私は昔から面白い構造のスピーカーが好きでコレクションしています、その中でも技術的に面白いと思うのがBOSEの棒状スピーカーです。
BOSE独自の棒状スピーカーはPA(大衆オーディオ)用のMA12(セットで24万円)とホームオーディオ用の55WER(セットで13万円)というスピーカーをコレクションで持っているのですが、双方アルミニウムのダイキャストで角棒のような形をしています。
この2つは形状がほぼ一緒で幅8Cm・奥行き10Cmなのに高さは120Cmもあり、見た目以上に重いスピーカーです。
何が面白いかというとPA用のMA12の方は5.4Cm口径の小さなスピーカーが12個一列に並んだアレイ型と呼ばれるスピーカーで、この12個の合わせ技で総稼動面積を増やし低音域まで音を出せるようにしているという仕組みです。
また一列に並べることで列に対して90度方向の指向性が極めて高くなり、遠くまで一定の音量で音を届けることができます、つまり縦にすれば左右の横にすれば上下の指向性が増します。
つまり大きなイベントホールに縦に設置すると何処で聴いても同じ大きさの音で聴くことができるのです、その為に空港やイベントホールでは昔から重宝されているスピーカーの一つです。
そして55WERですが、このスピーカーほどオーディオマニアに酷評・悪評・罵声の数々を食らったスピーカーは無いほどの変態スピーカーで本当に何をしても上手く鳴らないのです。
オーディオ用としてもホームシアター用としても、何とも言えない音でドラムやベースがポンポン弾むような音で響きます。
「ドラムやベースが、ドンドン・ブンブンじゃなく、ポンポンって何?」、解り易く言うと音場とかそういう次元ではなく10万円以上もするのに音質は安いエントリークラスのスピーカー以下の音です。
55WERはMA12のアレイとは異なり5.7Cmのウーハー用のユニットを4つ、ツイーター用に5.7Cmのフルレンジを1つ使った変則2ウェイで、ウーハーの取り付け位置が中央のツイーターに対して上下に2つずつ非対称になっています。
この非対称の配置と下部に空けた空洞によって、管内で低域周波数を共鳴させることによる倍音合成によって排出するというアコースティックハーモニー(音響和音)技術を使っているのです。
BOSEは音響工学の天才ボーズ博士によって設立されたオーディオメーカーで、元々電子楽器などのPA用のスピーカーメーカーであり多くの楽器奏者のファンを獲得してきました。
しかし55WERだけは発売以来褒める人はオーディオ評論家を除いては皆無です、私も購入当初はそうでした、設置してすぐ以前のスピーカーに戻したほどです。
でも、ある事件をきっかけに55WERの本質を垣間見る事ができ、その後は上手く鳴らすことができたのです。
そのきっかけとは友人の結婚式です、広い会場で良い音でBGMを響かせMCの音も綺麗に聞かせるスピーカーがありました、それがこの55WERだったのです。
圧巻はカラオケの時間です、こんな綺麗な音で鳴らすカラオケ装置は経験がありません、まるでライブハウスのようです。
家で聴いたのとはまるで別人です、「何だ、この鳴り方!」、思わず声が出そうになりました。
使っているスピーカーは、確かに壇上の左右に置かれた55WERの1セットだけで他には何も見当たりません。
それなのに会場の何処へ行っても同じ音で綺麗に響き渡っているのです、「なるほど、これがBOSE博士のアコースティックハーモニーなんだ!」、「スピーカー内の共鳴効果を言うのではなく、空間全体を一つのシステムとしてデザインされ共鳴させているんだ!」。
ボーズ博士の言葉にこうあります、「音を直接聴かせるスピーカーではなく、空間効果によって聴かせるスピーカーを作る」と。
そうなのです、この55WERはスピーカーというよりも音空間を作り出す装置だったのです。
そう言えば、BOSEのスピーカーは後ろに8個で前は1個という後ろの壁反射で聴かす間接効果スピーカーや、マグカップほどの小さなスピーカー5個で本格的なホームシアターを楽しめるシステムスピーカーなど音空間を意識した製品が多いのも頷けます。
そこで広い部屋に引っ越した際に改めで設置してできるだけ離れて聴いたところ、これが信じられない程の良い音で鳴るのです。
オーバーな話が隣の部屋でもトイレの中でも同じような音がしているのです、まるで家全体にスピーカーを配置させているような感じです、しかもアンプは音出し試験用の安価なエントリークラスのアンプです。
最初に聴いた音とはまるで違います、BOSE特有のちょっと低音域がもたつく感じと高音域の不足感は残るものの、長い時間聴いていても疲れを感じさせない大らかな音です。
「BOSEの音は癖が強い」、オーディオマニアの誰もが口をそろえて言う言葉です、「癖が強い」というのは言いかえれば個性が強い、その個性に合った使い方をしてあげれば良い音で鳴ってくれるのです。
そんな経験をしてからというもの、この55WERは私の中では手放すことができない逸品となったのです。
ちなみにその後3つの飲食店を経営することになったのですが、どの店でもBOSEの小型スピーカー101MMでBGMを流すようにしたのです。
良い音で大らかに音楽を流すと誰もが聴き入ってしまい、大声で騒がしく話す人は皆無になるのです。
ところで何故、大声で話すようになるか?
それはBGMの音が悪いとノイズとなり自分や相手の声が聞き取りづらくなります、だから皆が大きな声で話すようになるのです。
更にノイジーな音はイライラさせるのです、だから争いごとも多くなります。
良い音で空間を包んであげると小さな声でも話しが出来て周囲を気にせずにお酒も食事も美味しくなります、たった1本で部屋を音空間に変えてしまうBOSEのスピーカーは本当に凄い!