「そんなに凄いものなら、何故当社なの?」
これは自分のアイデアは「今までにないもので、絶対売れる」と企画書を持ってきたベンチャー企業の社長に私が発した言葉です、起業したてのベンチャー企業の多くはアイデアを企画書や事業計画書にまとめて資金調達を行うことが多々あります。
ITバブルの頃はそれでも調達できていました、そして意味も無い開発投資を行って結局は売れずに倒産に追い込まれます、そろそろベンチャー企業も勉強しているだろうと思っているのですがこういうベンチャー企業は今も後を絶たないのが現状です。
正直なところ企画書ベースで出資する法人もベンチャーキャピタルも現在は皆無です、余程冒険好きな個人のお金持ちであれば別ですがこれも期待できません、なぜなら何度も痛い目に遭っているからです。
銀行も流石に起業したてでは大金を融資してくれません、したがって直接調達の道しかないのは解るのですが世間はそんなには甘くはないのです。
ベンチャー企業が資金調達を行うのならその経営者が成すことは一つです、まず自社や自分のお金で紙ベースの話ではなくて現実に製品化して見せて欲しいのです。
本当に凄いものであれば引き手あまたのはずです、他者からお金を得なければ事業化できないような状況でそもそも新事業を興すすべきではないのです。
新事業で資金を集めるのは事業ベースの基本開発が完了し後は売り出すだけというくらいの時です、集まったお金で応用システムの開発や次世代製品の開発、そしてマーケティングに投資して一気に上り詰めるのです。
「朝、目が覚めるのが怖いんですよ!」
これは大手取引先の倒産によって多額の売掛債権を回収できず、半年の間に80人いた社員が僅か10人程度となり倒産直前まで追い込まれた技術者の派遣業を営んでいた社長の言葉です。
しかしこの社長に倒産直前に奇跡が起こったのです、それは派遣を行いながら自社開発していた生産工場で用いる管理ソフトが大手情報機器メーカーの目に留まり版権と共に事業ごと一括購入されたのです。
その結果、それまでの多額の借入金がゼロになったばかりか長期のメンテナンス契約やカスタマイズ契約で経営が一気に回復し優良企業に変身したのです。
冒頭の言葉はこの社長が最も厳しい状況の時の本心で、明日が見えない状況の時に心身ともに疲れきって家に帰ると頭が真っ白になり、自分が生きているのか死んでいるのかさえも判らない状況のままで布団に入り朝を迎えるというのです。
そして朝ふと目が覚めると本当にゾッとするほど怖いのだと言います、何故なら毎日のように債権者が会社に押し寄せ何時間も居座るのだそうです。
私は幸いにしてここまでの経験はありませんが、この日の酒の席は私にとっては大変参考になったことは確かです。
経営者の責任の重さ・厳しさ・覚悟・心構え、その後は何度もこの話を思い出し自分の会社を想定したいろいろなシミュレーションが頭の中で行え、そして先行して手を打つ事ができ数々の難局を乗り越えられたのです。
彼は今では私もよく使うようになった言葉を何度も使いました、「諦めさえしなければ必ず夢は叶う!」、「逃げたら本当に人生が終わる!」、全ての状況下の人に通じる言葉ではないでしょうか。
「それであれば、事前に電話してくださいよ!」
これは私が新規取引先になるかどうかと検討中の相手会社の営業担当に発した言葉です、この経緯は当社のホームページを見てアクセスしてきたA社、その問い合わせ内容が実に興味深い内容でしたので何とか時間を作って面談することにしました。
A社課長と担当部長が来社しデモを見ながら話は大いに盛り上がりました、そして先方から提案がもたらされ次回は担当役員(事業本部長)とのトップ会談をするということで合意したのです。
何度かのメールのやり取りで当社への来社の日時が決定しました、その予定の日時に何と課長一人で来社してきたのです、「あれ? 一人ですか?」の問いに「実は役員が数日前に倒れてしまいまして、せっかくお約束していたのにすみません」と言うのです。
ということは今日の会議の予定は無くなったわけです、それで冒頭の言葉を私が発したのです。
こちらは忙しい中で時間を何とか作り社員も待機させて待っていたのです、もし予定が変更したのであれば事前に連絡をして欲しいものです、そうすることで別の日時を検討し私もその予定の時間に他のことを入れられるのです、特にその時期は決算など1分1秒も無駄にしたくないという時期でした。
本人曰く「電話で日程変更を通知するのは失礼だと思って・・・」、何か大きな勘違いを起こしているのではないでしょうか?
本当に誠意を見せるとは何か、営業という職業なのだから自身の気持ちではなく相手の気持ちを優先して考えて欲しいものです、これが他者優先の原則です。
「お金を返して欲しいとか契約を破棄するとか言っているんじゃないんですよ、ただ当社の状況を正確に理解して誠意を見せて欲しいと言ってるのです!」
これはコピー機メーカーの営業部長に怒り心頭で発した私の言葉です、事の発端はメーカーの営業から「最新の複合機に変えれば大幅にコストダウンできます」という提案を受けたことによります。
それまでの複合機は5年リースで契約し2年半使用したところでした、当社として今の機種で何の不満も無かったのですが事務方からデータを貰い比較表まで作って提案してきたのです、そしてリース残額も代返するというのです。
今までと同様のリース料でランニングコストは削減できる、しかも最新の機種というトリプルメリットに私も2回目の商談で判を押したのです。
ところが設置が終了していざ使い出すとプリントアウトするとFAXが送信ミスを起すなどいろいろな障害が多発したのです、何度もエンジニアが入れ替わりで来ては点検するも一向に直りません、これが約一ヶ月続いたところで流石の私も黙っていられなくなりました。
そして責任者の営業部長が来社したのですが開口一番「直らなかったらキャンセルして元に戻しますから」と言うのです、これに抑えていた怒りが爆発して冒頭の言葉を発したのです。
私が怒ったのはまともに動かない物を買わせたからではありません、当社が1ヶ月以上も正常な仕事にならなかったことに対してなのです。
その損失は計算すれば多大なものとなります、何故1ヶ月もその状況を知っていて自ら呼ばれる前に何らかの善処策を考えなかったのでしょうか。
コピー業界では最もブランド力のあるメーカです、私は冒頭の言葉に「御社はブランドに胡坐をかいているのではないですか?」と付け加えたほどです。
業界トップを走る者は継続した信頼を維持していただきたい、そしてそれは謙虚な気持ちから来る顧客満足度の維持しかないと思っています。
「少し賢すぎるね、ビジネスで成功したければ少し馬鹿になったほうが良いよ」
大手情報機器メーカと初の事業提携契約を行うことが決まった祝いの席で提携先企業の事業本部長から発せられた言葉です、この瞬間に今までこのような大きな商談が幾度もありましたが提携までに進まなかった理由が明確に理解できたのです、年齢的にも経営者としての未熟さを認めるしかなかった一言でした。
ビジネスにおいては自分や会社を大いに買ってもらい事業提携や業務提携などの大きな話が来ることがあります、このときに気をつけなければならないことがあります、それは「素直に喜び細かいことを最初から考えないこと」です。
私のそれまでの姿勢は「あまりにも規模が違う会社同士で本当に上手くいくのだろうか」、「将来飲み込まれてしまうのではないか」などの不安や疑問が先にたっていたことは確かです。
その不安が「この場合はこうしたい」とか「こういうときは大丈夫ですか?」など些細な事項の質問となって現れていたのでしょう、これがおそらく相手にとっては面白くはなかったのではないでしょうか。
「今から将来を築いていこうと考えている段階で重要なのは事業の根幹であり互いの信頼関係です、枝葉の部分は提携後に実務者同士がゆっくりと考えれば良いことなのでは?」、確かに言われてみればそのとおりです、まず重要なのは相手が信頼できるかどうかの1点であるのですから。
このとき以来提携話などにおいては馬鹿を決め付けています、もっと言うと「いいじゃないですか?」的にいい加減さを演じることもあります。
「先のことは何も考えてないです、ただ御社を信頼できると判断しているだけですから」と言ってみても、これが逆に「相当深く先読みして提携に踏み切った」と思われることもあります。
人間関係って本当に面白いです、相手に合わせて演出をアレンジする、これも全てにおいて余裕がなければ成せない技なのでしょう。