土壌を豊かにする好気性バクテリアは2種類の属性に分けられます、一つは分解合成菌類でもう一つは醗酵合成菌類です、これらの性質を理解するとどの時期に何をすべきかが明確に理解することができます、このように既に農業は習慣に頼る時代から科学の時代に移行しているのです。
分解合成菌類は春から秋にかけて割と温度の高い時期に活動し土壌の有機物を分解して窒素や他の栄養素を作り出します、対して醗酵合成菌類は冬の寒い時期に活動し土壌の有機物を醗酵によって窒素や他の栄養素を作り出します。
つまり、冬の時期に畑をそのままにしておくと春に種を撒くころには分解合成菌が活動しておらず栄養素が不足するために肥糧を与えなくてはならない状態になります、そこで冬前に醗酵合成菌類の餌となる有機物を土壌に仕込んでおかなくてはならないのです。
餌となる有機物とは野菜の屑や雑草など所謂緑肥と呼ばれる植物類です、他に卵の殻やフルーツの皮などはミネラル分を多く含みますので土壌を豊かにするには持って来いの緑肥となります、その点で言うと自然農は雑草や収穫しないで放置した野菜をそのままにしますので冬季に自然に醗酵分解され土中の窒素成分を増やしてくれるので施肥の必要が無いのです。
また冬が来る前に土壌にこういった緑肥を混ぜ込んでおくことで物理的な団粒構造も得ることが出来ます、何もしないでおくと春先に耕起し肥料を撒かないと野菜が育たない土壌になってしまいます、人間が休んでいる間にも土壌中の菌類は土壌を豊かにするために働いているのです、「土は人間ではなく菌類によって作られている」のです。
尚、これは畑だけではなくプランターも同様です、野菜の収穫が終わったらプランターの土を掘り起こして野菜屑や枯葉を混ぜ込んでおきましょう、春には肥糧を使わなくても野菜が育つ土が出来上がっているでしょう。
近代農業において畑の耕起は常識化されてきました、耕起し畝を作り種や苗を植え野菜を育てるのですが野菜の成長よりもはるかに早いスピードで雑草が生えてきます、耕起と草むしりは農家のルーティンと言っても過言ではありません。
では何故耕起すると種を撒かないのに雑草が生えてくるのでしょうか、それは雑草の種は飛んでくるのではなく実は土の中で休眠しているからです。
雑草の多くは好光性の種子です、したがって土の中に眠っていた種が耕起され表面に出てきて光を浴びたとたんに目覚めてあっという間に成長するのです、そこで畝に黒いシートでマルチングするのですが畝の中で成長した雑草はシートの脇や穴から顔を出すようになります。
これらにより畝の脇にはびっしりと雑草で覆われるようになり、慌てて草むしりをするのですが土壌の表面を掘りますので別の種子が次々と表面に出てきては繁殖するという繰り返しになります。
自然農で耕起しないとこういった負の連鎖は起きません、雑草も野菜と共存しながら土壌表面が乾燥するのを防ぎ空気中から取り込んだ窒素を野菜に送ることにもつながります。
耕起しないと新たな雑草が生えず草むしりからも解放されます、そして土壌を強くして健康な野菜を作れる土壌に成長していくのです、どんな植物でも生える隙間があれば生えてきます、隙間を無くせば意味の無い植物は生えてこないのです。
この数年は夏季の猛暑で夏野菜が収穫できずに秋口から冬までの3ヶ月ほど野菜が高騰しています、畑が砂漠化したという農家さんの悲鳴にも似た動画も多数上がっています、では何故畑が砂漠化してしまうのでしょうか、何故砂漠化した畑と同じ地域にある畑でも上手く収穫できる農家さんがいるのでしょうか。
畑が砂漠化する要因はたった一つです、それはその畑の保水力が無いからに他なりません、だから朝夕に水を撒いてもあっという間に水は蒸発してしまい種は芽も出せないし何とか芽が出ても枯れてしまいます。
保水力が無い畑の土を触ってみるとまるで砂のようにさらさらと指の間から流れ落ちます、砂漠化はオーバーな話ではなく本当に砂漠にある砂のような土になっています、これではあっという間に水分が蒸散してしまうのは当然です。
蒸散を防ぐためにマルチング(畝にビニールシートを被せる)するもこの状態では蒸散を防ぐ前に水分を保持できていないのですから意味がありません、ではどうしたらよいかというと猛暑に耐えうる土壌改良から行うしかありません。
対して猛暑でも水分が保持できている畑は畝の周囲に雑草が生えまくっています、この雑草が畝の表面に直接太陽光が当たるのを防ぎびっしり土中に張った根の隙間に水分を蓄え野菜に水分を供給するのです、水を撒かなくてもマルチングしなくても自然の力で野菜が育つ土壌を造っているのです。
雑草をあえて放置して水分を保持できている自然農の実験畑
猛暑の季節でもしっかり雑草も野菜も育っています
まずは春先にグランドカバーになる根張りのよい植物の種を畑に撒きましょう、種を飛ばさず他の畑に迷惑がかからない雑草が最適です、私がいろいろ調べた範囲で最も理想に近いのがシロツメクサの仲間やシソやバジルなどのハーブ類です、一度撒くだけで冬には枯れますが翌年また自然に生えてきます。
この生やした雑草をそのままにして畝を作り野菜を育てるのです、ちなみに自然農法が認知され始めたのか更地の緑地化推進なのかは不明ですが数年前から数種類の雑草の種が大袋で売り出されるようになっていますので各種実験をしてみたいと思っています。
雑草に畑の栄養素を持っていかれて野菜が育たなくなるというのは迷信です、特に雑草の中でも豆科植物は空気中の窒素を固定化して根に貯めます、つまり水やりも不要で施肥も不要になります、枯れた雑草が保水力と肥糧を自然のサイクルの中で土壌に齎してくれるからです、まずは範囲を限定して実践してみるとよいでしょう、これまでの常識は現在の通年猛暑という有事には非常識になるのです。
放置栽培を行うにあたり最も重要なのが土壌の土質であることは言うまでもありません、土壌の細菌によって植物の成長に必要な栄養素が生まれ植物に取り込まれるからです、また植物の成長に最も重要なのが根をしっかり張れる土質であることは栄養素が生まれる以上に重要です。
植物が根をしっかりと張れ更には細菌バランスを保つために必須な土壌とは空間が確保できているかです、つまり細かな空間が土壌に形成できているかということが最も重要になります、この細かな空間を保持できている土壌を「団粒構造」と言います。
この細かな空間によって根が張れ更に根は酸素を取り込むことができます、植物は根でも呼吸をしているのです、観葉植物をいつも枯らせてしまう人は根を窒息させているのが原因です、つまり水の与えすぎによって根が呼吸できず嫌気性の腐敗菌の増殖によって根が腐ってしまうのです、根が呼吸できる空間があれば好気性のバクテリアが繁殖し土も根も腐らずに植物も元気に育ちます。
この団粒構造を人工的に造ろうとするのが耕耘機(こううんき)などによる耕起(土起こし)です、これも悪いことではないのですが私が提言する放置栽培では土を起こさないのが定義の一つです、追々説明しますが耕起を行うから不必要な雑草が生えるのです、雑草は種類によって益にもなるし害にもなるのです。
ではどうやって団粒構造を造るかというとズバリ益になる雑草の力を借りるのです、つまりこれが放置栽培の最も重要な「耕起しない」と「除草しない」という事項になります。
益となる雑草はその多くが一年草で春に成長し秋には枯れます、枯れる際には根も枯れます、この雑草の根が枯れた後にできる空間こそが何もせずに団粒構造を造る方法なのです、だから意味も無く雑草を放置するのではなくあえて放置することで土壌の団粒構造を維持しようとしているのです。
観葉植物を部屋一杯に置いていると部屋の中がツーンとした森林のような匂いに包まれることがあります、特に午前中は一段と強まります、これは新しい酸素の匂いなのですが多くの人は観葉植物が生成していると考えています。
確かに観葉植物も光合成を行い二酸化炭素を取り込んで酸素を吐き出しますが極微量です、観葉植物をたくさん育てている場合に起きる森林浴の匂いの元は観葉植物を育てている鉢の中の土から齎されます、正確にいうと土の中に無数に生息しているシアノバクテリアが酸素を生成しているのです。
実は森林浴の生きている実感を味わえる清々しい香りも樹木や山野草類が齎しているのではありません、その多くが土の中のシアノバクテリアが齎しているのです、事実は小説より奇なりで科学の解明による真実はまさに驚くべきことが多いです。
シアノバクテリアは水分があれば何処にでも繁殖する原核生物で藍藻(ランソウ)といえばピンと来る人が多いと思います、水田や池などに生えている青緑色した藻や粒子です、実はこのシアノバクテリアは海中に最も多く生息し地球のほぼ全ての酸素を供給していると言っても過言ではないほど地球生命体にとって極めて重要なバクテリアなのです。
また現存する真核生物である植物はこのシアノバクテリアを細胞内に取り込むことで光合成という武器を獲得し進化を遂げた生命体です、この細胞内にシアノバクテリアを一番先に取り込んだのがウメノキゴケやウグイスゴケなどの地衣類でキノコとコケの中間にあたります、この地衣類からざっくりコケ・シダ・ヤシ・針葉樹・広葉樹や草本類と植物は進化を遂げてきたのです。
動物の進化の過程は多くの人は知っていますが植物の進化を正確に知る人はほとんどいません、植物を正確に知ると如何に動物にとって重要な共存すべき生命体であることが解ります、そうなればきっと雑草を粗末に扱わなくなるでしょう、私は有害な雑草でもむやみに抜くことを躊躇ってしまいます、有益に他の動植物と共存させる方法を考えてしまうからです。
面倒な話はさて置いて酸素を生成する重要なシアノバクテリアですがアクアリウムや水耕栽培を行っている人にとっては敵対視されています、あっという間に水槽内や水耕栽培の液体内に繁殖し青緑色に埋め尽くします、ただ魚類にとっては稚魚の餌になったり水中に酸素供給してくれるので問題は無いのですが人間にとっては景観を損ねるのか本能的に嫌う人が多いです。
雑草と同じでシアノバクテリアの有益性を真に理解すると逆に有効活用したいという気持ちが沸いてきます、私は現在シアノバクテリアを積極的に各種の植物栽培に有効活用しようと考えています、意味の無い生命体はこの地球上には存在しないのです、何かしらの使命を持って地球上に生まれてきたのです、地球に生命体が誕生して以来全ての生命体は共存するように秩序に仕組まれているのです、人間の都合で有益か有害かを振り分けるべきではありません。
ちなみにシアノバクテリアを観察していると大きく2種類の形状があることが解ります、一つは糸状でもう一つは粒状です、メダカの繁殖を道楽にしている人は稚魚の餌用に粒状のシアノバクテリアを繁殖させたグリーンウォーターを必ず買い求めます、また医薬に役立たせようという研究も行われています、まだまだシアノバクテリアは研究途上にある謎だらけの地球で発祥した最初の生命体の一つなのです。