2021年9月 5日 00:00
動物界に起こる不可思議な現象、その多くに「寄生」という生態が隠されていました。
寄生生物で最も多い種が扁形動物(へんけいどうぶつ)で、消化器官や循環器官を持たない為、他の動物に寄生することで身を守り種を保存する能力を獲得したことを前回お伝えしました。
今回は、この扁形動物の中でも代表的な寄生生物である「サナダムシ」(条虫)の恐るべき戦略をお伝えします。
「サナダムシ」の最終宿主は鳥類や哺乳類で、人間にも寄生するので知らない人はいないでしょう。
成虫になると10mを超すものも珍しくなく、リボンのような薄平たい体表全てを使って宿主から栄養を吸収し成長します。
この「サナダムシ」は最終宿主の体内で卵を産み、その糞を微生物が食べ転々と宿主を変えながら最終宿主へ辿りつくために各種の戦略を駆使します。
この「サナダムシ」の、転々と宿主を変え最終宿主へ辿りつくための戦略の一つがフランスの2人の科学者によって近年解明されました。
その方法とは、最終宿主に食べてもらうように中間宿主の生態そのものを変異させてしまうというものです。
フラミンゴなどの水辺で餌を啄ばむ鳥類は、好んでエビやエビに近い近縁種を探して捕食します。
この中にブラインシュリンプという体長1ミリほどのエビの仲間がいるのですが、時々半径数メートルにも及ぶ群れを作り体表が本来は白なのに群れをなす時には赤く染まり鳥類に発見されやすいようにするのです。
この原因こそ、「サナダムシ」の最終宿主へ辿りつくための戦略だったのです。
鳥類の糞に混ざっている「サナダムシ」の卵をミジンコなどの微生物が捕食します、その微生物をブラインシュリンプが捕食するとブラインシュリンプの体内で卵が孵化して幼虫になります。
この際に「サナダムシ」はブラインシュリンプの体表を赤く染め群れをなすようにコントロールするのです。
さて、このブラインシュリンプの変異を研究中に同時に別の寄生生物も発見されました。
それは「微胞子虫(びほうしちゅう)」という単細胞の真核生物で、サナダムシに寄生されたブラインシュリンプには必ず2種類の「微胞子虫」が存在していたのです。
この「微胞子虫」も実は他の動物の細胞に寄生する寄生生物で、勿論鳥類や人を含めた哺乳類にも寄生した例が報告されています。
この2種の「微胞子虫」と「サナダムシ」の関係性などについては、今後解明されていくことになると思います。
現時点て考えられる仮説として一つは「微胞子虫」と「サナダムシ」の共生、もう一つはどちらかが自分の有利になるように支配下に置くようにコントロールして活用しているということです。
何れにしても、寄生生物の支配戦略は驚く事ばかりです。