過日の新型コロナウイルスパンデミックによりテレワークやソーシャルディスタンスなどの新たな社会構造の変化が次々と飛び出しました、そんな状況はオーディオ界にも大きな影響を及ぼしました、それはオーディオの中古市場が過去最高値というくらいにまで高騰したことです。
その変化を感じたのがCDやDVDなどのオーディオやホームシアターのソースの中古価格が上昇したことによります、更にこの10年ほどの間に発売された割と新しいオーディオ関連製品の中古市場が軒並み高騰しました。
人の心理とは実に解り易いです、外出を控え家に籠ってすることは音楽や映画などの鑑賞というわけです、こういった状況下においては賢い人は購入を控えます、そして世の中の流れを読みつつ沈静化を待って購入のタイミングを見定めるのです。
ただし逆にこういった買い手市場の際にはこれまで探しても出てこなかったレア物が多数出てきます、更に賢い人はこういう時期を逃さず買える時に価格に無関係に確実に確保するのです。
どんな時代でも世の中の動きに合わせるのか、それとも独自の感性に従って他者と逆の流れに乗るのか、その結果は数年後には雲泥の差となります。
私は常に自身の感性に従って動きます、そしてその結果も潔く受け入れる覚悟でいます、どんなことも世の流れに翻弄されるのか自身の感性で動くのか、この判断と行動は非情にもその後の運命を決定する程の結果を齎します。
70年代からオーディオを道楽としている往年のオーディオマニアの間では、「音楽を聴く1時間前にアンプの電源を入れ温めておく」という常識的な習慣が存在しています、そしてこの真相にはしっかりとした根拠が存在しています。
解り易いのが真空管アンプです、真空管はその特性上ヒーターが充分に温まっていないと電子の飛び出しがスムースに行われずに音質にかなりの影響が出ます、と言ってもほんの5分ほどで安定します。
では何故1時間も電源を入れっぱなしにする必要があるのでしょうか、これは実際に経験するとよく解ることです、冬場の冷え込んでいるときなどは特に解り易いのですが電源オンしてすぐに音楽を聴くと低音も高音も張りがなく薄っぺらい音がします、しばらく聞いていると突然いつもの音に急に変わってくるのが解ります。
この現象は特に70年代後半~90年代前半に出たMOS-FETを使用したA級アンプでは顕著に出ます、不思議なことにトランジスタより後に出たFETというのが謎ではあります。
しかし1時間と言うのは少し大げさで、私の経験では長くても10分くらいでかなり安定します。
ヤマハの70年代のアンプはこの傾向が顕著で手持ちアンプのA-5というアンプは30分以上たたないとまともに鳴ってくれません、特に電源オンから3分間程は音量も上がってこないのです、最初は壊れているのかと疑ったほどです。
シリコンで作られたトランジスタやFETも真空管以上に熱を発します、メーカーではアンプの音質調整にある程度通電した状態で各種の抵抗値やコンデンサの容量を変えていき、音質が調った値で最終的な設計図を完成させています。
したがって、通電して温まった状態でないと本来のその製品の音質にならないという確かな根拠がここにあります。
最近のアンプであれば電源を入れてCDをセットしてローディングして聴きだすまでの時間が約1~2分です、このくらいでも音質の変化はほとんど確認できません。
つまり最近の製品であれば電源オンしてすぐ聴いても良い音で鳴ってくれるということです、逆に70年代や80年代のビンテージアンプはやはり聴く前に10分ほど通電するほうが無難だと思います。
90年以前のオーディオ製品で名機と言われたビンテージ製品がオーディオ中古市場で高騰しています、オーディオショップの中古販売サイトで過去の履歴を調べてみた結果なのですが10年前と比べて軒並み2倍以上の値段になっています。
それでもネットに出るや否や即売状態となっています、現在オーディオ界に何が起きているのでしょうか?
考えるに昔の往年のオーディオマニアがビジネスから隠居して自由な時間が取れるようになったのではないでしょうか、これまで仕事で忙しくてオーディオを楽しむ時間が無かったのでしょう、隠居して時間が出来るようになり好きなオーディオに使える時間が取れるようになったのではないかと思うのです。
値上がり率が高いのがラックスマンのアンプです、特に真空管アンプは40年以上経っている中古にもかかわらず発売時の3倍という価格が付いているものもあります、アンプではラックスマンとアキュフェーズ、海外品ではマッキントッシュとマランツの人気はやはり高いです。
そもそも往年のオーディオマニアは当時20歳代ですから当時10万円以上のアンプは月収手取り額の倍ですから神の領域のアンプだったわけです、買いたくも買えなかったというストレスが買える年代になって爆発しているのかもしれません。
押さえていた好きなことを生きている間にやれるのは本当に幸せなことだと思うのです、そして本当に好きなことは例え一時的に中断していても何時かはまたやれるようになります。
やれないときには復活の天の時をじっと待つ、その待った期間に相応して再開の時は喜びが大きくなるのです。
ずばりクラシック音楽の忠実な再生がオーディオ技術を磨いてきたと言っても過言ではありません、それほどクラシック音楽は繊細さを求められます。
クラシックのコンサートに行ってみてください、ピアノやバイオリンのソロにボーカルやオーケストラと全てが広い会場のステージでPA装置なしの生演奏です。
その繊細且つ小さな音から大きな音の変化、ホール内に響き渡る音の反射による複雑な余韻をそのままに再現させようとするとノイズが少なく周波数レンジが極めて広いアンプやスピーカーが求められます。
それがロックやポップスではほぼ音量も周波数の幅も一定です、そこに求められるのはPA装置が繰り出すブーミーな低音やエネルギッシュな中高音域です、繊細さよりも解り易い音のパワーです。
ジャズはアコースティックなピアノトリオやホーン楽器を加えたカルテットやクインテット等でもコンサートではPA装置を入れますからロックにかなり近いといえます、更にはモダンジャズ以降のフュージョンではロックファンも多く音質も完全にロックと同様です。
つまり、クラシックを静かで広い部屋で楽しみたい場合を除きA級の高級ハイエンドアンプや広いレンジの高級スピーカーは意味をなさないのです、そもそもジャスやロックのソースにそういった音が入っていないのですから。
ジャズやロックを軽快に聴きたいのであればインテリア的なことを除外すれば手っ取り早くPA用の製品を使うのが良いかもしれません、価格も半額以下でライブ会場のようなダイナミックな音楽が楽しめます。
私はジャズライブによく行っていたので正直言えばPAオーディオの音質が肌に合っています、とは言えA級アンプとクラシック向きと言われるスピーカーで聴くジャズボーカルやピアノの余韻が残る音質も気持ちが良くなるのでときどきストック棚から引っ張り出しては聴いています。
近い将来には楽器演奏やホームカラオケと併用したライブハウスのように、PAオーディオ製品で埋め尽くした音楽を聴くのではなく楽しむためのミニシアター的な専用部屋を作りたいと考えています。
JBL・アルテック・エレクトロボイス・BOSE、日本ではヤマハなどのオーディオメーカーは実は元々はジャズライブやロックカフェ向けのPAオーディオのメーカーです、スピーカーでは超有名ですがPA用のアンプも当然のこと作っているのです。
現在、ヤマハはPA用のブランドとして「ヤマハプロフェッショナル」でPA製品を出しています。
生演奏や高音質のオーディオ製品で音楽を愉しむことによって耳は音質に確実に敏感になっていきます、ここでオーディオに対する耳の成長ステップというのが存在しています。
先ず最初のうちは低音域に神経がいきます、豊かに低音が響いているかは解り易い尺度でもあります、そのうち低音域の質の違いが解ってきます。
同じ低音でもレスポンスが早くて切れが良く硬質な感じの低音もあれば、部屋に充満するようなドロッとした粘質系の低音もあります、こういった音色の違いは各種のスピーカーを日頃から聴き比べていると自然に解ってくるものです。
次の段階は高音域です、これも最初のうちは高音域が出ているかとか伸びているかなどですが、そのうち同じドラムのハイハットやクラッシャーでも響き方がまるで違うことが解ってきます、音の響きや余韻などに神経がいくようになるとかなり耳は肥えてきています。
そして最後に到達するのが中音域です、中音域は多くの楽器や声の主音域であり音質の要となる領域で出て当たり前の領域でもあるのです、それだけにスピーカーの善し悪しが全て出るとも言えるし最も違いが解りずらい領域であるとも言えるのです。
ボイスでは「艶」と言われている生の声に近い繊細な響きかどうかとか、ピアノやサックスなどが張り出しているがうるさく感じないとか、微妙な音質の違いを聞き分けるにはかなりの経験が必要になってきます。
こういった音質そのものではなく全体的な音の傾向を「音質」ではなく「音色(ねいろ)」と言い表します、音質ではなく音色を感じるようになるとかなり耳が肥えてきていると思います。
また不思議なことに音色に大きく関与しているのが本来であれば悪者扱いされる「歪」です、どの周波数帯域で僅かな歪が生じているのか、この歪によって音色が大きく変わってきます。
歪はアンプとスピーカーに多く存在しています、その固有の歪が音の個性となって現れるのです、ちなみにデジタルアンプは歪がゼロです、その意味ではスピーカーの個性を出しやすいとも言えます。
最初のうちはどのスピーカーやアンプで聴いてもみんな良い音に感じます、それはまだオーディオの耳に成長していない証拠です。
耳もステップを踏んで成長していくものです、経験を通して音質や音色を聴き分けられるように可能な限りいろいろな製品の音を聴いてほしいと思います。
どんなことも一朝一夕では叶わないということです、オーディオも自分の耳が熟すのを待つという余裕がないと本当の意味でオーディオを心から愉しめないのです。
そして本物と言われる名機の音を何度も聴いて耳を善い音に馴らしておくことも重要です、なぜなら比較する音が悪ければ善い音かどうかを聴き分けることができないからです。