レコーディングなどの業務用オーディオ界にはエンハンサーという聴き慣れない編集装置があります、このエンハンサーという機械は何をするのかというと原音を元に各種の整形を行う装置です。
例えば楽器の音の強弱や波形をシャープにさせて刺激的な音にするなど音を詳細に加工するのです、最近ではこういったエンハンス装置を使って古い録音を最近録音されたように加工するというリメイク版のCDなどは当たり前のように存在しています。
昔の録音のぼやけた音がくっきりした迫力ある音に変わるのです、まさに魔法の装置です。
また音だけではなく映像用のエンハンサーもあります、同じように昔のぼやけた映像がくっきりした現代の映像に変わります、更にモノクロ映像がカラーになったり1K動画が4K動画になるなど効果は凄いものがあります。
エンハンス技術は最近のものは全てソフトウェアによって行われます、つまりエンハンサーという装置にはDSP(デジタルシグナルプロセッサ)が入っており、高性能な信号処理を行う専用のパソコンだと思えば解りやすいでしょう。
こういった音や映像を加工する技術ですが、最近の高級ユニバーサルプレーヤー(DVDやCDなど全てのファイルを再生できるプレーヤー)や高級AVアンプにも搭載されています。
つまりリアルタイムに自動で音や映像が加工され、それを愉しむことができるのです。
一度でもリアルタイムエンハンスの音や映像を体験してしまうと、麻薬のようにそれ無しでは物足りなく感じてしまうようになります、こうして高額の製品を買うようになってしまうのです、メーカーの戦略って凄いです。
今ではデジタル対応と謳っている製品はすべてにGPUが入っています、アナログな音の世界もスピーカーの直前まではデジタル加工によって音が作られている製品も多いです、そんな意味でも「オーディオもデジタル全盛時代」と言われているのです。
ホームシアターを手軽に楽しむための中心的な存在がAVアンプです、AVアンプとはAudio Visual Amplifierの略で直訳すると音と映像のアンプとなります。
簡単に言うと映像入出力/音声入出力の切り替え・サラウンドシステム・音声調整&増幅を合わせたアンプで、家庭でDVDやブルーレイディスクなどをソースとして映画館のような音声と映像を1台で楽しむための装置です。
ミドルクラス以上のAVアンプのバックパネルには一面に所狭しと入出力コネクタが配置されており、各種の音声入出力機器や映像入出力機器を接続して相互に入出力を自在に接続できるようになっています。
また、最近ではワイドFMチューナーが付きインターネットにも接続可能で、ブルートゥースでスマートフォンやモバイルAV機器との接続もできるというAVアンプも誕生しています。
ちなみにワイドFM(AM放送をFMで聴くことができる)チューナー付きは「AVレシーバー」、インターネットやブルートゥースが接続できるものを「AVステーション」などと呼ばれることがありますが、いずれにしても基本はAVアンプです。
AVアンプには、サラウンドのチャンネル数によってそのAVアンプがどこまでのサラウンドに対応しているかを示すようになっています。
例えば、サラウンドの基本である「5.1Ch(チャンネル)」とは、フロントLR(左右)・センター(モノラル)・サラウンドLR(左右)+サブウーハー構成となっています。
ここで、「5.1Ch」の最初の「5」がサラウンドのチャンネル数で「.1」がサブウーハーのチャンネル数を表しています。
センターとサブウーハーの出力コネクタが2つ付いているAVアンプは「6.2Ch」となり、実際にAVパワーアンプなどでは存在しています。
これは、モノラルアンプを2セット入れるよりもステレオアンプを2セット入れる方が部品や回路が他のチャンネルと共有化でき総合的に安価になるからです。
では、1つのステレオアンプのLチャンネルをセンターに、Rチャンネルをサブウーハーにすればよいということになります。
最近のAVアンプはICなどを使うのでそのようにしていますが、AVパワーアンプはトランジスタなどによるディスクリート回路で作られており、サブウーハーにはハイカットフィルターを入れる必要性から単純な発想だけでは音質作りも含めて解決しない場合もあるのです。
フロントチャンネルは、AVアンプでステレオ再生(2Ch)をするときなどはハイファイオーディオと同様となるため、ある程度の音質のスピーカーを使うのが一般的です。
90年代以降ではトールボーイ型がフロントスピーカーに使われますが、トールボーイ型である必要もないわけで、ハイファイオーディオ用の大型フロア型でも音質が期待でき全然OKです。
形にこだわるのではなく、あくまでもスピーカーは音質で決めるべきかと思うのです。
トールボーイ型となったのは、フロントには通常大型液晶テレビやプロジェクターのスクリーンが設置されるので、スピーカーの設置面積をできるだけ抑える目的なのです。
1999年を最後にオーディオスピーカーで金字塔を立てたダイヤトーンはオーディオ界から姿を消します、しかし突如としてダイヤトーン70周年アニバーサリーにあたる2017年秋に1台60万円、ペアで120万円という超高級ハイエンドスピーカーDS-4NB70を発売しました。
このDS-4NB70は小型2ウェイの密閉型ブックシェルフで新開発のコーンを使用しています、それにしても小型ブックシェルフでペア120万円とは驚きます。
当時マニアの間では「ダイヤトーンの復活か?」と騒がれましたが、期待のミドルクラスはその後も発表されることはありません、肩透かしを食らったマニア達はこの気持ちを何処へぶつければ良いのでしょう?
この私もオーディオ道楽復活でメインシステムのスピーカーをいい加減に新機種に交代したいのですが、現在買いたい大型スピーカーが無いのです、期待のJBLもググっと心奪われるようなスピーカーが見当たりません。
90年代以降のスピーカーの方向は完全に小型ブックシェルフとトールボーイ型になってきています、トールボーイ型はオーディオとホームシアターの両方を楽しめるようにとのことでしょうが、そもそもオーディオとホームシアターでは求める音質が180度違うのです。
ホームシアターとは別にオーディオシステムを組んでいる人は多いと思うのですが、そういう人の多くはおそらく私のように10年以上も同じスピーカーを使い続けていると思います。
昭和感覚の私のスピーカーのイメージはあくまでも3ウェイ大型ブックシェルフなのです、古き良きオーディオ全盛期のような黄金時代とスピーカーの巨匠ダイヤトーンの復活を強く望むばかりです。
現在売られているCDの中にはSACD方式で録音されているものが存在しています、SACDとは「スーパーオーディオCD」のことでソニーとフィリップスが共同開発したCDの録音再生技術であり、1999年に発表され2000年以降にSACD対応のCDプレーヤーやCDが発売され初めました。
低域も広がったのですが、特に高域特性が100KHzまで伸びており繊細なクラシックの録音再生を可能にしました、現在ではミドルクラス以上のCDプレーヤーに対応しているものが在ります。
また近年では更にハイレゾ方式が出てきていますが、SACDに対応していれば当然ハイレゾ対応の製品だと考えても間違いでは無いでしょう。
尚、SACD対応のCDを非対応のCDプレーヤーで再生すると普通のCDと同様の方式で再生されるようにアップグレードとなっています。
私は、こういう意味でも最新のアンプのDACを信用してCDプレーヤーは消耗品として考え、定期的に新しいエントリークラスを購入する方が賢いと考えています。
最近のオーディオは完全なデジタル時代であり、どんどん新しい方式のDACが誕生して価格も大幅に下がってきています。
10年前の20万円以上のミドルハイクラスのCDプレーヤーでも、現在の5万円のエントリークラスのCDプレーヤーに音質特性的には完全に負けてしまうということも起こりえるのです。
クラシック以外のジャズやロックを楽しむ人なら外付けDACを好みのものに固定して、CDプレーヤーは消耗品と考え数年単位で最新のエントリークラスを買い繋ぐのがよろしいかと思います。
ただCDプレーヤーの中にはレコードプレーヤーのような構造の100万円以上する超ハイエンドのものであれば、製品そのものの骨董価値もあるので持つ意味はしっかり存在していると思います。
買い替えで使わなくなったCDプレーヤーは売っても二束三文ですから、BGM用やおやすみ用のセカンドシステムに使う方が得策です。
ちなみに10年前の15万円のミドルクラスのCDプレーヤーと5万円以下の最新のエントリークラスのCDプレーヤーの音質を同じアンプに繋いで比べてみたのですが、驚くことに最新の5万円以下のエントリークラスのCDプレーヤーの方が音がはっきり分離されて周波数レンジも広く感じるのです。
もっともリファレンスで使ったCDはジャズで50年代~80年代にかけて録音された物です、したがってリメイクされてはいるものの周波数レンジはそれほど広くはありません。
結論としてCDプレーヤーは安価なエントリークラスなものにして、高音質を目指すのであれば外付けのDACを購入する方が賢いし結果的に後悔することもないと思います。
オーディオは正確に原理と理屈を知って割り切ることが肝要です、何事にも知識と知恵がある者が無駄なお金を使わずに済み得をするのです。
60年代・70年代はアメリカ、80年代・90年代は日本、2000年以降はヨーロッパ、これ何の話かというとスピーカーの話しです。
60年代・70年代にスピーカーと言えばJBL・アルテック・タンノイでした、タンノイはイギリス発祥のメーカーですが1974年以降はアメリカのハーマンの資本傘下に入りアメリカに本社が移っています。
70年代には日本のブランドも多数存在していましたが、世界的なスピーカーブランドまでには成長してなく、当時のマニアの多くはこの3メーカーのスピーカーに憧れて自身の部屋で使うことを理想とするのが当たり前のような時代でした。
80年代に入ると70年代に一定の市民権を得ていたヤマハやダイヤトーンを筆頭に日本のスピーカーブランドが急速に奮闘してきます。
ヤマハ・ダイヤトーン・オンキョー・ビクター・パイオニア・テクニクス・ソニーなどがスピーカーでも世界ブランドとして認知され多くのファンを魅了します、この状況は2000年初頭まで続きます。
90年代に日本メーカーで台頭してきたのはオンキョーでしょう、特に小型ブックシェルフでは金字塔を建てていきます。
そして2000年代に入ると台頭してきたのがヨーロッパ勢のブランドです、90年代中盤以降は日本のオーディオ界は氷河期という日本オーディオ界の空白の時代を迎えています。
この空白の隙間を突いてきたのが、DALI(ダリ)やKEF(ケフ)といった当時設立したばかりのヨーロッパのスピーカー専業メーカでした、またイギリスの老舗メーカーであるタンノイやモニターオーディオも日本市場でシェアを奪っていきました。
DALIはデンマーク、KEFはイギリスのスピーカーメーカーで小型ブックシェルフやトールボーイ型に注力し、あっという間に世界のシェアを奪っていきました。
現在オーディオショップのスピーカーコーナーには大型タイプではJBL・タンノイが並び、小型ブックシェルフとトールボーイにはヨーロッパ勢がずらりと並んでいます。
日本のブランドと言えば小型ブックシェルフばかりが目立ち、展示されているのはヤマハ・デノン・オンキョーくらいで寂しいばかりです、逆にDALIやKEFは専門コーナーまで設けているショップもあるくらいです。
それにしてもDALIのスピーカーは小型ブックシェルフでもトールボーイでも繊細で軽快な音色を放ちます、DALIはデンマークのオーディオマニアが究極の音質を求めた結果誕生したメーカーで音質に真摯に向き合う姿勢を感じられます。
日本のブランドも、80年代に世界に誇ったような繊細でありながら軽快な音質のスピーカーをそろそろ本気で出してほしいと願うばかりです。