リーマンショック後に経済誌やテレビなどで「100年に一度のピンチは100年に一度の大チャンス」という経済評論家が後を絶ちませんでした、みなさん口をそろえて投資や会社建て直しの好機と説いていました。
私は天邪鬼(あまのじゃく)なのかこの言葉を聞くたびに「景気回復は相当延びるな」と思っていました、結果更に10年以上も低迷が続きました、これは私の予想よりもはるかに長い景気低迷期でした。
投資の世界で俗に言う「ブル/ベアの錯誤」は確実に景気判断にも生きています、「ブル/ベアの錯誤」とは強気派(ブル)が多数になると景気低迷し、弱気派(ベア)が多数になると景気回復するという状況と心理が不一致を起こすというものです。
オイルショック・バブル経済崩壊・リーマンショック(サブプライムローン壊滅)と、綺麗に約20年単位で景気が厳しくなると冒頭の話しが出ます。
その結果どうでしょう、予想をはるかに超える長期不景気が訪れています、バブル崩壊の後遺症はなんと12年も続いたのです。
この裏にいったい何が潜んでいるのでしょうか、土地が下がる、株が下がる、一流企業が赤字転落する、このときマスコミや評論家は常に「景気の底」と言ってきました。
そしてそれを信じて最後の賭けをする人が増えます、相場が上がることを信じて損を補う為に残った財産を投入するのです。
しかし現実は非情にも予測通りにはなりません、土地や株を買う人が増える一方で不良資産を抱えている企業や投資家は揃って売り逃げを仕掛けて損失を最小限に確定しつつ不良資産を解消し身軽になっていくのです。
そして、企業の確定売りが一巡して買い手がいなくなったとき「底なしの暴落=本格的な不景気」が始まるというのが相場シナリオの定石です、個人は売るにも売れない状況になりあっという間に資産が減少します、そして他の商品も買い手が付かなくなり巷には物が溢れ価格も暴落し恐ろしいデフレが発生するのです。
日本の会社の99%は中小企業です、その経営者がこういう事態に巻き込まれたらその会社はどうなるのでしょうか?
景気が一旦悪くなると大企業のリストラが盛んに行われます、一度に数千人という規模ですから大きなニュースになります、しかし中小企業の倒産が相次いだら1社当たりは少ないのですが数千社となれば大企業の比ではない失業者が発生します。
景気回復の直前が最も厳しい不景気になるという統計があります、それに照準を合わせて大企業は保有資産の確定売りを仕掛けてきます。
「100年に一度のピンチは100年に一度の大チャンス」などではありません、「100年に一度のピンチは現存する人類が一度も経験したことがない程の恐ろしい究極のピンチ」なのかもしれません。
変な期待を持たず当面の経済状況は最悪の状況であることをまず認めることが肝要です、そして景気低迷期は事業の成長を仕掛けるときではなく体力を温存しつつ次の春に向けて培ってきた種をベースに次代にくる好景気に合わせて新たなる事業を作るときなのです。
場合によっては古い体質や陳腐化した事業を手放す絶好のタイミングでもあるのです、厳しい現実を潔く認めることができるのが真の「強い」リーダーなのです。
どの企業にも何でも器用にこなす人がいます、発想が豊かでいろいろな事を知っていて話も上手く周囲からも好かれます。
企画・営業・コンサルティングにマネジメントと何をやらせてもそれなりの結果を出します、こういう人を俗に「マルチプレーヤー」もしくは「ゼネラリスト」などと呼びます。
しかし事業推進上で大問題が発生したり企業そのものが破綻するというような危機的状況のとき、彼らは一切の能力を発揮できない場合が多々見受けられるのも面白いポイントです。
いざという時に頼りになるのは実は器用に何でもこなす「マルチプレーヤー」や「ゼネラリスト」ではありません、絶対的な手法や技術と勘を持っていて限られた分野に関しての経験は人一倍という職人的な専門家です。
一旦取り組めば他の誰をも入り込む余地さえ与えない、完璧な問題解決能力を有する彼らは「スペシャリスト」と呼ばれます。
「マルチプレーヤー」や「ゼネラリスト」は平和な時であればスターです、しかしいざという時には何の役にもたたないのです、そしてその分野に絶対的な力を発揮する「スペシャリスト」が不可欠なのです。
器用な「マルチプレーヤー」や「ゼネラリスト」は何処にも沢山居ます、しかし「スペシャリスト」はそう多くは存在しない貴重な人材です。
絶対的かつ圧倒的な問題解決能力を持つ「スペシャリスト」を得ることができるかどうか、それが経営者の真の実力が試される瞬間でもあるのです。
「スペシャリスト」は自分を完全に理解し正確に評価できない人の下では絶対に仕事をしません、その結果どうなるのかをよく解っているからです、ビジネスでは「人間関係や信頼関係、つまり人徳が何よりも重要だ」と言うのはこういうことです。
人間誰しも万能ではありません、強い絶対的なブレインが何人存在するかがその人としての人徳であり真の実力でもあります、もっとも「ゼネラリスト」でありながらも特定の分野においては「スペシャリスト」という人はダントツの経営能力を発揮する人でもあります。
リーマンショックで低迷にあえいでいたトヨタの「強い」リーダー達が奮起しました、新社長誕生へのご祝儀なのか、なんと2200人の管理職や役員が自社の新車を購入することを自立的に決めたのです。
年初の部長会で決議したのですが役員も同調しました、強制ではなく自主的というのがすばらしいと言わざるを得ませんでした、そして事実上の組織の要である部長クラスが自ら決めたというのが重要なのです。
こういうムードは確実に全社に広がるものです、「強い」リーダーには不可欠な要素である「無言の姿勢を示した」わけです、その後のトヨタはあっという間に復活を遂げました。
リーマンショック後には世界的な自動車業界の不振が伝えられましたがトヨタも例外ではありませんでした、しかしトヨタは販売台数世界一をその後も堅持することに成功しました。
世界一に胡坐をかかずに危機感を共有するリーダーの姿勢は必ず全社に広がり、そして結果に現れるものなのです。
今は無き三洋電機が同様の行動を行った記憶があります、その後経営陣も積極的に子会社売却などで最悪の状況を打破し見事にパナソニックとのM&Aを成功させました。
会社は事実上無くなるが事業や技術は受け継がれ何よりも全社員が守られた、それが経営者の最大の責任の取り方というものです、辞任するのは潔いのではなく最悪の逃げにすぎません。
切羽詰まった人から相談を受けるとき、その人の器量が見事に浮き彫りにされます、人の上に立つ者とは切羽詰った人が「会いたい」と言ってきた場合に何をまず考えなければならないでしょうか。
経験上そういう場合の相談者は、「具体的な収穫を会うことによって確実に獲得したいと思っている」と考えてあげることが相談される者の責任というものです。
相談する方は具体的な欲求があるのです、例えば仕事の紹介、経済的なこと、起業の方法など欲しいものは決して「アドバイス」など曖昧なことではありません。
もしも他者の相談に対して具体的な収穫を与えることができないのであれば会わないことです、そして「気楽に相談できる人」という「良い人」を常日頃から演じないことです。
「嫌われたくないから」、「良い人に思われたいから」などという下心で会って、話を聞いてあげただけで帰すようであればリーダーというよりも人間として失格です、間違いなく周囲から「いざというとき背中を向ける冷たい人」だと思われるでしょう。
また、「答えは自分の中にある、それを引き出すのが私」という考えの人は他者の相談に乗るべき人ではありません、ましてそれを生業にするなどもっての外です。
「答えは自分の中にある」、これはセミナーなどでの不特定多数の人に対しての言葉です、決してマンツーマンでの相談の答えにはなりません。
このような考えの人は常に自分を安全な場所に置いておいて相談者の決定に対しては責任を取らないという、結局は器が小さい「偽善者」なのです。
切羽詰った相談には覚悟をもって具体策で答えることが肝要です、例えば仕事を用意する、お金を貸してあげる、無料で支援するなどです。
「強い」リーダーとは、相談者の状況を瞬間的に察してあげて自分の立場など自己都合を排除して相談者に具体的な収穫を与えることです。
どんなアドバイスをしようが結果が全てです、人間とはいざというときに本当の器量が表面化するものです。
もっとも相談する方も見た目や平時の姿を信じるのではなく、本質的な人間性を冷静に判断し本当に徳のある適切な人に相談することが肝要だと思います。
「強い」リーダーは決定したことに対して責任を持ち他のメンバーに模範を示す必要があります、その姿勢と行動に組織が一つに纏まるのです。
「強い」と「優秀」は異なる次元という意味がここにあります、「強い」リーダーはメンバーの人数に関わらず組織を一つに纏めることが肝要です。
それを他の人に任せるべきではありません、あくまでもリーダーとしての務めを果たさなくてはなりません。
記憶に久しい日本航空(JAL)の経営再建、当時その音頭を取ったのが最高経営者の西松社長その人でした。
西松社長は徹底したコスト削減とサービス向上を自ら全社に示しました、それに伴い自身の役員報酬を地上業務部長よりはるかに低い年俸960万円に設定したのです、これは上場企業の社長の平均報酬の25%です。
そして組織のスリム化として意味の成さなかった社長室を廃止、送迎の社用車も廃止し通勤には社員と同じようにバスを利用しました、また昼食も社員と同じ社員食堂を利用し社員と共に列に並び自分で会計を済ませたのです。
これを社員たちは毎日見るわけです、社長自ら姿勢を示していたら他の社員も本気で取り組まざるを得なくなるというものです。
これについて来れないぬるま湯に漬かっていた幹部や管理職は辞めていきます、再建中の組織はそれで良いのです、自然なリストラは最高の経営手法なのです。
この姿が世界にニュースを発信するCNNに流れるや否や、ユーチューブにも投稿されコメント蘭には絶賛の声が寄せられたのです、そして見事にフラッグシップの座を守り再建を成功させました。
組織内に無言の「姿勢」で示す、どんな言葉を繰り出そうが「姿勢」に勝る「言葉」はありません、これが「優秀」とは違う「強さ」というものです。
自身の机周りの掃除や使ったものの後片付けを社員にやらせるような経営者に優秀な社員は付いていきません、自ら姿勢で示す、そしてその姿勢を見て何も感じない社員はやはり「強い」組織を作れる人ではありません。