
自動車や家電などではオーバーホールというメンテナンスサービスが存在しています、オーバーホールは医療でいう蘇生手術と同様で古い機種を全て分解して悪い個所や部品を直しながら新品の時と同様の性能が出るようにするサービスです。
例えば、40年以上経ったボロボロになったアンプが当時の元気な姿で再度使用できるようになるのです。
フルオーバーホールされたサンスイAU-6500
綺麗に傷防止テーピングや湿気防止のラッピングされて戻ってくる

この究極のメンテナンスとも言うべきオーバーホール料金が半端じゃありません、技術者が全て手作業で行いますので当然かもしれませんが、既に手に入らない部品まで手に入れて交換するのですから手間と時間を考えれば相応の料金だと思います。
交換された部品は、このように別袋に入って付いてくる
これは、何をどれほど交換したかというエビデンス
今回はトランジスタとレギュレーション用サイリスタが交換されたようだ

そんなニーズが昨今多くなったのか、オーディオメーカーを引退した人が細々と個人事業主として行っているケースもあり、メーカーよりも安価で丁寧に対応してくれますので好評のようです。
概ねですが70年代のミドルクラスのプリメインアンプですと購入価格以上の費用がかかることもあります、したがってオーバーホールされた名機は当時の定価の倍の中古価格であっても決して高くはないのです。
普通なら買い替えたほうが良いと考えるのですが、70年代の音はどんなにお金を積んでも今では手に入らないのです、音の価値とはこういうことです。
スピーカーやアンプは音の媒体にすぎないというのが私の持論です、したがって価値があるのは音そのものなのです。
その価値ある音を得るためにお金を払う、そんな考え方をすればオーバーホールで現在に無くしてしまった音が蘇るのであれば願ったり叶ったりです。
またオーバーホールに出すと基板のクリーニングや錆びついたトランスも綺麗にペイントされて戻ってくることもあります、コネクタもつまみ類もピカピカ、スイッチ類の接点不良なども全て綺麗になって帰ってくるのです。
オーディオ製品は機械ですが大病を患って入院し元気になって退院するという、まるで生き物のように感じてしまう瞬間です。
サンスイ指定業者でオーバーホールした検査合格証
いまだに当時のサンスイのシールが使われているなんて・・・


1985年に始まった世に言うアンプ798戦争、その終焉はバブル景気の終焉と重なり90年代初頭でした。
その後各社の主力ミドルクラスの価格は上昇し始め10万円前後で落ち着きを見せ始めました、どう考えても798戦争時代の主力製品はそもそも10万円前後でもおかしくないスペックだったのですから当然の結果とも言えます。
さて798戦争で圧倒的な強さを誇った勝者はサンスイでした、次から次へと斬新な回路を引っ提げては新機種を出し続けソニーやオンキョーの追従さえも許しませんでした。
そんなサンスイも90年代に入ると価格を上昇させ初めます、それでもトップの座を90年代中盤まで継続させたのだから凄いです。
ところが誰しも20年間続けているサンスイの牙城が継続すると思われていた1996年に思わぬ伏兵が台頭してきます、それはソニーでもオンキョーでもなく798戦争時代にマイペースにデジタル化への移行やホームシアター向けのAVアンプに注力していたデノンだったのです。
当時のサンスイの7シリーズの前衛隊長はシリーズ20周年記念モデルAU-α607MR(10万円)、これに対抗すべくデノンが擁立したのはPMA-2000(1996年発売、10万円)で価格も宣戦布告の意図が丸見えの同額としています。
90年代に入るとサンスイもブラックフェースからシャンパンゴールドに変え大人しいイメージに変貌しています、デノンは伝統のちょっと黄色が強めのシャンパンゴールドに加えデザイン面でもPMA-2000は新しい時代の幕開けを予見させるような洗練された感じを受けたのは確かです。
更にジャンルを選ばないオールマイティな音質は、バブル景気が終焉した後のジャズやロックファンにも受け入れられたと思われます。
バブル景気が終焉すると日本中が祭りの後のように全てに冷静さを取り戻し始めます、こういった精神的な意味でも豪快な音質よりもマイルドな音質が好まれる傾向に当時はなっていったのではないかと推測しています。
そしてデノンPMA-2000は同社のハイエンド名機S1のテクノロジーをダウンサイジングしたスペックで空前の大ヒット&ロングセラー作となり、AVアンプと合わせてデノンは一気にアンプのシェアを拡大していったのです。
思わぬ伏兵の台頭に慌てたサンスイは、翌年の1997年に7シリーズにNRAを投入しますがデノンの快進撃を止めることはできませんでした。
このNRAは後にジャズファンのマニアから、「サンスイがサンスイサウンドを捨てた愚作」とまで言われる始末でサンスイも音質戦略を変えずにいられなかったということでしょう。
こうして20年以上続いたサンスイのオーディオ界における牙城が脆くも崩れたのです、その後のサンスイの衰弱はあまりにも急速で悲惨なものでした、ハイファイオーディオだけでなく当時流行りのミニコンポもAVアンプも何を出してもトップの座を奪還することは無くあっという間に経営危機に見舞われていったのです。
ミニコンポのジャンルでは既にオンキョーやケンウッドが強固な要塞を固めていました、またAVアンプではデノンが先導しソニー・ヤマハ・オンキョーがピタリと追従していました。
この一連の騒動、どんな業界でも時代の流れを見誤るとあっという間にトップの座を追われるという教訓として私の胸の奥に何時までも存在し続けています、良い状況のときほど慢心せずに更に気を引き締めろということでしょう。
45年前のダイヤトーンDS-35B、懐かしい70年代の音を再現したFM放送を聴く為のシステムとして当面の間現役に復帰させようと思っています。
そんなDS-35Bですが、流石に往年の高級システムだけあって本体のユニットは完璧に健在ですが、サランネットは経年経過でかなり傷んでいます、この機会に補修して綺麗に蘇らせようと思います。
DS-35Bのサランネット
結露などのシミが広がっています

流石、70年代の高級スピーカー
サランネットといえどもアルミダイキャストフレームを使ってお金をかけています
イマイマのスピーカーは高級ハイエンドでさえ型抜きのプラスチックですから

まずは、ダボの取り付けネジがサビていますので、今後の事を考えてサビ止めします。
サビのクリーニングとサビ止めは工業用のオイル(ミシンオイル)を使います、綿棒で強めに擦ってオイルを染み込ませます。

こんな感じに、サビが綺麗になり元のビスの黒色も復活しました。

次は中央の補強板が湿気で伸びて内側に曲がってしまい、ウーハーユニットのフレームに当たってサランネットが浮いてしまいます。

テンションを確認したら、この補強板は無くてもまったく問題ないので取り外すことにします。
工作ノコギリでバッサリとカット!


湿気で割れが生じるのを防止する為にカットした面はボンドで固めてから塗料を塗っておきます。

後は、全体的に埃を掃除機で吸い込み、アルミダイキャスト部分はベンジンとアルコールでクスミを取り除き磨きあげます。
硬めのブラシを付けた掃除機でブラッシングしながら埃を吸いこんだらネットのシミ部分の汚れもだいぶ薄くなりました。
あとはエンクロージャーもアルコールと水拭きで綺麗にしてサランネットを取り付けます。
最終的な出来上がり具合はこんな感じです、如何でしょう?
新品とはいいませんがかなり綺麗に蘇ったと思います、45年分の垢を落として気分も爽快です。


レコーディングなどの業務用オーディオ界にはエンハンサーという聴き慣れない編集装置があります、このエンハンサーという機械は何をするのかというと原音を元に各種の整形を行う装置です。
例えば楽器の音の強弱や波形をシャープにさせて刺激的な音にするなど音を詳細に加工するのです、最近ではこういったエンハンス装置を使って古い録音を最近録音されたように加工するというリメイク版のCDなどは当たり前のように存在しています。
昔の録音のぼやけた音がくっきりした迫力ある音に変わるのです、まさに魔法の装置です。
また音だけではなく映像用のエンハンサーもあります、同じように昔のぼやけた映像がくっきりした現代の映像に変わります、更にモノクロ映像がカラーになったり1K動画が4K動画になるなど効果は凄いものがあります。
エンハンス技術は最近のものは全てソフトウェアによって行われます、つまりエンハンサーという装置にはDSP(デジタルシグナルプロセッサ)が入っており、高性能な信号処理を行う専用のパソコンだと思えば解りやすいでしょう。
こういった音や映像を加工する技術ですが、最近の高級ユニバーサルプレーヤー(DVDやCDなど全てのファイルを再生できるプレーヤー)や高級AVアンプにも搭載されています。
つまりリアルタイムに自動で音や映像が加工され、それを愉しむことができるのです。
一度でもリアルタイムエンハンスの音や映像を体験してしまうと、麻薬のようにそれ無しでは物足りなく感じてしまうようになります、こうして高額の製品を買うようになってしまうのです、メーカーの戦略って凄いです。
今ではデジタル対応と謳っている製品はすべてにGPUが入っています、アナログな音の世界もスピーカーの直前まではデジタル加工によって音が作られている製品も多いです、そんな意味でも「オーディオもデジタル全盛時代」と言われているのです。

1999年を最後にオーディオスピーカーで金字塔を立てたダイヤトーンはオーディオ界から姿を消します、しかし突如としてダイヤトーン70周年アニバーサリーにあたる2017年秋に1台60万円、ペアで120万円という超高級ハイエンドスピーカーDS-4NB70を発売しました。
このDS-4NB70は小型2ウェイの密閉型ブックシェルフで新開発のコーンを使用しています、それにしても小型ブックシェルフでペア120万円とは驚きます。
当時マニアの間では「ダイヤトーンの復活か?」と騒がれましたが、期待のミドルクラスはその後も発表されることはありません、肩透かしを食らったマニア達はこの気持ちを何処へぶつければ良いのでしょう?
この私もオーディオ道楽復活でメインシステムのスピーカーをいい加減に新機種に交代したいのですが、現在買いたい大型スピーカーが無いのです、期待のJBLもググっと心奪われるようなスピーカーが見当たりません。
90年代以降のスピーカーの方向は完全に小型ブックシェルフとトールボーイ型になってきています、トールボーイ型はオーディオとホームシアターの両方を楽しめるようにとのことでしょうが、そもそもオーディオとホームシアターでは求める音質が180度違うのです。
ホームシアターとは別にオーディオシステムを組んでいる人は多いと思うのですが、そういう人の多くはおそらく私のように10年以上も同じスピーカーを使い続けていると思います。
昭和感覚の私のスピーカーのイメージはあくまでも3ウェイ大型ブックシェルフなのです、古き良きオーディオ全盛期のような黄金時代とスピーカーの巨匠ダイヤトーンの復活を強く望むばかりです。