2021年8月28日 00:00
動物界に起こる不可思議な現象、その多くに「寄生」という生態が隠されていました。
これまでお話ししてきたように昆虫界での寄生生物の代表格は蜂です、モンシロチョウの幼虫に寄生する「アオムシサムライコマユバチ」、無敵昆虫であるテントウムシの成虫に寄生する「テントウハラボソコマユバチ」、生命力旺盛なゴキブリの成虫に寄生する「エメラルドゴキブリバチ」を紹介してきました。
そして、今回は寄生蜂の最後に紹介するに相応しい「クモヒメバチ」の寄生方法を紹介しましょう。
その支配力は半端ではありません、完全に寄生宿主を自身のコントロール下に置いてしまうのです。
この「クモヒメバチ」は、2015年8月に神戸大学研究チームによって謎の生態が初めて明らかになった寄生生物でもあるのです。
「クモヒメバチ」は、ジョロウグモなどの大型のクモにそっと近づき背中表面に卵を産みつけます。
孵化した「クモヒメバチ」の幼虫は、クモの体表から体液を吸い続けます。
しかし、クモは不思議な事に「クモヒメバチ」の幼虫が、自身と同じくらいの大きさになっても普段と変わらず捕獲した昆虫の体液を吸い「クモヒメバチ」の幼虫にエネルギーを補給し続けるのです。
更に賢いのは、「クモヒメバチ」の幼虫はクモの健康状態を把握しながら、殺さない程度に体液を吸い取る量を調整しています。
ここで、何故寄生されたクモは、「クモヒメバチ」の幼虫を外そうとしないのかなどのメカニズムに関してはいまだに解ってはいません。
他の寄生蜂のように一種のホルモンを使っているのではないかという仮説のもとに、その存在を突き止めようと各所で研究されています。
さて、成長した「クモヒメバチ」の幼虫は蛹になる頃、恐ろしいマインドコントロールをクモに仕掛けます。
それは、寄生されたクモは今まで使っていた捕獲用の巣を捨てて、更に高い場所に新たに巣を作るのです。
この巣は、本来クモが脱皮する時に作る丈夫な巣で、太くて強い縦糸だけで作られ捕獲用のネバネバした横糸はありません、また糸くずのような細い糸で中央部分を覆うように飾り付けをします。
この脱皮用の巣が完成した瞬間、「クモヒメバチ」の幼虫はクモの体液をすべて吸いつくして殺してしまいます。
その後、糸くず様の中央部分から糸を垂らして自身の繭を作り蛹になるのです。
ここで、神戸大学研究チームは驚くべく事実を付きとめました。
この脱皮するためのクモの巣は、丈夫な縦糸と中央の糸くずのような糸のすべてが紫外線を反射するというのです。
また紫外線を反射することで、鳥などの天敵から身を隠すための仕掛けであったことが解ったのです。
つまり、「クモヒメバチ」の幼虫は、成長段階ではクモに捕獲用の巣で虫を捉えさせてはその体液をクモから間接的に吸い取り、蛹になる頃には天敵から身を守れる安全な巣を新たに作らせていたということになります。
クモが寄生されている事を何故解らないのか、そして新たな脱皮用の安全な巣を作らせるのか、そのマインドコントロールのメカニズムは現在まったく解明されていません。
ここで、これまでの寄生の話と同様の大きな疑問が起ります。
何故、「クモヒメバチ」はクモの生態や巣の構造を知ることができたのでしょうか?
不可思議な事実が調査を繰り返すうちに多数出てきます、そして謎は深まるばかりです。