2021年10月10日 00:00
植物界を代表する「片害共生」が「アレロパシー」であるなら、動物界を代表するのは「托卵(たくらん)」が最たるものかもしれません。
「托卵」とは、同種もしくは他種に自身の卵を孵化させるための世話やその後のヒナを育てる役目を押し付けるという、何ともちゃっかりした生態をいいます。
鳥類や爬虫類の多くの繁殖とは巣作りから始まり、孵化させヒナの飼育まで雌雄そろって仲良く行われるのが一般的です。
しかし、「托卵」はこのすべてを他者に押し付けてしまうのです、卵の世話を押し付けられた種を仮親と呼ばれます。
また仮親が同じ種の場合を「種内托卵」といい、他の異なる種に対して行われる場合を「種間托卵」と呼んでいます。
托卵でよく知られている鳥類は「カッコウ」で、ホオジロやモズの巣に卵を見つけるや否や卵を1つ生み仮親の卵を一つ落として数合わせを行います。
この際に「カッコウ」は、仮親の卵の色や模様を真似て怪しまれないようにする工夫までしています。
仮親ははるかに大きな卵であっても何故か疑いもなく温めます、また「カッコウ」は他の鳥類よりも孵化期間が短く仮親の卵よりも早く孵化します。
孵化した「カッコウ」のヒナは仮親の卵を意図して巣から落として仮親を独占することもあります、またこれは仮親の卵がヒナになった後でも行われることもあります。
仮親は不思議なことに、自分よりも大きな「カッコウ」のヒナにせっせと餌を運び成長して飛び立つまで育てます。
また「ダチョウ」や「ムクドリ」は、同種の巣にちゃっかり卵を生み落として同じ種の仮親に面倒をみてもらうという習性があり、「種内托卵」の代表格として知られています。
爬虫類での代表は「フロリダアカハラガメ」です、このカメはアリゲーターの巣に托卵をするという大胆な托卵を行います。
卵やヒナを敵から守り続けるアリゲーターの子を守る生態を熟知してのことなのでしょう。
魚類では、ナマズの一種の「シノドンティス・ムルティプンクタートス」は、まったく別の種のシクリッド族に卵を託します。
シクリッド族はマウスブリーダーと呼ばれる魚類で、口の中に卵を隠し孵化するまで口の中で育てます。
この習性を利用して「シノドンティス・ムルティプンクタートス」はシクリッドに卵を託すのですが、どのようなメカニズムでシクリッド族の魚類が仮親になってしまうのかは今のところ解っていません。
ただ、シクリッド族の魚類の口の中で孵化した「シノドンティス・ムルティプンクタートス」の稚魚は、シクリッド族の魚類の卵を食べて成長するのです、「片害共生」もここまでくると「寄生」以上に恐ろしいものがあります。
昆虫では、シデムシの一種である「モンシデムシ」が「種内托卵」を行う事で知られています。
ただ面白いのは「モンシデムシ」は孵化期間が違う幼虫を殺してしまう生態を持っています、自分の卵なのか他者の卵なのか同時孵化でしか見分けることができないのかもしれません、確率は50%の究極の二者択一の行為だと思います。
謎だらけの動物界の「托卵」はいったいどのようにしてこの生態を獲得してきたのか、これもまた詳しいメカニズムはほとんど解っておらず謎だらけなのです。