孫子兵法軍争編
<原文>
故にその疾(はや)きこと風のごとく、その徐(しず)かなること林のごとく、侵掠(しんりゃく)すること火のごとく、動かざること山のごとく、知りがたきこと陰のごとく、動くこと雷霆(らいてい)のごとし、郷を掠(かす)むるは衆を分かち、地を廓(ひろ)むるは利を分かち、権を懸けて動く、迂直の計を先知する者は勝つ、これ軍争の法なり。
<訳文>
作戦行動とは、疾風のように俊敏に行動したかと思えば林のように静まり、猛火のごとく襲撃したかと思えば山のごとく微動だにしない、暗闇に身を隠したかと思えば雷のごとく暴れまわる、組織を大切にしなければ人は去り、強固にすれば利益を分かつ、根幹目的はぶらさず臨機応変に動く、状況判断にもとづいて直接間接に行動する、これが勝利の鉄則である。
ご存知、武田信玄の旗印である「風林火山」のヒントとなった孫子兵法の戦略です、武田信玄が取った作戦行動の基本であり、織田信長や豊臣秀吉など多くの武将も「勝利の鉄則」として学んだものです。
ビジネスも同様に一直線の単発行動では上手くいきません、複数の行動を臨機応変に反復して行動することが肝要です、そして陰陽の変化に注目して欲しいのです、表面上と水面下でのそれぞれの見せ方もまた重要な戦略です。
ビジネスもプライベートもいろいろなタイプな人と共存していかなくてはなりません、相手を知って行動を観察し、そしてその行動に見合った臨機応変な戦略が必要となります。
「利益=売上-コスト」というのは誰でも解る利益計算です、そこで経営者の多くは利益が出なくなると必ずとコスト削減を考えます、確かに売り上げが一定であればコストを下げれば利益は確保できます、しかし実際にはこうは上手くいきません。
企業のコストの多くは人件費・維持経費・活動経費です、したがってコスト削減すると事業もそれに伴って縮小を余儀なくされます、何故なら事業は人によって推進するからに他なりません。
他の人がやっていた事を経営者自らがやれば確かに人件費は減ります、では経営者が本来やるべきことは誰がやるのでしょうか、経営者の代わりはいないのです、経営者が事業に専念できなくては売り上げが下がって当たり前です。
無駄なコストを削減するのは常勝手段です、でも売り上げに係るコストの削減と経営者が事業に専念できなくなるコストの削減は絶対にしてはならないのです、ではどうするのか、それは売り上げを上げる方法を模索することです、そしてそれに必要なコストは逆に増やすことです。
企業を正常に成長させたいのであればコストダウンではなくコストアップなのです、そして経営者は事業推進に専念することが最重要です、それを可能にする為に必要な資金なら何としても得ればよいのです。
最後に経営の資金繰り感覚と家庭の家計簿感覚を混同してはいけません、この2つはまったく次元の異なる金銭感覚です、家計簿感覚とは決まった収入をどのように配分するかの引き算の世界です、対して資金繰りとは事を成すのに必要な資金をどう作るかの足し算の世界であり家計簿感覚とは180度思考が異なります、家計簿感覚でのコストダウンでは企業成長は望むべくもありません。
スポーツや囲碁・将棋などの競技の世界では「勝負に負けて試合に勝つ」または「勝負に勝って試合に負ける」という言葉が使われます、ここで言う勝負とは競技中の状況や内容を指し試合とは結果を指していることは説明の必要はないと思います。
そこでビジネスでこれを考えてみるとどうでしょうか、確かにビジネスは「結果が全て」の世界でもあります、途中経過の状況や内容がどうであれ結果に結びつかなければ評価に値しないどころか経営にも直結します。
でも本当にそうでしょうか、私は「一つの案件だけで判断すると大きな失敗に繋がる」と考えています、例えば一つの案件で他者の気持ちを考えずに無理やりに結果を出したとしましょう、確かにこの段階では試合に勝ったと言えます、しかしこれが継続的に行われたらどうなるでしょうか?
その人は常にビジネスライクで心無い人だという噂が噂を呼んで何時しか誰も相手にしなくなります、これで試合に勝ったと言えるでしょうか、ビジネスとは一つの案件単位に考えてはいけません、経営とは継続的に行われる実務なのです。
成功者は継続した状況すべてを試合として考え、一つの案件での損得ではなくトータルでの結果において利益を上げることが肝要だと心得ています、時と場合によっては捨て試合も計算します、トータルでの利益の為にあえて一つの案件での損失も予め計算しておくことが重要となります。
その人の行動や判断のベースとなるのが思考です、思考は性格や個性とほぼ同義ですが特に脳の判断ロジック的特徴を表し、過去の経験や得てきた知識などにより脳内に一つの判断プログラムが形成されています。
ここで性格と思考は何が違うかですが、性格は小脳に由来する表面的な行動パターンも含めていますが思考は大脳のみでの性質だけを表しています
啓発やカウンセリングによって在る程度は思考を変えることはできるのですが、これは表面上の一部であって根底にある無意識の領域に由来する思考タイプまで変えることはできません、さて某機関によって確立された思考タイプの分類によると大きく4つに分類されます。
1.コンセプトタイプ
今までにない新しい発案や知識の応用に優れ、発明家や芸術家タイプでビジネスにおいては儲かる仕組みそのものを独自に編み出すことができる人。
2.アナリシスタイプ
統計や過去の経緯から本質を分析できる研究家タイプで、ビジネスにおいては過去の成功事例から有効な手法を導き出すことができる人。
3.カンバゼーションタイプ
思ったことを的確な言葉にまとめ上げる噺家タイプで、ビジネスにおいては特にプレゼンテーションやネゴシエーションなど渉外に力を発揮する人。
4.ディティールタイプ
細部まで目が届き極めてミスが少ない会計・財務タイプで、ビジネスにおいては秘書や経理で力を発揮する人。
ここで成功する経営者は上記4つのうち2つ以上をバランスよく併せ持つ思考の持ち主だと言われています、思考は必ず無意識の行動に現れます、意識的にそれを身に着けようとしてもどこかで化けの皮が剥がれてしまいますので無理しないで正直に生きることが肝要かと思います。
テレビで時々囁かれる「大人の都合」とは何でしょうか、24時間番組などの長時間生放送で出演者が裏番組に出ている場合など、その時間帯は生放送の方は席を外すのが暗黙の了解なのです。
そういう時に司会者は「**さんは大人の都合でしばらく席を外させていただきます」などと視聴者に了解を得ています、このような法律上や契約上の問題にはならないものの互いの紳士協定のような事項はどの業界にも多々あります。
例えば証券や金融業界などでは、同業者同士の交流は要らぬ問題に発展する場合が多く、同級生とか親族とかを除き互いにできるだけ接触しないようにしています、これは一つの思いやりとも言えます、もし風説の流布(株価を吊り上げる目的で事実と異なる情報を流すこと)や情報漏えいなどが発生した場合には真っ先に疑われることになるからです。
しかし世の中にはこういう社会的常識などを知らない、もしくは知っていても平気でそれを破る人がいます、本人はどのような気持ちで行っているかは想像できませんが事が起きた時に困るのは当の本人ではなくて多くの仲間です、知らず知らずに仲間を危険にさらしているのです。
最新テクノロジーの業界であれば死活問題になります、常識として最先端技術や金融サービス同業者が表立って交流するのは業務提携や共同プロジェクト以外には本来はあり得ないはずなのです、その業界にいるなら業界の「大人の都合」を感覚として持っている必要があります。
そして各種のお願いするときも了解や断るときも、互いに「大人の都合」を理解したうえで言わなくともいい事はあえて言わないこと、そして言われなくとも裏事情を察してあげること、これが大人の都合を理解できる大人の社会人であり成功する人だと思います。