2026年3月13日 10:00
前回は、2つのMOSFETがシーソーのように動く「プッシュプル構成」について解説しました。 これは「ハーフブリッジ」と呼ばれる最もシンプルな形ですが、実は高級機やハイパワーなD級アンプではこのセットを2組組み合わせた「フルブリッジ」構成が主流となっています。 このフルブリッジではスピーカーを両側からプッシュプルで駆動するため、同じ電源電圧でも理論上の出力は4倍にもなります。
ハーフブリッジではスピーカーを守るために音の通り道に巨大なコンデンサ(直流カット用)というフィルターを置かなければなりませんでした。 しかし、これは音の純度を損なう原因でもありました。 なぜコンデンサが音を汚すのか。 コンデンサが交流信号に対して示す抵抗成分である容量性リアクタンスXcは、次の数式で表されます。
Xc = 1/(2πfC)
この公式において周波数を指すfが分母にあることが最大のポイントです。 ベースやドラムなどの低い音になればなるほど分母が小さくなるため、結果として抵抗値である Xcは大きくなります。 つまり低音に対しては抵抗が大きくなることで、スピーカーへ届くはずのエネルギーが損なわれてしまうのです。 さらに厄介なのはコンデンサには電気を蓄える性質があるため、信号が通り抜ける際にわずかな待ち時間が生じることです。 低音ほどこの「溜めてから放す」という工程に時間がかかるため高音はすぐ届くのに低音だけがもたつくという音の高さによるタイミングのズレが生じます。どんなに高価なパーツを選んでもこの制約からは逃れられず、それが音像のぼやけや低域のキレのなさとして現れてしまいます。
フルブリッジ構成はこの問題を根本から解決しました。 スピーカーを挟んで左右のスイッチが連動し互いの電圧を打ち消し合わせることで直流成分をゼロに保つため、コンデンサを回路から物理的に排除しスピーカーとアンプを直結できるのです。 遮るもののないダイレクトな駆動は計算上のロスをなくすだけでなく、これまで音をぼやけさせリズムのキレを奪っていた原因を根本から取り除きます。
さらにこのフルブリッジ構成は、本来は必須だった外部のLCフィルター(コイルとコンデンサ)さえも省いてしまうフィルタレス技術を可能にしました。 フルブリッジによる精密なスイッチング制御を行うことで、スピーカーのボイスコイル自体が持つインダクタンスをフィルター代わりに利用できるようになったのです。