コケ類は実に多様な容姿で葉寸も数ミリから10センチほどと幅が広く日本だけで生息が確認されているだけで1,700種を超えます、しかし多くの日本人がイメージするコケは間違いなくホソウリゴケかギンゴケだと思います、ホソウリゴケとギンゴケは日本全土だけではなく海外のどこに行っても見かけるハリガネゴケ科のコケで地球上に最も広く生息しているコケだと思います。
中でもホソウリゴケは道路の脇やビルの隙間と本当にどこにでも生えています、しかし他のコケの多くが生息地としている山林や川の淵などには不思議と生えていません、つまりハリガネゴケ科のコケは山林ではなく過酷な環境の人里に生息することで種を保存するように進化したコケだと言えます。
ハリガネゴケ科のコケは乾燥や直射日光にめっぽう強く、ホソウリゴケは茶色か黒色になり仮死状態で何年間も生きられます、そして雨が降って水分を取り込むとあっという間に緑色に変色し脇芽を出して成長していきます、逆に他のコケ類には最適な環境の湿気のある半日陰では蒸されたように葉が黄色になり腐ってしまいます。
どこにでも生えているホソウリゴケ
多くの人のコケのイメージがこういう感じだと思います


ホソウリゴケなどのハリガネゴケ科のコケは一つ一つの葉は極めて細く短いのですがドーム状にコロニーを形成しながら生息域を広げていきます、そのコロニーの中心部は枯れた葉でできておりスポンジ状の構造になっています。
つまりこのスポンジ状の構造で土埃を捉え水分を保持しながら活着して風に飛ばされないようにしているのです、こういった知恵を獲得したホソウリゴケだからこそ人里で生息できるのだと思うのです。
コロニーを形成して種の保存を行うホソウリゴケ

さてこのホソウリゴケの利用価値ですが加湿に弱いのでテラリウムなどには不向きです、逆に盆栽や盆景では乾燥に強く表面の土が乾くのを防いでくれるので昔から多用されています、したがってホソウリゴケの購入はテラリウムショップではなく園芸店や盆栽ショップになります、ネット販売でも安く大量に購入できます。
過酷な環境で生息するホソウリゴケは各種の書籍に室内で繁殖させるのはほぼ不可能だと書かれていますが私は標本にしているし他のコケと異なる管理をして室内繁殖にも成功しています、上手に完全成長させたホソウリゴケはまるで別物のように薄緑色に輝く美しい姿を現します、見た目も触感もビロードのようでとても自然界に生息している植物とは思えません。
室内繁殖でも完全成長を遂げてくれたホソウリゴケ

一つだけ注意点としてどこにでも生えているコケにお金を払いたくないと自分で採取することは止めた方がいいです、これはどのような植物にも適応される事項です、何故なら家に持ち帰り水を与えた瞬間に虫が湧いてきたり寄せ植えした他の植物にカビが生えたりするからです。
コケはあくまでも盆栽に使うとしても清潔な環境で育てられ出荷前に洗浄消毒された安全なものを使いましょう、支払ったお金はコケ代ではないのです、安全にコケと愉しむための保険料なのです。
ホソウリゴケ(拡大)
葉の大きさと軸の細さはおそらくコケ類最小

大小の筒形ボトルに入れた標本型コケテラリウムが現在多数売られています、小さなものでは試験管に大きなものでも直径12Cmほどのロングシャーレ型のガラス容器で造られます。
価格はコケの種類によって異なりますが、一番安い直径2Cmほどの試験管型で1~2,000円ほど、ロングシャーレ型では3~5,000円ほどです。
私は生態観察記録を目的に新たにコケを入手する度に標本型コケテラリウムを造っています、今回はそういった標本型コケテラリウムのタマゴケ版です。
霧吹きで水を与えた際に細かな水滴を纏った薄緑色のタマゴケは光り輝き非常に綺麗なコケです、画像販売サイトでコケの画像を検索するとかなりの割合を占めるほどビジュアル的パフォーマンスが極めて高いです。
タマゴケは丸い玉のような胞子嚢を付けることから命名されたコケでコケテラリウムでもよく使われます、固体そのものが見ごたえがあるのでテラリウムでは他のコケと合わせるよりも本品のように装飾素材は何も使わずに単独で使われる場合が多いです、またレトロな小さな丸鉢にタマゴケだけを盛りコケ盆栽として盆栽業者が売り出している例もあります。
ちなみにタマゴケの綺麗な胞子嚢は適度な湿度が保たれる容器の中ではほとんど見ることができません、どうしても見たい場合はコケ盆栽のようにオープン容器で育て枯らし気味にしておくと気温が下がる時期に胞子嚢を付けてくれるでしょう、ただしコケを過酷な環境に置いていじめるのはお薦めしません。
タマゴケを使った標本型コケテラリウム
上手く育てば1年でシャーレいっぱいに広がるので中央に一つまみほど入れるのがコツ

タマゴケ(拡大)
フサフサと茂る感じが心地よい

☆創作ノート
・コケ タマゴケ
・ソイル コケ専用ソイル(華みやび)、アクアリウム用洗浄済小石(GEX)
・ケース ロングシャーレ(9Cm長)
都内のビル玄関前にオシャレにレイズドベッドされた小さなコケ庭を見つけました、小さな石をいくつか並べて隙間なくコケでグランドカバーされています、環境から考え最初ホソウリゴケかと思ったのですが光の反射加減が異なるので近くに寄ってみたら何とホソバオキナゴケでした。
ホソバオキナゴケはアラハシラガゴケと共にヤマゴケの通称を持つコケで山形の小さなコロニーを形成して広がっていきます、自然界ではこのように広い範囲を覆いつくすような姿をほぼ見ることがありません、したがって人工的に作られたコケ庭だということが解ります。
またホソバシラガゴケはコケの中では乾燥に耐性があるほうですが、とはいえ雨が少なく暑い都内の夏は相当厳しい環境です、その意味では北側に設けられたこのレイズベッドなコケ庭は理想的なシェードガーデニングの見本のような作りです、当然こういったテクニックを駆使しているのでガーデニングのプロの手によるものだということがすぐ解ります。
あと落ちている枯葉を見て解ったのですが、作りたての頃はアクセントに蔓性のシダ類であるヒカゲノカズラを一緒に植えていたのだと思います、創作当初はきっと綺麗な緑の絨毯のようなコケ庭だったのでしょう、雨に濡れたホソバオキナゴケは毛並みのよい動物の皮膚のようで大変綺麗です。
ホソバオキナゴケと小石を使った小さなコケ庭

ホソバオキナゴケ(拡大)
遠目ではホソウリゴケのようでも近くで見ればまるで異なる容姿

オープンなガラス製の水盤にコケを入れただけという最も簡単で手軽なコケテラリウムを紹介します、創作テクニックも特別な道具も不要で費用も最も安価に創作できます、ネット通販サイトでもガラス水盤にカラージェルビーズとコケをセットにしただけのシンプルなコケテラリウムキットが2~3,000円で販売されておりコケの魅力に惹かれたら早速創作してみたら如何でしょう。
コケの維持育成には適度な湿度が不可欠です、その意味ではオープンな容器は実はコケにとって極めて過酷な環境となります、そのためハイドロカルチャー(半水耕栽培)に用いるハイドロボールを容器の下に敷き常に水を底面に溜めて乾燥するのを防いでいます、最初コケテラリウム専用ソイルを敷いたのですが季節によっては1日持たずにカラカラに乾燥してしまいました、そこで急遽この方式に変えました。
この方式に向くハイゴケやシノブゴケを購入して茶色くなっている仮根部分を全てカットして緑色の部分だけを水洗いを施してハイドロボールの上に載せるだけで完成です、メンテナンスはコケの上からスプレーで1日1回水分を与えるだけです、ちなみにこの方式で維持育成できビジュアルもよいコケはハイゴケやシノブゴケなどで鑑賞しながら繁殖も楽しめます。
コケを置くだけでは物足りないという人は小石や動物のフィギュアを飾ったりハイドロボールの上に不織布を被せて化粧砂を敷くとビジュアル的に一気に本格的なコケテラリウムのようになります。
オープンなガラス製水盤で創作した誰にでもできる最も簡単なコケテラリウム
たったこれだけのことでも身近に生命体を感じられるのが不思議です

シノブゴケ(拡大)
シダ植物のシノブに似た涼しげなコケで見た目もよく人気が高い
繁殖が容易で盆栽にもテラリウムにも使えるため栽培している苔農家が多い

☆創作ノート
・コケ シノブゴケ
・ソイル ハイドロボール(リビングファーム)
・ケース ガラス製水盤
某所に今春購入した庭と畑付き物件の奥行4m・長さ20mという細長い庭には綺麗に剪定された樹木類と共に日陰になる場所に山野草やシダ類が多数植えられていました、その中に多数のシダ類のトキワシノブが確認できます。
ちなみにこの庭ですが購入直後から大幅なリノベーション工事が始まり未だに終了していません、外装もまだなので足場が邪魔して雑草を抜くのが精一杯のメンテナンスでなかなか大幅整備ができないので現在荒れ放題になっています。
細長いの庭の一部①

細長い庭の一部②
どこまでも切れ目無く続く細長い庭です

さてトキワシノブの原種は冬になると葉を落とすシダ類のシノブですが、年中常緑を保つ園芸シダに改良され昔から園芸ショップや盆栽ショップで鉢植えは勿論のことコケ玉シノブや吊るしシノブなどに加工され大量に売られています。
それなりの価値のあるトキワシノブですが、これだけの各種のスタイルで庭に生えていると雑草に見えてくるので不思議です、でも夏には涼しげな容姿になるので元オーナーが大量に植えたい気持ちも理解できます。
大きな庭石の脇に大量に植えられたトキワシノブ
おそらく庭全体で鉢に植え直せば園芸店で売られている中鉢で100鉢は軽く超えるのではないかというくらいの迫力の量です

直径50Cmくらいの超大鉢に植えられたトキワシノブも放置されている
鉢ごとどかんと地置きされており鉢の外にも根を下ろし他の植物を侵食しています

大鉢植えのヤシ類の幹にもびっしりと張り付いたトキワシノブ
これが本来の自然界で見られるシノブの自然な姿です
その意味では価値ある園芸素材なのですがヤシ植物が枯れかけているのと大きくなりすぎて傾いており他の植物に害を与える可能性があるので実にもったいないのですが早々に廃棄しました
