始めの頃に安いグレーンウイスキーを混ぜて売っていたバーが多発しました。
そこで上から混ぜ物ができないようにボトルの真ん中に膨らみをつけてガラス球を入れていたのです、つまりスコッチウイスキーのボトルの膨らみはその頃の瓶のスタイルの名残ということです、どんなことにも意味と理由があるのです。
現在でも「玉付き」と表示されたオールドパーなどの高級ブレンデッドウイスキーが存在しますが、これはガラス球が入っているのではなくプラスチックでできた逆流防止の蓋が付いています、実際にボトルにウイスキーを移そうとしても1滴も入りません、実によくできた構造となっています。
近年誕生してきたスコッチウイスキーのなかでとりわけアイラモルトには俗にいう「謎のアイラモルト」という存在があります、例えばピーツビースト・スカラバス・As we get it・アイリーク(イーラッハ)・フィンラガンなどです。
ピーツビーストはサブタイトルそのものが「謎のアイラモルト」と謳っておりラベルは有名なイラストレーターによるもので怪物が吐いた炎によってラベルの左隅が焼かれたように焦げ落ちています。
この謎のアイラモルトの何が謎かというと蒸留所も熟成年数もカスクもほぼ全てが非公開となっているからです、蒸留所の多くはブレンデッドウイスキー用にディステラりーオフィシャル版とは別に製造してボトラー各社に販売しています。
こうしたブレンデッド用に作られたシングルモルトの中で、特に優れた品質のものをボトラー各社が樽ごと買い取ってボトリングして製品化しているのです。
近年数多く誕生してきたボトラーズとは、自らの蒸留所を持たず蒸留所から樽ごと買取りそのままボトリングしたり、幾つかの蒸留所の原酒を独自のレシピでブレンドしたりと蒸留所の純正ボトルにはない味と風味を楽しめるので過去からボトラーズブランドには多くのファンが形成されています。
こうしたボトラーズブランドの製品の中には蒸留所の純正品では非常に高価になる長期熟成ものや、逆にアイラモルトの熱烈ファンが多い若熟成ものなど蒸留所のオフィシャル版では味わいたくても味わえないものを世に出してくれるので、これらをいつでもリーズナブルな価格で満喫できる時代に生まれてきたことは大変幸福なことだと思います。
そこでアイラモルトファンは謎のアイラモルト銘柄の蒸留所や熟年数を味と香りを頼りに当て合うのが一つの楽しみとしています、私もショットバーでこういった話をよく常連やマスターと話し合いますがそれぞれの考えがなるほどと思わせるものも多く大変勉強にもなるし非常に楽しい時間を過ごさせてもらえます。
ネットにも予想を示した記事も散見されますが、これは絶対違うだろうと思うものもあったり自分と同じ考えもあったりで、これはこれで非常に楽しく読まさせてもらうことができます。
難しいのはアードベック蒸留所とキルホーマン蒸留所だと思います、何故ならあらゆる味と香りのオフィシャル版を出しており熟年数によって解りやすい色の違いもなくカスクによってさまざまな色をしているので一概に色が薄いから熟年数が若いとも言えないからです。
押しなべて言えることはたった一つ、謎のアイラモルトは極めてコストパフォーマンスが高いということです、訳あり商品ではないのですが味も香りも蒸留所の純正品と比べて価格から考えたら非常に得した気分になります。
「謎のアイラモルト」の中で私の一押しはアイリーク(イーラッハ)です、おそらくラガヴーリン蒸留所の若い熟年数のシングルモルトではないかと頑なに信じています、ネットでは香りの刺激感などからラフロイグを想像している人も見受けますが私個人的な意見ではラフロイグではなくラガヴーリンだと思います。
ラガヴーリンが値上がりした今では、ラガヴーリンライクな上品さがありながらも若熟成のガツンとくるアイラモルトらしさを気軽に飲めるアイリーク(イーラッハ)は本当にありがたい存在の一つです。
尚、この「謎のアイラモルト」ブームを受けてか「謎のスペイサイド」や「謎のハイランド」などもブームになりつつありますが人気はイマイチです、やはりアイラモルトはスコッチのなかでも特別な存在なのではないでしょうか。
私も「アイラモルト」のカテゴリの一つに蒸留所名と同じレイヤーに「謎のアイラモルト」を作りました、現在手持ち銘柄は昔からメジャーなものばかりですが近年では非常に種類が多くなっています、したがって全ての銘柄を網羅することは不可能に近いのですが可能な限り探し出しては購入して謎を解いていきたいとと思います。