2021年8月22日 00:00
動物界に起こる不可思議な現象、その多くに「寄生」という生態が隠されていました。
昆虫寄生生物の代表格は蜂、これまでモンシロチョウの幼虫に寄生する「アオムシサムライコマユバチ」や、無敵昆虫であるテントウムシの成虫に寄生する「テントウハラボソコマユバチ」を紹介してきました。
今回紹介する寄生蜂は、寄生蜂の中にあって最も高度に進化した蜂で、その宿主の支配方法は完璧すぎて誰もが唖然としてしまいます。
その蜂の名は「エメラルドゴキブリバチ」で、体表は足の先までエメラルド色のメタリック様に光沢を持ち、まるで作り物のように美しい蜂ですがその生態は恐ろしいまでに完璧なのです。
「エメラルドゴキブリバチ」のメスは、ゴキブリを見つけるとまず柔らかい腹部を針で刺して1回目の毒を注入します、この毒はゴキブリを麻痺させて動けなくさせてしまいます。
次いで、2回目に首筋近くに刺す毒の注入方式がなんとも恐ろしい方法を用います。
針の先からセンサー様の器官を出して、ゴキブリの神経経路を探り当てます。
そして、脳まで辿りつくと脳の逃避行動を制御する2ヶ所に毒を注入するのです。
これによって、ゴキブリはほぼ全身が麻痺しているのに前肢(前足)だけは動かす事ができるという、極めて奇異な行動特徴を示します。
2007年に発表された研究では、この毒は神経伝達物質であるオクトパミンをブロックしている事が解りました。
その後、ゴキブリの触角を半分ほどに噛み切ります。
この行為は現在のところ正確には結論付けされておらず、毒の量の調整の為ではないかと言われていますが現段階では確かではありません。
この後、「エメラルドゴキブリバチ」は自身の数倍も大きなゴキブリの触角を引っ張って、予め作っておいた巣穴へ誘導します。
この時に、先程説明したように前肢だけは動かす事ができるという特徴的な麻酔状態が活かされるのです。
つまりゴキブリは自分の前肢を使って巣穴まで歩き、そして巣穴へ自ら入るのです。
巣穴にゴキブリが入ると、今度は「エメラルドゴキブリバチ」はゴキブリの体内に卵を一つだけ産みつけます。
そして、巣穴を小石を使って塞ぎ次のゴキブリを探しに飛んでいってしまいます。
小石で巣穴を塞ぐのは、ゴキブリを捕食者に捕食されないようにして守るためだと考えられています。
さて、巣穴に残ったゴキブリの体内では「エメラルドゴキブリバチ」は3日ほどで孵化し幼虫はゴキブリの内臓を食べて成長を続けます、しかしゴキブリはこの間身動きもせずにじっとしています。
孵化してから約4日間、ゴキブリの内臓のほとんどを食べつくした「エメラルドゴキブリバチ」はゴキブリの体内で蛹になります。
そして蛹から成虫になる時期に、今度はゴキブリは麻痺から覚めたように小石を除いて自ら巣穴を出ます。
ゴキブリが巣穴から出た瞬間に、「エメラルドゴキブリバチ」はゴキブリの体内で蛹から羽化して成虫になりゴキブリの体表を破って飛んでいくのです。
なんという完全なる支配テクニックなのでしょうか?
これほどまでに完全に支配する寄生生物は他に類を見ないほどに完璧です。
また、何故ゴキブリを宿主にしているのかという点も見逃せません。
実はゴキブリは、餌も水も摂取しない状況下でも30日~40日間も生き続けるという生命力を持っているからなのです。
内臓の80%以上を食べられても、数日間生き続ける事ができる生命力を「エメラルドゴキブリバチ」は何故か知っているのです。
それを知った上でゴキブリを宿主に決めたのだと思わざるを得ないほど、完全な寄生方法をとっているのです。
さて病原菌を運び害虫とされているゴキブリですが、実はハワイでは過去にゴキブリ駆除を目的として東南アジアから「エメラルドゴキブリバチ」を大量に輸入したという記録が残されています。
しかし環境の違いからなのか繁殖能力に欠け、この成果はまったく出なかったと記録されています。
このように「エメラルドゴキブリバチ」も他の寄生蜂同様に、実は人間にとっては益虫という存在なのです。