2021年8月15日 00:00
動物界に起こる不可思議な現象、その多くに「寄生」という生態が隠されていました。
まずは「寄生」の例を幾つか見ていきましょう。
寄生虫と言えば、家畜や人間に寄生するサナダムシやカイチュウなどは誰しも知っていると思います。
また時々刺身などと一緒に食べてしまい、抵抗力がない子供や老人が犠牲になってしまう魚介類に寄生するアニサキスなどもよく知られている寄生虫です。
こういった一般によく知られる普通の寄生虫の話しではなく、恐ろしい戦略を持った能動的な「寄生」という共生を謀る生命体について話を進めていきます。
さてここに、「アオムシサムライコマユバチ」という寄生蜂がいます。
農家の人でなくても理科の教科書や昆虫図鑑などにも載っており、その存在を知っている人は少なくないでしょう。
この「アオムシサムライコマユバチ」はモンシロチョウの幼虫だけに卵を産みつけ、モンシロチョウの幼虫の中で「アオムシサムライコマユバチ」の幼虫が育っていきます。
そして「アオムシサムライコマユバチ」の幼虫は蛹になるためにモンシロチョウの幼虫から表皮を破り外に出てきます、その数約50匹になります。
不思議なことにモンシロチョウの幼虫は表皮を破られているにもかかわらず表面上は無傷なのです、つまりこの状態で死ぬ事も無く生き続けているのです。
外に出た「アオムシサムライコマユバチ」の幼虫は、モンシロチョウの幼虫に守られるように腹部に集まり繭(まゆ)を作ります。
さて、ここで恐ろしいことが起こるのです。
なんとモンシロチョウの幼虫は、自らの繭を作るための糸を出して「アオムシサムライコマユバチ」の幼虫が繭を作るのを手伝うのです。
更には、蝶などの蛹に卵を産みつけ寄生する別の種の寄生蜂である、「アオムシコバチ」から「アオムシサムライコマユバチ」の蛹を孵化するまで必死に守るのです。
ちなみに「アオムシコバチ」は、寄生蜂である「アオムシサムライコマユバチ」に更に寄生することから高次寄生虫として位置付けられています。
さて、モンシロチョウの幼虫は「アオムシサムライコマユバチ」の蛹から成虫が全て飛び出したのを見届け、自身の一生をまっとうしたかのように炭のように黒く固まり息絶えてしまいます。
「アオムシサムライコマユバチ」は、自身の都合の良いように卵を産みつけた瞬間から完全に宿主であるモンシロチョウの幼虫をマインドコントロールしているのです。
このマインドコントロールの方法は、一種のホルモンを卵を産みつけると同時にモンシロチョウの体内に注入することで実現しています。
このホルモンは卵巣タンパク質の一種であり、モンシロチョウの幼虫は寄生されている事実を認識できず「アオムシサムライコマユバチ」の幼虫を自分自身だと思い込むのです。
これで、何故繭を作るのを手伝い羽化するまで天敵から守るのかという不可思議な現象が納得できます。
ちなみに「アオムシサムライコマユバチ」の生態で、モンシロチョウの幼虫をどのように探し出しているのかということに関しても実に興味深い戦略を駆使しています。
キャベツなどのアブラナ科の植物は、傷つくとカイロモンというフィトケミカル(化学物質)を出します。
つまり、キャベツがモンシロチョウの幼虫に食べられ始めた瞬間にカイロモンが分泌されます。
カイロモンは揮発性の科学物質なので空気中に分散します、「アオムシサムライコマユバチ」のメスはこのカイロモンを検出してモンシロチョウの幼虫を探し出しているのです。
更にカイロモンを出しているキャベツを探し当てると葉の上で足を使って振動を与えます、これをドラミングと呼んでいます。
この振動に反応してモンシロチョウの幼虫が動くと、今度はこの動きの振動をキャッチして正確にモンシロチョウの幼虫の居場所を突き止めるのです。
この完全なる一連の支配戦略、知れば知るほど恐ろしくもあります。
しかし、この恐ろしい寄生蜂である「アオムシサムライコマユバチ」は、キャベツなどの栽培野菜を蝶などの幼虫から守る益虫として人間に感謝されている存在だということは実に面白い事実でもあります。
誰かが犠牲になるが同時にそれは誰かの利益になる、こういった現象が自然界には無数に存在しているのです。
現在、多くの社会学や組織学などの生物とは異なるカテゴリの学者が昆虫の生態を研究しては論文を発表しています、この研究からこれまで謎とされてきた生物の生態が解明されたりしています。
真実を究明しようとする場合、一つの方法からでは無く多方面から別分野の思考で探る必要があるという生きた教訓でもあります。
人類も地球に住む一つの生命体です、であればその原点は先住者である他の動物から学ぶのは極自然なことだと思うのです。