近代農業において畑の耕起は常識化されてきました、耕起し畝を作り種や苗を植え野菜を育てるのですが野菜の成長よりもはるかに早いスピードで雑草が生えてきます、耕起と草むしりは農家のルーティンと言っても過言ではありません。
では何故耕起すると種を撒かないのに雑草が生えてくるのでしょうか、それは雑草の種は飛んでくるのではなく実は土の中で休眠しているからです。
雑草の多くは好光性の種子です、したがって土の中に眠っていた種が耕起され表面に出てきて光を浴びたとたんに目覚めてあっという間に成長するのです、そこで畝に黒いシートでマルチングするのですが畝の中で成長した雑草はシートの脇や穴から顔を出すようになります。
これらにより畝の脇にはびっしりと雑草で覆われるようになり、慌てて草むしりをするのですが土壌の表面を掘りますので別の種子が次々と表面に出てきては繁殖するという繰り返しになります。

自然農で耕起しないとこういった負の連鎖は起きません、雑草も野菜と共存しながら土壌表面が乾燥するのを防ぎ空気中から取り込んだ窒素を野菜に送ることにもつながります。
耕起しないと新たな雑草が生えず草むしりからも解放されます、そして土壌を強くして健康な野菜を作れる土壌に成長していくのです、どんな植物でも生える隙間があれば生えてきます、隙間を無くせば意味の無い植物は生えてこないのです。
有機物たっぷりの自家製オーガニック土を使って鉢植えにしているローズマリーです、6年目になりますが肥料も与えずほぼ放置でも元気に成長しており毎年背丈を半分以下に剪定しているくらいです、毎年のように背丈を半分程度に剪定すると幹は太く枝張りもよくなり丈夫に育ちます。
こうすることで新鮮で葉が柔らかいローズマリーがたくさん収穫できるのです、せっかく伸びた枝をバサッと切るという行為は慣れないと躊躇すると思いますが丈夫に育てる為のテクニックなので思いっきり刈り込んでしまいます、刈り込んだ枝はドライフラワーにしてガラスの入れ物に入れて料理に使ったり芳香剤として楽しみます。
切りたての葉は生葉茶にしたり肉料理の香り付けに使いますが極わずかでも香り付けができますのでこの程度の大きさでも家庭で使う分の量としては多すぎるくらいです、1鉢あると大変重宝するハーブです。

鉢で育てる場合の注意点は夏場の水切れです、鉢の中の水分が完全に抜けた状態が1日続いただけで猛暑日なら間違いなく枯れます、どうしても水やりが数日空けなければならないときには水をたっぷり与えてから室内に取り込んで涼しいところに置くといいでしょう、数日間なら日光が遮断されても弱ることはありません、葉色が若干悪くなろうが枯らすよりもましです。
この数年は夏季の猛暑で夏野菜が収穫できずに秋口から冬までの3ヶ月ほど野菜が高騰しています、畑が砂漠化したという農家さんの悲鳴にも似た動画も多数上がっています、では何故畑が砂漠化してしまうのでしょうか、何故砂漠化した畑と同じ地域にある畑でも上手く収穫できる農家さんがいるのでしょうか。
畑が砂漠化する要因はたった一つです、それはその畑の保水力が無いからに他なりません、だから朝夕に水を撒いてもあっという間に水は蒸発してしまい種は芽も出せないし何とか芽が出ても枯れてしまいます。
保水力が無い畑の土を触ってみるとまるで砂のようにさらさらと指の間から流れ落ちます、砂漠化はオーバーな話ではなく本当に砂漠にある砂のような土になっています、これではあっという間に水分が蒸散してしまうのは当然です。
蒸散を防ぐためにマルチング(畝にビニールシートを被せる)するもこの状態では蒸散を防ぐ前に水分を保持できていないのですから意味がありません、ではどうしたらよいかというと猛暑に耐えうる土壌改良から行うしかありません。
対して猛暑でも水分が保持できている畑は畝の周囲に雑草が生えまくっています、この雑草が畝の表面に直接太陽光が当たるのを防ぎびっしり土中に張った根の隙間に水分を蓄え野菜に水分を供給するのです、水を撒かなくてもマルチングしなくても自然の力で野菜が育つ土壌を造っているのです。
雑草をあえて放置して水分を保持できている自然農の実験畑
猛暑の季節でもしっかり雑草も野菜も育っています

まずは春先にグランドカバーになる根張りのよい植物の種を畑に撒きましょう、種を飛ばさず他の畑に迷惑がかからない雑草が最適です、私がいろいろ調べた範囲で最も理想に近いのがシロツメクサの仲間やシソやバジルなどのハーブ類です、一度撒くだけで冬には枯れますが翌年また自然に生えてきます。
この生やした雑草をそのままにして畝を作り野菜を育てるのです、ちなみに自然農法が認知され始めたのか更地の緑地化推進なのかは不明ですが数年前から数種類の雑草の種が大袋で売り出されるようになっていますので各種実験をしてみたいと思っています。
雑草に畑の栄養素を持っていかれて野菜が育たなくなるというのは迷信です、特に雑草の中でも豆科植物は空気中の窒素を固定化して根に貯めます、つまり水やりも不要で施肥も不要になります、枯れた雑草が保水力と肥糧を自然のサイクルの中で土壌に齎してくれるからです、まずは範囲を限定して実践してみるとよいでしょう、これまでの常識は現在の通年猛暑という有事には非常識になるのです。
放置栽培を行うにあたり最も重要なのが土壌の土質であることは言うまでもありません、土壌の細菌によって植物の成長に必要な栄養素が生まれ植物に取り込まれるからです、また植物の成長に最も重要なのが根をしっかり張れる土質であることは栄養素が生まれる以上に重要です。
植物が根をしっかりと張れ更には細菌バランスを保つために必須な土壌とは空間が確保できているかです、つまり細かな空間が土壌に形成できているかということが最も重要になります、この細かな空間を保持できている土壌を「団粒構造」と言います。
この細かな空間によって根が張れ更に根は酸素を取り込むことができます、植物は根でも呼吸をしているのです、観葉植物をいつも枯らせてしまう人は根を窒息させているのが原因です、つまり水の与えすぎによって根が呼吸できず嫌気性の腐敗菌の増殖によって根が腐ってしまうのです、根が呼吸できる空間があれば好気性のバクテリアが繁殖し土も根も腐らずに植物も元気に育ちます。

この団粒構造を人工的に造ろうとするのが耕耘機(こううんき)などによる耕起(土起こし)です、これも悪いことではないのですが私が提言する放置栽培では土を起こさないのが定義の一つです、追々説明しますが耕起を行うから不必要な雑草が生えるのです、雑草は種類によって益にもなるし害にもなるのです。
ではどうやって団粒構造を造るかというとズバリ益になる雑草の力を借りるのです、つまりこれが放置栽培の最も重要な「耕起しない」と「除草しない」という事項になります。
益となる雑草はその多くが一年草で春に成長し秋には枯れます、枯れる際には根も枯れます、この雑草の根が枯れた後にできる空間こそが何もせずに団粒構造を造る方法なのです、だから意味も無く雑草を放置するのではなくあえて放置することで土壌の団粒構造を維持しようとしているのです。
野菜はこの数年の間に平均で倍ほどに高騰しています、また季節によっては手が出せないほど高額になることもあります、外食産業の倒産件数がうなぎ上りに増えているのもうなずけます、原料仕入れ額と人件費つまりFC比の上昇が要因であることは言うまでもありません。
野菜が高額で買えないということで庭が無くても室内で野菜栽培ができる水耕栽培が新型コロナウイルスパンデミックを機に静かに流行しているようです、私がハイドロカルチャーで観葉植物を育てていた20数年前に比べると水耕栽培キットも多数出ており価格も1万円を切るものもあります、SNSなどでも100均グッズだけでできる水耕栽培などの動画が多数出ています。
水耕栽培キット
これにプラスして液体肥料と種を買えばその日のうちに水耕栽培がスタートできます

こういったものに刺激されて水耕栽培に手を出す人も多いと思いますが、多くの人は当初考えていたように収穫できずにイニシャルコストも回収することなく止めてしまいます、私の経験上しっかりとした野菜を水耕栽培で収穫しようとしたら最低でも5万円近いイニシャルコストがかかります。
確かに容器は100均で売っているもので代用はできますが室内でしっかり育てるには最低でも人口太陽光つまり植物育成用のナローバンドLEDライトが不可欠です、また電解濃度計(水溶液濃度を計測する測定器)など次から次へと必要な道具や消耗品が出てきます、つまりイニシャルコストに加えて種や液体肥料などのランニングコストは意外とかかってしまいます。
実際にやってみると大きな買い物をしているわけでもないのですが合算すると意外な出費に驚くと思います、私の試算上では野菜を完全育成するためのグロウテント+ラックに育成用ナローバンドLEDライト2セット、更に電解濃度計などの必須な機材を入れるとイニシャルコストは5万円ほどで種代に液体肥料などの消耗品に電気代も入れると年間ランニングコストは最低でも3万円程度になります。
つまり1年目は8万円ということになります、また水耕栽培できる野菜は限られておりイモ類やキャベツ・ハクサイなどの大型野菜に根菜類やつる性野菜は不可能ではないですが家庭用の装置では無理です、つまり手軽に栽培可能な葉野菜が主になり全ての野菜を調達できるわけではありません、そう考えるとかなり高いものになりそのときに必要な野菜を買ったほうがはるかに安く済みます。
結論を言うと水耕栽培やベランダ菜園、また趣味で行う自宅の庭を使った野菜作りはコスト面だけで計算すると買うよりも高くつきます、ただしメリットとしては採れたての安全な新鮮野菜を食べることができるということと農家さんしか食べることができないダイコンやニンジンの葉など栄養価の高い部位が食べられるということにつきます。
水耕栽培やベランダ菜園などは隠れたコストを無視しがちになります、家庭菜園を行う目的は野菜を安く手に入れることではなく家庭菜園でしか味わうことができない野菜の部位を安心して食べることができるというメリットを追求することが重要だと思います。
そして最後にもう一つ、家庭菜園を行うようになると野菜の世話にかなりの時間をとられます、忙しいからとちょっとサボれば一瞬で枯れてしまい水の泡となります、家庭菜園は収穫を目的とするのではなく野菜を育てるのを愉しむという目的を持って行うのが正しい家庭菜園の心得かと思うのです、そしていろいろな意味で余裕がないとできないのが家庭菜園という道楽なのです。