
オーディオ道楽復活後は日夜オーディオ妄想が止まりません、先日は「間接オーディオっていうのはどうかな?」なんて漠然と考えていました。
光には間接照明というのがあります、音にも間接音響というのが在ってもいいのではないかと思うのです。
間接音響といえば隣の部屋に回り込んでくる音が間接音であり、直接スピーカーから出ている音とは異なり高音域が遮断された音で刺激の無いぼんやりとした音がします、これは光の間接照明と同様で刺激が無く聴きやすい音でもあります。
高音質を目指したハイファイオーディオではありませんが、何かをしながらの「ながらオーディオ」としては邪魔にならない実に好ましい音がします。
そこで密閉型の小型サラウンド用スピーカーを使って実験してみたのです、スピーカーを後ろ向きにして壁にスピーカーユニットが向くように配置して音楽を聴くのですが、これが思いもよらない効果がありました。
それはどこから聴こえてくるのか解らないという効果で、臨場感こそ有りませんがどこに移動しても同じような音質と音量で聞こえるのです。
また懸念していた高音域の減少もそれほど大きくなく、しっかりと高音域も聴こえてくるのです、これにはかなり驚きました。
後ろの材質や反射の仕方で聴こえ方がガラリと変わり実に面白い実験でした、置くだけで間接音響が出来上がるというスピーカーが在っても良いと考えてしまいます、また一つ愉しい夢が生まれそうです。

オーディオ史には数々の戦争が起きており、これも後に多くのレジェンドや武勇伝を残しています。
さて80年代のアンプ798戦争が終焉を見せた頃に突然のように勃発したのがハイコンポ戦争でした、ハイコンポとはミニコンポサイズ(幅30Cm程度)の製品のうちフルサイズコンポの定格出力だけを絞り音質はフルサイズコンポに劣らぬハイファイ製品を指します。
またハイコンポの暗黙の定義は、システム販売と並行して単体でも発売されていることでした。
火付け役はケンウッドのK's(ケーズ)シリーズで、アンプのA-1001はユニークなスタイルと音質であっという間に大ヒット&ロングセラーを構築していきました。
オンキョーはフルサイズコンポのインテグラシリーズで培った技術を投入したインテック205シリーズとインテック275シリーズを展開します、これもまた人気を博しインテック両シリーズも新製品が出るたびに大ヒットを飛ばしました。
ビクター・デノン・パイオニア・マランツなどの各社も一斉に追従し、こうしてオーディオ界はミニコンポ一色の世界に移行していったのです。
慌てたのはサンスイです、遅ればせながらAU-α7を出しますが既に先行他社が築いた要塞はあまりにも強固で参戦すらさせてもらえない状況となったのです。
この結果サンスイは体力をどんどん奪われていく結果となってしまったのです、戦争とは常に非情な結果を齎すものです。
最後になりましたが特筆すべきはハイコンポの音質です、フルサイズコンポのエントリークラスのアンプの価格の2倍近い価格のハイコンポのアンプ群は定格出力こそ低いものの決して馬鹿にできない高音質のアンプが多いのです。
価格帯は6万円前後が主流ですが、3~4万円前後のフルサイズのエントリークラスの音質よりも断然上です。
「小粒でもピリリと辛い山椒」という言葉がありますが、「小型でもビビルくらい高音質なハイコンポ」と言いたくなるほどです。
ケンウッドやオンキョーのハイコンポは、スピーカーさえ選べば下手なフルサイズのアンプを買うよりも低域もしっかり出るし中高域の切れ味も抜群です。

オーディオ界には、昔から名機と呼ばれる製品があります。
しかし、その明確な定義というのは存在していません、オーディオ評論家やオーディオマニアなど多くの人から絶賛された製品が後に名機と謳われるのです。
その意味でアンプの名機の多くはその時代を代表するような傑作品で、価格・音質・スペックとどれをとっても優れた製品を称え名機と呼ばれます。
その意味からして高級なハイエンド製品は全て名機かというとそうでもありません、何故なら価格が高くて音質が良いのは当たり前だからです。
手頃な価格でありながらハイエンド製品に劣らぬ音質で大ヒットを飛ばし、且つ後続機を出しながらシリーズ化されロングセラーを続けたミドルクラスの製品に付けられる傾向があります。
サンスイであればAU-α607であり上位機種のAU-α907ではありません、ソニーであればTA-F333であり上位機種のTA-F555ではないのです。
私もこういったミドルクラスでありながら、上位機種やハイエンド製品と同じ回路を使った定格出力だけのダウンサイジング版など、音質・音色は同じで価格だけが手ごろ感のあるアンプを高く評価し購入する傾向にあります。
また、後に系譜を辿るとその製品が実は名機であることが解ると後追いで優良中古を求めることもあります。
70年代のヤマハのCA-2000が絶大な評価を得た後、その系譜の発祥であるCA-1000が製造中止になっていたにも関らず人気を博して中古価格が上がり初め慌てて購入したこともあります。
こういった製品は、歴史的な価値と製品そのものの音質的価値が評価され後に名機と謳われるのです。
名機と謳われるアンプにはそれなりの意味と理由が存在しています、持つ喜び以上にこういった名機は何年経っても音質の古さを感じさせません。
名機とは名機と呼ばれる根拠がしっかり在ります、ストックラックに収まっていても名機に相応しいオーラを何時までも放っているのです。

日本のオーディオ史において極少メーカーだったサンスイが何故80年代にアンプのシェア40%以上を誇るまでに成長したのか、そして何故ジャズファンがいまだにサンスイのアンプを使い続けるのか?
その秘密はJBLに在ると言っても過言ではありません、60年代初頭トランスメーカーだったサンスイ電気はラジオを手始めにオーディオ界に進出します。
ところがチューナーやアンプは自社製で何とか道を開きますが、最終的な音が決まる肝心のスピーカー製造のノウハウがありません。
そこで、当時の技術者が目を付けたのがJBLのアルニコ磁性体を使ったスピーカーユニットだったのです。
1966年、そんなサンスイはアメリカで既に世界ブランドを確立していたスピーカー界の大御所JBLの日本総代理店を獲得するという快挙を成し遂げたのです。
当時のJBLはジャズのライブハウスやロックカフェのPA用スピーカーでシェアを急拡大していました、このJBLの日本総代理店の獲得からサンスイの快進撃が始まるのです。
アンプの技術者陣は、JBLのスピーカーの良さを100%引き出すために改良に改良を加え涙ぐましい努力を続けたのです。
その甲斐あってJBLのユニットを使ったスピーカーシステムと、それに見合う音質を持ったアンプを70年代に大挙市場に投入しました。
ジャズファンやロックファンはサンスイのJBLユニットを使ったスピーカーとアンプをセットで買い、あっという間にオーディオ界でトリオ・パイオニアと並ぶオーディオ御三家と呼ばれるまでに成長を遂げます。
JBLの強力なアルニコ磁性体を使ったレスポンスが極めて早く強力なスピーカーユニットをドライブするアンプは当時の主流であるNFB(負帰還)では無理です、ダイレクトに入力を増幅し高速で出力に伝えなければなりません。
そこでお家芸の強力なトランスが打開の鍵となりました、強力な電源トランス、巨大な容量の電解コンデンサ、これによってレスポンシビリティが極めて高くダイナミックで硬質な低音域を発するアンプが誕生したわけです。
90年代になると世はバブル景気が終焉しオーディオ氷河期に入ります、高額なオーディオ製品はピタッと売れなくなりました。
サンスイはこの時代をお家芸を捨ててまで生き残りを図りましたが、サンスイサウンドが消えたアンプにジャズファンはガッカリです、そして徐々にオーディオの歴史からサンスイの名前が消えていったのです。
90年代中盤から現在に至るまで、70年代から80年代に凌駕したサンスイサウンドと称された音質のアンプは作られていません。
したがってジャズファンは70年代~95年に製造されたサンスイのアンプを大事に使い続けるしかないのです、ジャズファンの多くのシステムはいまだにアンプはサンスイでスピーカーはJBLかダイヤトーンです。
サンスイとダイヤトーンが消えた今、ジャズファンの嘆きが聞こえてきます、「アンプとスピーカーを新製品に変えたくも、買いたくなるアンプもスピーカーも無い!」と。

ラックスマンの祖業は錦水堂額縁店のラジオ事業でした、当時錦水堂が発刊した「ラヂオブック」は多くの電子工作マニアを釘付けにした電子工作の神本でした。
これをきっかけにして、多くの電子工作雑誌が発行されるようになったのです。
ちなみに昭和初期の頃は「ラジオ」ではなく「ラヂオ」と記述していました、面白いですね。
日本の電気工学ものづくりに大いに貢献した1冊、どれほどの価値が有るか解りません。
私が電気工学に目覚めたのは中学2年生くらいの頃です、いろんな物を雑誌を見ながら作りましたが、大作は真空管5本を使ったラジオ(五球スーパーヘテロダイン)です。
生まれて初めてのハンダ付け、祖父に教えてもらいながら半日かかりましたが、音が出た時には嬉しかったですね。
この真空管ラジオ、まだ実家に残っています。
実家から真空管アンプや大型スピーカーを持ってくる時に、一緒に持ってくる計画です。
そんな電子工学少年の育成に貢献した「ラヂオブック」、その頃の雑誌に表紙だけ載っていた記憶があり、50数年経った今ネットで探したらなんと書籍の全てが公開されていたのです、なんという善き時代になったのでしょう。
真空管アンプの基本がここに在ります。
錦水堂ラヂオブック 出筆者:早川迭雄(ラックスマン創業者)
https://ay-denshi.com/download/radiobook_1.pdf