
D級アンプはデジタルアンプと混同されますが、その本質は電気が通る道を物理的に切り替えるスイッチング動作にあります。
D級アンプの回路の入り口にはコンパレータという比較器があります。 ここで音楽信号と一定の周期で刻まれる三角波の信号をぶつけ合わせます。 音楽の電圧が三角波より高いときはプラスの電圧を、低いときはマイナスの電圧を出し、パルス状の信号を生みだします。 これがパルス幅変調(PWM)と呼ばれる工程で音の強弱をパルスの時間の長さに置き換えています。

このPWM信号は次の二つのパワーMOSFETへと送られます。 回路構成は電源のプラス側とマイナス側の間に二つの素子を直列に配置したプッシュプル構成とっています。 これは一方のスイッチが閉じればもう一方が開くというシーソーのような動きです。 上のスイッチがONのときは正電源からスピーカーへ電流を送り出すプッシュの状態となり、逆に下のスイッチがONのときはスピーカーから電流を吸い込むプルの状態となります。
ここでA級アンプとの違いが現れます。 A級アンプは引き込みの局面でも上の素子から電流を流し続けその差分で制御していましたが、D級アンプは上のスイッチを完全に切り離して下のスイッチだけで道を作ります。 MOSFETを完全にONかOFFの状態だけで動作させるため、A級のように素子自体が抵抗となって熱を出す無駄がほとんどありません。 このスイッチングによって作られた高電圧のパルスを出口のLCフィルターに通すことで余分な高周波を取り除き、再び滑らかな音楽の波形へと復元してスピーカーを鳴らしています。
この仕組みにおいてアンプがスピーカーをどれだけ正確に制御できるかを示す指標がダンピングファクターです。 スピーカーのボイスコイルは慣性で動く際に自ら発電機となり、アンプ側へ電流を押し返す逆起電力を発生させます。 D級アンプのプッシュプル回路は音楽信号がない瞬間であっても常にどちらかのMOSFETが低い抵抗値でONの状態にあります。 特にプルの状態で下のスイッチがONになっているときはスピーカーの端子がグラウンドに直結された状態になります。 スピーカーが勝手に動こうとして逆起電力を発生させても、このON状態の道が巨大な逃げ道となって電流を速やかにバイパスしてします。 この低い出力インピーダンスが強力な制動力となり、ボイスコイルの不要な揺れを瞬時に止めて引き締まった音の立ち上がりを実現しています。

オーディオアンプの性能のひとつにダンピングファクターというものがあります。 一言で言えばアンプがスピーカーの暴走をどれだけ抑え込めるかという指標ですが、その正体はスピーカーとアンプのインピーダンスの比率にあります。
低音を出したときスピーカーの内部では次のような動きになっています。 まずアンプからの電流を受けたボイスコイルが磁界の中で突き出され大きな音が鳴ります。 しかし信号が止まった後も重さのある振動板とボイスコイルは慣性によって急には止まれず、元の位置を通り越して「いったりきたり」と揺れ続けようとします。
この「行き過ぎ」が発生した瞬間、ボイスコイルは磁界の中で動くことで自ら電気を作る発電機となり、アンプ側へ逆向きの電圧(逆起電力)を生み出します。 ここでアンプの出番です。 アンプ側のインピーダンスが低くこの電気をスムーズに受け入れられる状態にあると、ボイスコイルには一気に大きな電流が流れます。
電流が流れた瞬間ボイスコイルには「今の動きを止めようとする逆向きの力」が発生します。 これがいわゆる電磁ブレーキです。 アンプが出口を広げて電流を一気に流させるほど、この逆向きの力は強烈なカウンターとなって「行き過ぎ」の被害を最小限に食い止め、無駄な揺れをピタッと収まるのです。
設計の異なるアンプを比較するとこのブレーキの掛け方の違いがよくわかります。 D級アンプは出力素子の低抵抗化と制御技術を駆使して出口のインピーダンスを極限まで低くし、強烈な制動力でキレの良い音を作ります。 対してA級アンプは素子に常に大きな電流を流しっぱなしにすることで出口を電気的に常に開放しており、補正に頼らずとも素子そのものの動作状態で常にブレーキをかけ続けている安定感があります。
ただしアンプ側のインピーダンスがどれほど低くなってもブレーキには物理的な限界があります。 スピーカー側にはボイスコイルそのものが持つ数オームの抵抗が立ちはだかっているからです。 どんなにアンプが出口全開で電流を流そうとしても、スピーカー側の入り口が狭ければ流れる電流の量は頭打ちになります。
結局のところダンピングファクターとは単なる数値の競い合いではなく、スピーカーが発電した余分なエネルギーをアンプがいかに澱みなく流し逆向きの力を発生させて音の余韻をコントロールできるかという、制動の質の指標と言えます。

A級アンプの特性はその回路構造と電流の制御方法にあります。 下記の回路図はA級アンプの出力段の基本的な回路です。 上側に信号を制御するトランジスタQ1、下側に常に一定の電流を引き込む定電流源を配置したシンプルな構成です。

この回路の動作は下側の定電流源Iccが常に一定量の電流(Icc)をグラウンドへ引き込み続けている点がポイントです。 増幅動作はこの一定の引き込み量に対して、上側のトランジスタがどれだけの電流(Ie)を供給するかというバランスの変化によって行われます。
図の左側のように入力信号がプラスの場合、トランジスタは定電流源が求める以上の電流を流します。 そのあふれ出た余剰分がスピーカーへと押し出されます。 一方、図の右側のように信号がマイナスの場合、トランジスタは流量を絞ることになります。 すると定電流源への供給が不足するため、その不足分を補う形でスピーカー側から電流が引き戻されます。
つまりアンプとは、プレイヤーから届く微弱な音の波形(Vin)を司令塔とし、電源(Vcc)からの大きな電気エネルギーをその通りにコントロールして、スピーカーを駆動する流れを作っているのです。
ここでスピーカーから電流を引き戻すマイナスの局面であっても、上側のトランジスタは完全に閉じず、常に電流を流し続けているという点が特徴です。 いかなる瞬間も素子がOFFにならないため信号のつなぎ目が存在せず、原理的にスイッチング歪みが発生しません。 この「常時導通」がA級アンプの定義となっています。

オーディオ機器にはアンプと呼ばれるものがあります。 アンプはプレイヤーなどから出力された音の電気信号を増幅しスピーカーを鳴らすための信号を作る機器です。 アンプにはいくつかの種類があります。 基本的な区分として、プリアンプとパワーアンプがあります。
プリアンプは音の電気信号を調整する段階のアンプです。 入力の切り替えや音量調整、左右スピーカーのバランス調整などを行い、主に信号のレベルを整える役割を持ちます。 プリアンプは単体ではスピーカーに接続されず次のアンプへ信号を送ります。
プリアンプの次につながるのがパワーアンプです。 パワーアンプはプリアンプから送られてきた電気信号を受け取りスピーカーを駆動できるように電圧と電流を供給し、結果として電力をスピーカーに与えます。 パワーアンプからスピーカーに信号が送られ音が発せられます。 またプリメインアンプというものもあります。これはプリアンプとパワーアンプを一つの筐体にまとめたアンプです。
これらのアンプには動作クラスと呼ばれる分類があります。 A級、AB級、D級といった呼び方は主に出力時の増幅方式によるものです。
A級アンプは増幅素子を常に動作状態に保つ方式です。 信号の有無にかかわらず電流が流れるため消費電力が大きく発熱が多くなります。
B級アンプは効率を高めるためにプラス側とマイナス側を別々の素子で増幅する方式です。 ただし信号の切り替わり付近で歪みが生じやすいためオーディオ用途では単独で用いられることはあまり多くありません。
AB級アンプはプラス側とマイナス側の切り替わり付近のみをA級動作にする方式です。 これによりB級で問題になりやすい歪みを抑えつつ効率も確保します。 現在のオーディオ用アンプではこのAB級が広く使われています。
D級アンプは電力効率が高い方式のアンプです。 一般的にはPWM(パルス幅変調)などのスイッチング技術が用いられ、出力のスイッチング素子とローパスフィルタによって音声信号を取り出します。
まずはそれぞれのアンプがどのような構成で動いているのかを順に調べていきたいと思います。