
いつの頃からだろうかハイエンドアンプからトーンコントロール機能が消えたのは、これは日本だけではなく海外のハイエンドオーディオ製品も同じような傾向になっています。
確かに以前はスピーカーに合わせて音質を調整することはありましたが、最近ではソースダイレクト機能を使って不要なコントロール部分を全てバイパスしパワーアンプ部分だけで聴くようになってきています、つまり使うのは電源スイッチとボリュームだけなのです。
ハイエンドなアンプには当然ハイエンドなスピーカーを使うのが普通です、その意味ではプリメインアンプに求められるのは入力セレクタと音量コントロール、そして小音量で聴く場合のラウドネス機能、レコードプレーヤー用のイコライザーとサブソニックフィルター、この程度があれば充分なのです。
トーンコントロールはフルレンジや未熟なスピーカーを使う場合には音質の補正という意味で重要な機能なのですが、ハイエンドアンプに安価なブックシェルフや自作のフルレンジを繋ぐ人はいないでしょう、それよりも余計な回路を排除してできるだけクリアな音質を創出したい、そんな意味合いが強いように思います。
また、オーディオ歴が長くなればなるほどトーンコントロールを一切使わなくなるのです、これは本当に不思議なことですが多分にもれず私もそういう過程を踏んで今があります。
オーディオ歴が浅い頃はいろいろ音を変えては楽しむものですが、徐々にソースダイレクトが実は最も聴きやすい音質だということが解ってきます。
そして、いつの日かトーンコントロール機能の無いハイエンドアンプを買い求めるようになるのでしょう。
性能の良いスピーカーがあればCDプレーヤーをダイレクトにパワーアンプに直接繋いで聴いてみてください、誰もがトーンコントロール機能は不要だと思うでしょう。

最新のサラウンド方式であるドルビー・アトモスやDTS:X方式での立体3次元サラウンドを手軽に実現できるのがイネーブルドスピーカーという存在です、ドルビーサラウンドの最新のドルビーアトモスではフロントスピーカーの上面から音を出すフロントハイというチャンネルがあります。
このチャンネルによって5.1Chでは平面だったサラウンドが3次元のサラウンドに変わります、したがってドルビーアトモス対応のAVアンプは7.1Ch以上のチャンネル数が必要になります。
フロントハイでは天井にスピーカーを設置しなければならないのですが、このイネーブルドスピーカーは天井にスピーカーを設置しなくてもフロントスピーカーの上に乗せるだけでフロントハイと同じ効果が得られるという代物です。
イネーブルドスピーカーのスピーカーユニット面は斜め上を向いています、この角度によって音が天井に反射してフロントハイと同じ効果を得られるように考えだされた方式です。
ドルビーアトモス対応の最新AVアンプではイネーブルドスピーカーを使用するかしないかを設定でき、イネーブルドスピーカーを使用する場合は必ず設定をオンにしなければ効果を発揮できません。
音の反射で上空から音を響かせるのですから、フロントスピーカー以上の強力な中高音域が必要とします。
したがって、イネーブルドスピーカーは小型ながらも最大入力W数が150W以上と強力なユニットが搭載されています。
デノンのイネーブルドスピーカーSC-EN10Mを単独で音質を確認すると、低音域も100Hz程度まで出るし超小型ながらも流石に中高音域の伸びと張り出しは凄いです。
しかし実際のシステムに組んだ場合ではフロントとサラウンドスピーカーとの音圧差が出て効果はあまり感じられません、各チャンネルの音圧をしっかり合わせる必要があり、フロントやサラウンドと同じシリーズのセットで使わないと意味が無い存在となる可能性もあります。
シリーズで使用できない場合は、無いよりもまし程度となりますがマンションなどで壁にスピーカーを取り付けられない場合は有効な手段となるでしょう。

オーディオ道楽とは実に多くの雑学が必要だと思うことがあります、雑学と言えばよく混同される言葉に「トリビア」がありますが、雑学とトリビアとは意味がかなり異います。
トリビアとはラテン語の三叉路を意味し、古代ローマで三叉路は極ありふれた風景であることから「どこにでもある風景」=「どうでもいいこと」を意味する言葉として用いられるようになりました。
近年では、特に「生きていくためには役にたたないウンチク」を指して言われるようになりました。
他方の雑学は確かに役にたたない知識もありますが必ずしもそうでもありません、その意味ではオーディオで身につく雑学の多くは生活に密着しているものも多いのは確かです。
オーディオの技術分野としては電気工学・物理学・流体力学(空力)などが存在していますが、これらを総合させた音響工学、そして金属や木材・紙・布といった素材の知識から各種の特殊工具の知識などが得られます。
これらの知識は、道具や材料が無い時などに代用品のヒントやオリジナルの新たな工具や素材を作る知恵となります。
また電磁波や空気振動で起こる不可思議な現象を理論だって解明することができます、これによって不要に不安になったり怖がらずに済みます。
都会では高層ビルの部屋の窓から話し声が聞こえてくることが多々あります、実はこの現象は音の集音・合成・共鳴・反射などの音の性質の条件が揃ったことによって起こり得るという説明ができます。
直線では1メートルほどしか聞こえないひそひそ話しでも、話す場所によっては集音・合成・共鳴・反射作用によって特定のポイントにだけですが100メートル以上届くことは数々の実験で実証されています。
レストランや居酒屋でもこの現象は起きますので、内密の話しがあるときには角の席は避ける事をお薦めします、特定の場所に居る人に丸聞こえになってしまいます。
こういった知恵以外にも多くの知識や知恵が詰まっているのがオーディオなのです、これを道楽として継続していると自然に自身の体験によって身についてくるのです。
テレビなどの電化製品を本来の使い方だけではなく、ニーズに合わせて他の電化製品と組み合わせて世の中にはまだ存在していない新たな電化製品を作り上げる事も可能です。
オーディオタイマーやオーディオトランスミッターなどはこういったアイデアで生まれた商品なのです、オーディオを通して得られる知識や知恵は意外にも実生活に密接に関係しているのです。
90年代のハイコンポ全盛期の機種だけで組んだ、私にとっては極めて懐かしくまたお奨めできるセレクションです。
実はこのシステム、私のオーディオ黄金時代でもありビジネスでも倍々ゲームで急成長を遂げていた頃に自宅の書斎の資料などを入れていたローボードの上に置いていたものです。
初期の頃のスピーカーはビクターのSX-311と合わせていたのですが、その後SX-311はホームシアターのサラウンド用に使用することにしたため、オンキョーのD-202AX-LTDを急遽購入し合わせていました。
D-202AX-LTDは小型ながらも低音から高音まで極めてバランスが取れた愉音を発した為、エンクロージャーのみ異なるD-202AXを予備に購入したほどです。
改めて約20年ぶりとなるシステムを再現して音を確認してみると、愉音を醸し出していた記憶が強かったのですが、この2年間いろいろなシステムを組んでは音を再確認して耳が肥えてしまったのか、それとも現在の常用システムの音が半端じゃないのかイマイチの音に聴こえてしまうのです。
仮設置で充分にスピーカーの間隔を取ってないのか部屋の真ん中だからなのか、理由は各種有ると思いますがしっかり設置すれば当時の音が蘇ると思います。
イマイチとはいえ、やはりD-202AX-LTDの中高音の張り出しとシャープさは光ります、後ろに壁があると回り込んだ低音が上手く反射してきっと豪快な音に変わるでしょう。
現在、オーディオの中古市場がオーディオ全盛期を彷彿させるほどに拡大成長しています。
本システムでGE-1001以外はそう難しくなく手に入ると思います。
是非とも、オーディオ氷河期に出現したハイコストパフォーマンスなハイコンポ製品群の音を愉しんで頂きたいと思います。
この音を確認せずにして、今のオーディオの音色云々と語ることはできません。
最後に製品の音質バランスはある程度価格が反映されます、その意味ではこのシステムはバランスが取れた価格配分になっています、所謂オーディオ黄金比です。
当時、オーディオ氷河期でのトータル24万円のシステムは決して気楽に買えるものではないと思いますが、やはりこのくらいの価格になると音はガラッと変わってきます。
90年代ハイコンポで組んだサブシステム

プリメインアンプ:ケンウッド A-1001(1993年発売、定価6万円)
CDプレーヤー:ケンウッド DP-1001(1995年発売、定価4.8万円)
パラメトリックイコライザー:ケンウッド GE-1001(1995年発売、定価3.8万円)
スピーカー:オンキョー D-202AX LTD(1998年発売、9.4万円)

90年代に入るとミニコンポやマイクロコンポなどサイズを小さくしたコンポが生まれます、これらのうち単体でも発売された音質に拘る製品をハイコンポと呼びました。
このハイコンポに各社一斉に新商品を次から次へと継ぎ込み、90年代中盤にはハイコンポ戦争が勃発します。
ここで一つ面白い現象が起きています、それはハイコンポ戦争の裏側にもう一つの戦争が静かに起きていたことです。
それはエントリークラスの薄型コンポです、ハイコンポは横幅をダウンサイジングしたのに対してフルサイズコンポの高さを半分程度にしたのが薄型コンポです。
この薄型コンポは後にデノン・オンキョー・マランツの三つ巴となり定格出力を抑えながらハイスペックなアンプが排出され、音質的には極めてハイコストパフォーマンスが高いアンプ群です。
きっかけはデノンのPMA-390でしょう、1989年発売で約4万円ですが高音質に驚きます。
更にPMA-390はその後大ブレークし、マイナーチューニングを施しながら2020年頃まで後続機が生みだされる大ロングライフなシリーズに発展しました。
次いでオンキョーはインテグラA-913を投入し徐々に参戦するメーカーが増えてきます、パイオニアやヤマハも加わり、オーディオ氷河期の90年代も低価格のエントリークラスではハイコンポ戦争の影で静かなる熱き戦いが繰り広げられていたのです。
マランツは遅れて2000年に入るとミドルクラスからエントリークラスまでを揃えての参戦で、これはこれで実に見応えのある形相を博していました。
ところで、この薄型コンポですがオンキョーA-913(後にA-912が誕生する)やデノンPMA-390などの音質は抜群で、価格からは想像できないほどの愉音を発します。
80年代のアンプ798戦争時代の再来がこの薄型コンポ戦争と先のハイコンポ戦争です、戦争が勃発するところには必ずハイコストパフォーマンスな優秀なアンプが誕生します、それらを確実に拾ってコレクションするのもまた愉しいのです。