ジョニーウォーカーはブレンデッドスコッチなので、複数のモルト原酒やグレーン原酒を組み合わせて狙った味に整える「ブレンダー」がいます。 その頂点にいるのがマスターブレンダーで、定番の味を守りながら必要に応じて新しい表現へ更新していく最終責任者と言えます。
私が調べた範囲では、ジョニーウォーカーの歴史で「マスターブレンダー」として数えられる人物は7名しかいないとされています。 1人目は創業者のジョン・ウォーカー。 一方で、2人目以降を公式の一覧として確認するところまでは辿り着けませんでした。 6人目として語られることが多いのがDr.ジム・ベヴァリッジで、Diageoで40年以上のキャリアを持ち、そのうち約20年をジョニーウォーカーのマスターブレンダーとして務めた人物です。 そしてDiageoの発表では、ジムが2021年末に引退し、後任として"ブランド初の女性マスターブレンダー"であるDr.エマ・ウォーカーが就任すると告知されています。エマ・ウォーカーは名字が同じためウォーカー家の一族と誤解されがちですが、本人は「名字がWalkerなのは偶然」と述べており、家系とは無関係だそうです。
では、長年マスターブレンダーを務めてきた6代目ジム・ベヴァリッジはどんな人物だったのでしょうか。 彼は1979年に香料化学者としてキャリアを始め、ウイスキーに微量に含まれる硫黄化合物のようなごく小さな成分が香味に与える影響を研究してきたとされています。 研究者として香味を分解して理解しつつ、最終的には飲み手が受け取れる「シンプルな完成形」にまとめる姿勢でブレンドに向き合ってきた、と語られています。 さらに2019年にスコッチ産業への貢献でOBE(勲章)を授与されたことからも、業界内で高く評価されている人物だということが分かります。
彼の初の仕事として言及されるのがジョニーウォーカー「ダブルブラック」です。 『ジョニーウォーカーで味の方向性を変えるなら、中途半端ではなく大胆にやり切る必要がある。ダブルブラックでは「よりスモーキーにする」ことが狙いだったが、単に煙っぽさを強めるだけでは全体のバランスが崩れる。だから、スモークを活かせるように土台や組み合わせ、つまり香味の"構造"そのものを組み替えた』とのこと。 ブレンデッドという世界は「混ぜる」だけではなく、香味の構造を理解し、時代や飲み手の感覚に合わせて設計し直す仕事なのだと感じます。 これからエマ・ウォーカーの時代は、ジョニーウォーカーがどう更新されていくのでしょうか。
ブッシュミルズをの公式EUサイトを見てラインナップを眺めていました。 サイト上ではまず定番として Original と Black Bush が並び、続いて "The Malts" として年数表記のシングルモルトがまとまって紹介されています。10年、12年、14年、16年、21年...と、年数ごとにラインナップされています。
そんな中でいま手元にあるのが BOURBON FINISH(American Oak Cask Finish)です。 このボトルはラベルに中身の説明がきちんと書かれています。せっかくなので、ラベルの英文をそのまま全文載せます。
BOURBON FINISH
Bushmills single malt finished in hand
selected double charred American oak barrels
and blended with smooth triple distilled Irish
grain whiskey for fresh wood and vanilla flavours
Helen Mulholland
ブレンデッドでカスクが表示されている理由がわかりました。 ブッシュミルズのシングルモルトを、厳選された二度チャー(強く焦がした)アメリカンオーク樽でフィニッシュし、それをなめらかな三回蒸留のアイリッシュ・グレーンウイスキーとブレンドしているそうです。
スコッチにはバーボンカスク表記が多いですが、もともとはシェリーカスクがベースだと代表から教えていただきました。 そこでバーボンカスクの歴史を少し調べてみました。
昔はスペインから英国へシェリーを樽で輸出し、英国側で瓶詰めする流れが一般的だった時期があったそうです。 そうすると空になった樽が英国に残るためスコッチの熟成樽として使われてきたという背景があるようです。 ところが1970年代末から1980年代初頭にかけてシェリーを「樽で輸送して英国で瓶詰めする」時代が終わり、伝統的な輸送樽が蒸留所へ回りにくくなったとされています。 そこで存在感が増したのが使用済みのバーボン樽、いわゆるバーボンカスクです。 背景にあるのは供給の太さでした。 少なくともストレート・バーボンでは熟成に「内側を焦がした新しいオーク樽(charred new oak barrels)」を使用することが規定されており、これが使用済み樽を継続的に生み出す構造になっています。 スコッチ側から見ると一定の品質の樽を継続的に確保しやすく、結果としてバーボンカスクが広く使われるようになったようです。
さてそのバーボン樽についてですが、材料はアメリカンホワイトオークを使用します。 樽の内側は、樽を組み上げたあと中身を入れる前に直火で短時間焦がします。 これをチャーと言います。 チャーは「#1〜#4」のように強さで語られることが多いようで、Wild Turkey のサイトには以下のように記載されています。
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#1: 15秒の焦げ目。甘みとオークの風味を持つ軽めのトースト。
#2: 30秒の焦げ目。コーヒーとバニラの香りがほのかに漂う、中程度の焦げ目。
#3: 35秒の焦げ目。スパイス、バニラ、ココナッツ、キャラメルの香りが漂う、中程度の焦げ目。
#4: 55秒の焦げ目。バニラ、スパイス、スモーク、タバコの香りが強く漂う、濃厚な焦げ目。
新たに焦がされた樽は風味を増すだけでなくフィルターとしての役割も果たします。
バーボンが熟成するにつれて焦げた部分の炭素が液体から不純物を取り除きます。
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Wild Turkey は#4(いわゆる"alligator char")を好むと明記されています。
なお、チャーリング(焦がし)によってオーク材の成分が熱分解し、甘い風味のもとが生まれるとも言われます。特にヘミセルロースが分解して木の糖が生じ、それがカラメル化することでキャラメルのような甘い風味につながるそうです。
同じ「バーボンカスク」でもチャーの強さによって樽内面の状態が変わり、付与される風味の方向性が変わり得るということが分かりました。 味が変わる要因の一つとして樽側の条件(チャーの違い)が効いてくるのだなと勉強になりました。 また同じバーボンカスクでもファーストフィルやリフィルといった違いもあるそうなので、それについては次回調べてまとめたいと思います。
アイルランド島の蒸留所をマッピングしてみました。 Irish Whiskey Way のマップでは、アイルランド島全体をざっくりと西・東・内陸・北の4つに分け、そのうえで首都ダブリンだけを独立したエリアとして切り出しています。

参照 https://irishwhiskeyway.ie/
Dublin Distilleries(ダブリンの蒸留所)
ダブリンはアイリッシュウイスキーの「昔の中心地」で、近年都市型蒸留所が集まりつつあるエリア。
ジェムソン・ボウストリートのような王道から、ティーリングのような新世代まで。
01 Jameson Bow St.(ジェムソン・ボウ・ストリート)
02 Teeling(ティーリング)
03 Pearse Lyons(ピアーズ・ライオンズ)
04 Roe & Co.(ロー・アンド・コー)
Wild Atlantic Way Distilleries(ワイルド・アトランティック・ウェイ沿いの蒸留所)
アイルランド西海岸の長大な観光ルートで、荒々しい大西洋の海岸線と風景が売りのエリア
05 The Ardara(ジ・アーダラ)
06 Connacht(コノート)
07 Micil(ミキル)
08 Dingle(ディングル)
09 Skellig Six18(スケリッグ・シックスエイティーン)
10 Clonakilty(クロナキルティ)
Ancient East Distilleries(エンシェント・イーストの蒸留所)
ジェムソン・ミドルトンのような巨大かつ伝統ある生産拠点から、スレイン城やパワースコートのように"観光地×蒸留所"の組み合わせまで。
11 Powerscourt(パワースコート)
12 Boann(ボアン)
13 Slane(スレイン)
14 Royal Oak(ロイヤル・オーク)
15 Blackwater(ブラックウォーター)
16 Jameson Midleton(ジェムソン・ミドルトン)
Hidden Heartland Distilleries(ヒドゥン・ハートランドの蒸留所)
キルベガンやタラモア・デューのような歴史あるブランドに加えクラフト志向の蒸留所もあり、伝統と新興が混ざり合う。
17 The Shed(ザ・シェッド)
18 Lough Ree(ロック・リー)
19 Kilbeggan(キルベガン)
20 Tullamore D.E.W.(タラモア・デュー)
21 Ahascragh(アハスクラ)
Northern Ireland Distilleries(北アイルランドの蒸留所)
北アイルランドは、ブッシュミルズに代表される超老舗と新世代のクラフト蒸留所が同居。
22 Bushmills(ブッシュミルズ)
23 Echlinville(エクリンヴィル)
24 Rademon Estate(レイダモン・エステート)
25 Hinch(ヒンチ)
26 Titanic(タイタニック)
27 McConnell's(マコネルズ)
ジェムソンは、01 Jameson Bow St. と 16 Jameson Midleton がありますが、ダブリンのBow St.は1780年にジョン・ジェムソンが操業した"旧ジェムソン蒸留所"の跡地であり、現在は体験施設として稼働しています。 Midletonが現在のジェムソンのメイン生産拠点であり、巨大な量産蒸留設備が整っています。
カスクとはウイスキーの熟成に使用する木製の樽のことを指します。 蒸留されたばかりのウイスキーの原酒は無色透明ですが、カスクの中で年月をかけて熟成することで琥珀色になり、香りや味わいが形成されていきます。 「ウイスキーはカスクで決まる」と言われることもあり、それくらい樽は重要な要素のようです。
スコッチウイスキーやアイリッシュウイスキーでは熟成に使う樽を「カスク」と呼びます。 一方、アメリカンウイスキーやカナディアンウイスキーでは、標準的なサイズの熟成樽(約53ガロン=約200リットルのアメリカンホワイトオーク樽)を「バレル」と呼ぶのが一般的で、その呼び方が定着しています。
樽の材料となる木は、現在はオーク(ナラ)が主流です。 オークは硬くて密度が高く液体をしっかり保持できるうえ、香りや風味の素になる成分も豊富とされています。 長期熟成にも耐えられることからウイスキーの熟成用としてオーク樽が選ばれてきたようです。 オークにもいくつか種類があり、代表的なものとしてアメリカンオーク、ヨーロピアンオーク、ジャパニーズオーク(ミズナラ)などがあります。
アメリカンウイスキーの一種であるバーボンは、法律で「内側を焦がした新しいオーク樽」を使うことが定められています。 一方、スコッチやアイリッシュ、ジャパニーズウイスキーでは新樽を使う例はごく一部で、多くは一度別のお酒を熟成させた"中古樽"を再利用します。 典型的なのが「バーボンカスク」です。 まず新樽でバーボンを一定期間熟成させ、その役目を終えた樽をスコッチやアイリッシュの熟成に使います。 もう一つ代表的なのが「シェリーカスク」です。 かつてはシェリー酒の輸送に使われた樽がスコッチの熟成に再利用されてきたそうです。 現在ではウイスキー向けに新しく組んだ樽にシェリーを一定期間入れて"ならし"(シーズニング)、その後ウイスキー熟成に用いる方法が主流になっているとされています。 シェリーにもオロロソやペドロ・ヒメネス(PX)などさまざまなタイプがあり、それぞれのシェリーカスクがウイスキーに異なる個性を与えます。
ごく概要に触れただけですが、カスクの種類や使い方の組み合わせはほぼ無限にあり奥の深さを感じます。 今後も少しずつ調べながらカスクの世界も掘り下げていきたいと思います。