オーディオの歴史の中で、どうしてこういう製品を作ったのだろうかという世に言う迷機と呼ばれるオーディオ製品が存在しています。
例えば、バブル景気直前に日本のオーディオ界を引っ張ってきた高級オーディオメーカーであるラックスマンが経営不振でカーオーディオ大手のアルパインの傘下に入ります。
この直後に、それまでの高級路線から普及版の製品を突然出したのです、これが世に言う迷機で何と真空管とトランジスタのハイブリッドアンプだったのです。
プリアンプの初段にFET、最終段に真空管、そしてパワーアンプにハイパワートランジスタを用いたのです。
しかも、それまでのシャンパンゴールドからブラックフェースになり、高級感を誇ったラックスマン独特のフェースデザインもあたかも安っぽいデザインになってしまいました。
価格も普及版の価格で、当時の798戦争を意識した価格帯で勝負してきたのです。
これにはマニアもビックリ仰天です、面白半分で買ったマニアもいたくらいです。
こんな迷機と言われたアンプですが、最近になって真空管とトランジスタのハイブリッドが音色的に評価され始めたのです。
音色的に評価され、その作られた意味が理解され始めると途端に迷機から名機と謳われるようになるのです。
新たな試みは何時の時代もなかなか受け入れられないものです、でも技術に誇りを持って作られた物であれば何れは評価されるようになるのです。
オーディオ界には、このような突然誕生してくる世に言う迷機が多数存在しているのです。
デジタル全盛期の昨今において急速に広まってきたのがインターネットオーディオとPCオーディオです、PCからUSBを介して高音質のデジタルソースを再生するUSB-DACは続々と新製品が誕生してきています。
DACだけの機能の製品もあるのですが多くはヘッドフォンアンプが内蔵している所謂USBヘッドフォンアンプという代物です、またUSB入力だけではなくCDプレーヤーなどの光デジタル入力や他のアナログオーディオの入力も行える製品も誕生してきています。
各種の入力セレクターが付いていてヘッドフォンアンプが内蔵されたDACにはアナログ音声出力コネクタが付いている製品や、スピーカーを直接繋げられるUSBプリメインアンプまであります。
こういった製品で私が注目しているのが各種のセレクタが付いたUSB-DAC付のヘッドフォンアンプです、考えてみるとアナログ音声出力にアナログパワーアンプを繋げば70年代に流行ったセパレートタイプのアンプ構成になるのです。
つまりUSBヘッドフォンアンプがプリアンプと同じ役目を果たすわけです、そしてパワーアンプを好きな音色のものを選べば高音質でスピーカーを鳴らすことが可能になります、真空管パワーアンプを使えばハイレゾのデジタルソースを真空管アンプの音色で愉しむことができます。
PCやCDプレーヤーとUSB-DAC付ヘッドフォンアンプまでがデジタル、ヘッドフォンアンプからパワーアンプを経由してスピーカーまでがアナログというデジタル-アナログのまさに仲介役という存在になります。
パワーアンプは小型のデジタルアンプを使うと、極めてコンパクトなサイズで大音量でスピーカーを鳴らせるシステムが組めます。
理屈では理解できるものの私はなにかしっくりきません、でも時代に合わせて自身を変化させ愉しんできた私です、おそらくデジタル全盛時代も自分流の愉しみ方をチャレンジしつつ見つけ出していくのでしょう。
私の大学時代は日本のオーディオ業界が形成されてくるまさにカオスからビッグバンが起きた直後のような状況でした、オーディオ雑誌にはUSマランツやアキュフェーズにラックスマンのハイエンドアンプの広告がびっしりと載っており、それを見てはオーディオ妄想が止まりませんでした。
そして毎日のように友人に「早く30歳になりたい」、「絶対、会社を興して社長になる」と事あるごとに話していたようです、その理由は極めて単純明快で自分でガンガン稼いで好きなようにオーディオにお金を使いたかったからです。
そんな鬱積されたエネルギーが社会人になった瞬間に大爆発を起こしたのです、長期間鬱積されたエネルギーが何かをきっかけに膨張爆発する現象を心理分析学上では「es」という概念を使って説明しています。
そうです「es」の力は本当に凄い破壊力です、社会人になるや否や大学時代とは打って変わって寝る時間も惜しんで最新のIT技術を猛勉強しました。
先輩を尻目にSEとして世界を駆け巡れたのも、25歳で最新技術書籍の出版ができたのも、最新技術での特許出願を連発できたのも、会社を幾つも創設したのも、全てが「オーディオを好きなように愉しみたい」という極めて不純な動機からです。
そして社会人4年目に外資系企業のフリーSEとなり、その2年後に起業し潤沢なオーディオ資金を妄想通りに確保することに成功したのです、この数年間での快進撃の裏に「好きなだけオーディオ製品を買いたい」という強い執念が潜んでいたことは否定しません。
もしも大学時代にオーディオに目覚めていなかったらと平凡なサラリーマンとして一生を終えていたかも知れないと思うのです、強い執念は何時かは必ず実現します、何故なら恐ろしいまでの思考と行動エネルギーが出るのですから。
そういう意味では道楽も執着した目的が在れば強力な生産的原動力となるのです、オーディオ道楽復活で当時を鮮明に思い出しました、そして当時のように思考と行動エネルギーが身体の底から漲ってくるのを自覚しています。
夢の実現は運などではありません、どれだけその実現に執着して我武者羅に行動するかだけの話しです。
考えるだけで具体的な行動も起こさず、繰り返えすルーティングに流されて過ごしていれば、あっという間に人生の時間は終わってしまいます、生きている間だけです愉しめるのは。
50年以上も前から存在するオーディオ神話に、「ジャズはJBLで、クラシックはタンノイで聴け」というものがあります。
JBLはアメリカ発祥のスピーカーメーカーでタンノイはスコットランド発祥のスピーカーメーカーです、どちらもスピーカーメーカーとして早くから世界ブランドを確立しファンを二分してきたスピーカーの一大世界ブランドです。
確かに軽快に鳴らすJBLのスピーカーはジャズやロックに向き、繊細な音でゆったり鳴らすタンノイのスピーカーはクラシックに向きます。
また定説の補足的に存在するのが、ジャズの本場はアメリカでJBLは楽器奏者にもPAを通して親しまれてきてジャズやロックに必要な音を知っているからというのがあります。
同様にタンノイは、ヨーロッパで生まれた多くのクラシック音楽に精通した音作りをしておりクラシックに向くのも確かな根拠があります。
こういった定説を鵜呑みにして自身で経験していない人は多いと思います、つまりJBLでクラシックをタンノイでジャズやロックを聴いてみたことがあるのでしょうか?
実際に聴いてみるとJBLでのクラシックもタンノイでのジャズも全然悪くない音で鳴ってくれます、そもそもですが世界ブランドを確立するような製品はジャンルを特定して開発しているわけではないのです、良い製品はどんなジャンルの音楽も綺麗に鳴ってくれるのです。
メーカーの目指すものとそれを使う側の求めるものが違ってくるのはどの業界にでもあります、おそらくですがスピーカーユニットの音そのものよりも外見から来る偏見的なものが多いのではないかとさえ思うのです。
JBLを不動の世界ブランドに押し上げた製品に1957年発売のD44000(俗称パラゴン)があります、幅2メートルの左右一体となったまるで家具のようなスピーカーで家具職人が1台ずつ手作業で作り上げます。
日本に初めて上陸したのは1965年で170万円でした、現在でも内外をオーバーホールされた完全なものだと中古でも300万円ほどで取引されています。
その後にはミニチュア化させたミニパラゴンを多くのマニアが設計図を基に手作りで作成し、それが世に安価で出回っています。
このパラゴンはクラシックファンに親しまれた製品です、そしてパラゴンに使われていたスピーカーユニットがその後のJBLスピーカーユニットの系譜を作っていったのです、つまりJBLスピーカーでクラシックも綺麗に鳴らすことができて当たり前なのです。
同じようにタンノイでジャズやロックを聴く人も居ます、そもそもヨーロッパでもジャズやロックフェステバルが数多く開催されファンも多いのですから当たり前なのです。
定説も良いけど囚われてはいけません、でも確かにジャズはJBLとかアルテック、日本製ではダイヤトーンとかオンキョーのスピーカーを使い大音量で鳴らすと音の響きは最高なのです。
ラックスマンのラックストーン、サンスイのサンスイサウンド、ヤマハのヤマハサウンド、どうして時代も回路も部品も担当技術者もまったく違うのに個性豊かな音色を承継し続けているのでしょう?
時代が変われば求められる音色も変わるのに多くのオーディオメーカーは伝家の宝刀の音色を変えようともしません、受け継がれた音色に囚われたかのように疑問も持たずに最終ゴールとしてその音色を作り込んでいます。
いったい何がそうさせているのでしょうか、これを約20年以上疑問に思っていたのですが最近ようやく答えが見つかりつつあります。
それは音も味と同じだという発見です、人間の五感はすべてアナログ感覚です、当たり前ですが人間は生物ですからデジタルには直接対応できません。
つまり音色は老舗の焼鳥屋のタレやラーメン屋のスープと同じなのではないかということです、音色も一つの文化なのです、だからそのメーカー独自の音色に拘り続けるのです。
何故なら、その音色を変えてしまうということはその音色を愛するファンを裏切ることになるからです。
時代が変わってもラックスマンのアンプを買えば何時も通りのラックストーンを聴く事ができるという安心感、これがファンサービスであり顧客第一主義でありメーカーの最重要項目なのです。
オーディオメーカーの多くは複数のブランドやシリーズラインを持っています、何故ブランドやシリーズラインを変える必要があったのか、この疑問の答えが「伝家の宝刀の音色を時代に合わせて変える必要があったから」ではないかと思うのです。