2021年8月29日 00:00
動物界に起こる不可思議な現象、その多くに「寄生」という生態が隠されていました。
寄生生物での昆虫版の多くは蜂類でした、今回は更に身近な日本にも生息する寄生生物を紹介しましょう。
それは「ハリガネムシ」です、成虫になれば1メートル近くにもなる直径僅か1ミリほどのミミズのような細長い水生生物が自然界には存在しています。
「ハリガネムシ」は体表成分であるクチクラにより、死後乾燥すると硬い針金のようになるところから命名され、水中ではまるで泳ぐ糸のように体をくねらせて移動します。
この「ハリガネムシ」も寄生先の宿主にとんでもない行動を引き起こさせます、それは何と水中への飛び込み自殺という行為なのです。
「ハリガネムシ」のメスは糸くずのような卵塊を産みます、1~2ヶ月後にこの卵塊から孵化した幼虫は川底で生息しカゲロウなどの幼虫に食べられてしまいます。
これが第一段階の寄生です、カゲロウなどの幼虫に取り込まれた「ハリガネムシ」の幼虫は、身体の先端に在るノコギリ状の器官を使いカゲロウの幼虫の腸内に侵入するや否やシストと呼ばれる冬眠状態となり、ある時をじっと待ちます。
シストとは寄生生物に多く見られる状態で、硬い殻を作り冬眠することでマイナス30度でも死ぬことはありません。
シストの状態でカゲロウの幼虫の中で生息し続ける「ハリガネムシ」は、カゲロウが成虫になり陸上昆虫であるカマキリやコオロギなどに捕食されるのを待ちます。
寄生先であるカゲロウが捕食されると、今度はカマキリやコオロギなどの陸上昆虫の腸の中でシストから目覚め成長します、これが最終寄生先となる第二寄生です。
さて、ここからが寄生虫「ハリガネムシ」の本領が発揮されます。
カマキリやコオロギの中で成長した「ハリガネムシ」が、どうやって本来の生息地である水中に戻るのでしょうか?
その答えは、カマキリやコオロギをマインドコントロールし水中への飛び込み自殺を誘導させているのです。
最終寄生先である宿主の中で成虫になった「ハリガネムシ」は、宿主の脳に侵入しタンパク質状のホルモンを注入します。
このホルモンを注入された陸上昆虫は池や川などを探し求め、見つけると同時に水面に飛び込むのです。
宿主が水面に着いた瞬間に、成虫になった「ハリガネムシ」は宿主の表皮を破って素早く水中に泳ぎ出ます。
多い時には、何匹もの「ハリガネムシ」がカマキリやコオロギの体表から湧き出てくるといいます。
さて、こんな恐ろしい寄生生物の「ハリガネムシ」は、最近になって自然環境を保護する益虫ではないかという論文が発表されました。
それは、イワナやカワマスの捕食する昆虫の何と60%以上が「ハリガネムシ」に寄生された水面飛び込み昆虫なのだということが調査の結果解ったのです。
つまり、陸上昆虫が「ハリガネムシ」によって水面に飛び込み、イワナやカワマスの餌になることで水中昆虫が捕食されずに川や池の食物連鎖が保たれているのだというのです。
その結果水草や藻が生え、更にはその水草や藻によって水中プランクトンが活性化し川や池の浄化が促されるのだといいます。
「ハリガネムシ」が寄生した昆虫が水面に着いた瞬間に抜け出すのは、イワナやカワマスに捕食する前に脱出する必要があるからです、捕食されてしまった場合は捕食者の腸内で宿主と一緒に消化されてしまいます。
ここでも、何故そういった生態を予め知ることができたのかということです、遺伝子だと言ってしまえば終わります、問題はその遺伝情報をどうやって子孫に繋いでいるのかということです、なぜなら魚に捕食されれば死んでしまうのですから。
しかし、陸上昆虫に寄生する寄生生物が自然環境保護を促す食物連鎖までコントロールしていたとは驚かされます。
でも、こんな例はまだまだ氷山の一角なのです。