
オーディオ黎明期の60年代~70年代には真空管アンプで、70年代後半以降のトランジスタ時代になっても常に高級ハイエンド製品で日本のオーディオ界を牽引してきたラックスマン、2000年以降も真空管アンプの復活や話題性に満ちた製品を出し続けています。
そんなラックスマンの栄誉ある道のりの途中には屈辱的な試練の時代も在ったのです、独占的な60年代とは打って変わり60年代後半からオーディオブームに乗って大手家電メーカーは勿論のこと、それまで無線機や電気部品を作っていたメーカーがこぞってオーディオ業界になだれこんできます。
70年代中盤にはラックスマンの牙城であった高級ハイエンド製品を各社が揃って出してきます、特に70年中盤に起きた各社一斉に投入したプリアンプとパワーアンプでのセパレートアンプ戦争はオーディオマニアは狂喜乱舞でしたがメーカー各社は戦国時代の真っ只中です。
そんな70年代の戦国時代を制したのが、後にオーディオ御三家と呼ばれるサンスイ・トリオ・パイオニアでした。
この御三家の快進撃の裏で経営的に窮地に立ったのがラックスマンでした、70年代最後の年に対抗策として赤字覚悟でのL-400などのライバル会社と同額程度のリーズナブルなアンプを出すも更に経営を圧迫することになります。
そのラックスマンを救ったのが当時カーオーディオ界で栄華を誇っていたアルパインです、1981年に名門ラックスマンはカーオーディオキングのアルパインの経営傘下に入ります。
しばらくは低価格ながらもラックスマンらしい製品を作り続けるのですが、1985年にアンプ798戦争が勃発するや、なんと高級ハイエンドで地位を固めていたはずのラックスマンはALPINE/LUXMAN(アルパインラックスマン)のブランドで製品を出すのです。
その製品とはラックスマンの冠には相応しくないブラックフェースで、プリアンプがFET、パワーアンプの初段が真空管、パワーアンプの終段がMOS-FETという何とも中途半端なハイブリッドアンプを創出し798戦争に参戦したのです。
この時の製品がLV-105とLV-103という製品で、しばらく続作も出しますがイマイチぱっとしない製品で終わってしまいます。
並行してLV-102という中段に真空管を使わずFETのみのシンプル設計のプリメインアンプも出しており音的には私はこちらの方を高く評価しています、また真空管を中途半端に使うよりも故障も少なくて音質的にも解っている人はこちらを選んで買ったことでしょう。
結局90年代に入り本来のラックスマンの姿に戻りますが、この85年からの5年間はラックスマンの長い歴史にあってもっとも屈辱的な時代ではないかと思うのです。
いまだにLV-105とLV-103は「名機じゃなく迷機」と言われています、ちなみにマニアが注目しなかったLV-102はコストパフォーマンスが極めて高くラックスマンらしい音質を伝承した隠れた逸品です。
しかし面白いもので迷機の数々はラックスマンの屈辱的遺産としてマニアの間で後に静かなブームを生みます、今もなお中古をオーバーホールしては高値で取引されているのです。

1980年代に起こったスピーカー598戦争(1台5万9800円、セットで約12万円)は、オンキョーのD-77の発売によって勃発しました。
そんな激しいミドルクラスのスピーカー598戦争ですが、その裏でも別の598戦争が水面下で繰り広げられていたのです。
その裏の598戦争とは、1988年に勃発したCDプレーヤーの598戦争でした。
この年の5万9800円のCDプレーヤーを一気に列挙してみましょう。
ついでと言ってはなんですが、それぞれの製品の要であるDAC仕様も調べましたので合わせて紹介しましょう。
・ソニー CDP-228ESD バーブラウンPCM58P(モノラルDSPを左右分離で使用)
・ケンウッド DP-7010 バーブラウンPCM58P(モノラルDSPを左右分離で使用)
・ビクター XL-Z521 バーブラウンPCM56P+2bitディスクリートDAC
・パイオニア PD-717 アナログ・デバイセスAD1860N-J(モノラルDSPを左右分離で使用)
・テクニクス SL-P777 松下電器MN6741(独自の1bitマッシュ方式)
さて、その後CDプレーヤーやユニバーサルプレーヤーで名を馳せるデノンはCDプレーヤー598戦争を他所に6万円ジャストの値付けでマイペースな製品作りをしていたのは面白いです。
アンプ798戦争やスピーカー598戦争、そういった世の流れには翻弄されずのこの我が道を行くという姿勢は立派です。
今となってはですが、どの業界でも他社動向に翻弄される企業よりもマイペースに進めていた企業がバブル崩壊後に拡大成長していった、この事実は事実として記憶してほしいと思います。

ホームシアターとハイファイオーディオでは求める音質が異なる為に、同じシステムで両立させようとするとどちらかの音質が犠牲になることになります、しかし物は考えようで工夫すれば両立も可能になります。
まず重要なのがフロントスピーカーです、何故ならホームシアターとハイファイオーディオで共有するスピーカーが唯一フロントスピーカーだからです。
AVアンプでステレオモードにすると、センターもサラウンドの各チャンネルもパワーアンプ部がシャットダウンしてフロントのパワーアンプ部だけが稼動するようになっています。
ちょっと昔のAVアンプではセンターチャンネルやサラウンドチャンネルは手動でオフするスイッチが付いていましたが、現在のAVアンプは全て自動で行ってくれます。
さて、その共有するフロントスピーカーをハイファイオーディオ用の高音質トールボーイや、ブックシェルフなどのハイファイオーディオに耐えうる音質のスピーカーを使うことが再重要です。
またAVアンプは基本的にハイファイオーディオ用のアンプに比べて音質は劣ります、これをサポートするのがハイファイ用のプリメインアンプかパワーアンプとなります。
AVアンプのフロントスピーカー端子に直接フロントスピーカーを繋ぐのではなく、AVアンプのフロントプリアウトにプリメインアンプかパワーアンプを繋ぎ、その先にフロントスピーカーを繋ぐのです。
この時にフロントスピーカーのスイッチをオフにするとAVアンプのフロントパワーアンプもオフになり無駄な電力消費を抑えることができます、つまりこの場合のAVアンプはサラウンドプロセッサーとして機能します。
さて結果的にどうなるかというと、ホームシアターではAVアンプはサラウンドプロセッサーと化してセンターとサラウンドのパワー部のみ稼動することになります。
フロントはAVアンプのプリ部だけを通してプリメインアンプやパワーアンプの高音質の音質で駆動することになり、ホームシアターでは勿論、ステレオモードで高音質のハイファイオーディオを堪能できるのです。
これでCDでのハイファイオーディオもブルーレイやDVDでのホームシアターも高音質で堪能できる両立システムが出来上がります、理論を知ってテクニックを駆使すればどんなことも理想通りに実現させることができるのです。

これは昔から本当に不思議に思っていたことなのですが、60年代後半ごろから数多くのオーディオブランドが乱立してきましたがオーディオ好きな人はサンスイやダイヤトーンを選んでもパイオニアの製品を選ぶことは稀なのです。
90年代後半にハイファイオーディオからサンスイやダイヤトーンのブランドが消えた後も、オンキョーやデノンを選ぶことはあってもパイオニアを選ぶことはほぼないのです。
事実、私はパイオニアの製品は現在ではDVDやブルーレイプレーヤーだけで、過去一度もパイオニアのアンプとかスピーカーを買った記憶がありません。
別に嫌いな音という訳ではないのですが、何故か事前に決めていても買う段階で躊躇い最終的にサンスイやオンキョーに心が移ってしまうのです、こんな事が過去に何度あったか解りません。
買った記憶が無いので当然ビンテージアンプコレクションにもパイオニアは1台も入っていません、面白いことに798戦争時代には意識もしなかった脇役のビクターを加えてもパイオニアを加えようともしない理由も意味も自分でもよく解りません。
でもオーディオ界のパイオニアは昔から一般的には非常に人気が高いのです、若い世代からお年寄り世代まで女性には特に人気が高いように思えます。
面白いことに現在パイオニアが事業提携しているオンキョーとデザイン的にもよく似ている製品を両社のブランドで出しているのですが、オーディオファンはオンキョーを一般の人はパイオニアを選ぶようです。
そういえばオーディオショップの中古市場にはパイオニアのアンプやスピーカーが殆ど見当たらないのです、ショップ店員に聞いたことがあるのですが、他のメーカーよりも持ち込み数が少ないということはないのですが並んだ瞬間にすぐ売れてしまうのだそうです。
なのにオーディオ道楽の友人たちとの会話ではパイオニアの名前すら出てくることもありません、これはいったい何故でしょう?
理由はいまだに闇の中ですが、パイオニアはマニアには好まれなくも一般的には極めて好まれる傾向にあるという話です。
ただしCDやDVDなどのデジタルプレーヤー部門だけは例外のようです、マニアの間ではパイオニアのLD(レーザーディスク)はいまだにレジェンドとなっているのです。

70年代~80年代のミドルクラス以上のアンプには、フォノ入力でMM/MCという切り替えスイッチが付いています。
エントリークラスのアンプには単にフォノしかありません、切り替えスイッチが無い場合は全てMM型と覚えておいてください。
MM型/MC型というのはカートリッジのピックアップ方式の違いで、MM型はマグネット方式、MC型はコンデンサ方式というものです。
マグネット方式はレコードの溝の信号を読み取った針によって稼動するマグネットがコイルの中に入っており、これによって起電させる方式で安価に製作でき一般的な方式です。
対して後から生まれたコンデンサ型は、平行に取り付けた金属片の間隔を溝の信号を読み取った針によって変化させることによって生まれる静電容量の変化を電気信号に変える方式で、MC型専用のイコライザーが必要になります。
つまり、MM/MCの切り替えスイッチが付いているアンプは、MM型とMC型それぞれの2種類のイコライザーが付いているということになります。
さて問題はその音質なのですが、MC型は繊細な音が要求される場合には必須で小さな音でもノイズが入りずらく高音質と言われています。
対してMM型は、ダイレクトに起電された信号を復調するだけなのでダイナミックな音だと言われています。
ただ、マグネット+コイルという機構は周辺に存在する磁気の影響を受けやすくノイズが入りやすいと言われています。
ただ、これも実際に実験してみるとMM型もMC型も大きな違いはないと実感できます。
私の持っているアンプが個性が強い物ばかりなのか、スピーカーのせいなのかは解りませんが、少なくてもエントリークラスの製品ではなくハイエンドのセパレートアンプにオンキョーのD-77MRXという3ウェイの大型ブックシェルフスピーカーで視聴した結果です。
平均的なMM型に比べて高価なMC型、いったいどんなジャンルのどんな音を追求している人が使うのだろうかと思うのは私だけでは無いでしょう。