「それなら起業しない方がいいです、関係者全員が不幸になるだけだから」
起業したいと相談に来て夢とリスクの狭間で悩む起業志望の人に対して私が発したキツイ一言です、その人は過去に一度仲間と興した起業に失敗し結果的に会社員務めに戻ったのですが自身で会社経営という夢を諦めきれずにいました。
年齢も私と近いということもあり相談後に飲んではいろいろな話しに及びました、その中で最初は笑って過ごしていたのですが看過できない話が何度か出てきたのです。
その話に対して、顧問契約をしてくれた人には「結果を保証する」という責任ある立場の者として冒頭の言葉を発したのです。
何度も出てきた話とは「この歳になると冒険はできないです、結婚したいと思っている人もいます、だからノーリスク・ジャストリターンで起業したい」、加えて「私には守る人が居るのです」というものです。
私が「起業しない方がよい」と言った理由は明らかです、起業する前から自分と家族になる人の安全を確保しつつ最初から確実な収益を上げるという期待自体が経営者の器ではないと思うからです。
本物の志と覚悟が無いなら起業して成功することはあり得ません、守るべき人がいて優先順位が高いのであれば安い給料でも確実に生活できる今の会社員という立場を堅持すべきであり、収益リスクの高い起業など潔く諦めさせるのが責任ある立場のアドバイスだと思うのです。
そもそも守りに入った人に守るべき人を守ることは絶対にできません、守ろうと思えば思うほど守れないのが世の常なのです。
本当に守ろうとする気持ちがあれば相手にも通じ一緒に未来を見て頑張って進めるはずです、結果的にそれでこそ守れるのです。
大切な人を守るには障害と戦い抜き苦境を脱するしかないのです、その結果においてのみ守れるのです。
「守る」とは「守った」という結果が全てなのです、決して方法論でも希望論でもありません、起業する前から「ノーリスク」という考えでは少なくても私は応えることはできません。
自分の報酬だけでなく社員やパートナーの分も自身の手で作るのが経営者の務めです、起業を考える前に自分の思考と素直に向き合うべきだと思います。
事業開始当初から安全に楽して儲かる事業などこの世には有りません、更には成功を収め楽して憂いなく事業を行えていても何時どうなるか解らないのが事業であり経営というものです。
世界的ブランドの超大手企業でさえあっという間に倒産に追い込まれる、これは別に不思議なことではないのですから。
「いろんなことをやられていますが、本当にやりたいことって何ですか?」
門下生からの唐突なる質問でした、私は明確にこう答えました、「独立起業して以来ビジネスで本当にやりたいことをやってきた割合はゼロだよ、そもそもビジネスとはそういうものだし本当にやりたいことなら道楽でやればいいでしょ?」と。
「やりたいことでビジネスする」、最近の起業家の思考とはこういうものなのでしょうか?
私の時代は起業というのは一つの大きな人生を賭けたチャレンジです、「やりたいこと」ではなく「有益な事業を興してどれほどの収益をあげて、どれほどの企業に成長させることができるのか」という自身との戦いなのです、それに勝利した者だけが企業を成長させ成功を勝ち取るのだと思います。
特に1円で起業できる時代になり誰もが簡単に起業できるようになりました、きっとそんな時代の経営者の起業は人生チャレンジの目的ではなく「やりたいことでマイペースに稼げる」という生活手段として考えているのではないかと思うのです。
だから誰にも簡単にできるようなことを「事業」だと思い込んでいるのです、「事業」とは自社オリジナル文化の構築で「その企業独自の事業で最低でも年間1億円の収益を出せなければ事業法人とは言えない」、これが私の時代の一つの事業法人と呼べる起業家の基準です。
ビジネスとは直訳すれば「商売」であり商品や商材を売る行為です、そこに「やりたいこと」は無関係であり必要なのは「収益」です。
「やりたくないことをやれ」と言っているのではありません、これは誰しも生活の為でも継続できませんから言わずもがです、私が言うのは「自分で稼げることを先ずはやるべきだ」ということです。
そして本当に楽しんでやりたいことは道楽としてやることです、生業との精神的バランスを取るためにも必要だと思います。
私はこれを「道楽ビジネス」と呼んでおり、起業以来常に同時並行して各種のことを楽しんでやってきています。
「道楽ビジネス」は実に楽しいです、赤字が続いて資金が無いときには何時でも停止できますし何よりもプレッシャーもストレスもそこには何も無いのですから、そして忘れたころに突然収益化することもあるのです。
「あなたの言う信頼関係って何ですか?」
ある事業提携を提案してきた起業家支援の法人営業の担当の言葉に反応した私の口から思わず出てしまった言葉です、その言葉を発する直前の相手の話は「是非、御社と信頼関係に基づいて共同事業としてやっていきたいと思っています!」というものでした。
いろいろな人が簡単に使う「信頼関係」という言葉、私は例えで使う以外には商談で使うことは一切ありません、何故なら事業提携を考えているくらいの相手で更にその状況が現実に今ここに在るのであれば信頼関係が構築されていて当たり前だからです。
あえて普通は使うことはしないものです、では商談にこれを使うとしたらどんな心境で使っているかということですが、それは「信頼関係」という言葉でオブラートに包んだ「自己利益」を優先しているからに他なりません。
相手を信用していないのではないのです、言葉で包み込もうとする意図が見え隠れしてしまうのが気持ち悪いだけなのです。
その言葉と前後して提案してくるのはこちらには何のメリットもない要望ばかり、だから冒頭の言葉になるのです、本当の信頼関係というのは言葉ではなく姿勢と結果という根拠です。
更に言うなら、相互にメリットが有り長期の良好なる関係が築けると思えば提携当初は信頼関係など無くても提携すると思います、信頼関係が構築されるのはその後の話しなのですから。
それがビジネスという割り切りの世界なのです、何か大きな勘違いをしている人が多いように感じます。
結局は私が結論をあえて保留している間に別の同業者と提携しました、そして1年も持たないうちにトラブルが起きて解消しました、結局はポリシーの無い人のやることはこうなるのです。
「栄華を誇れるのは看板が使えるうちだけだ」
上場企業で長年営業本部長を務めあげ定年退職後に当社取締役常務となった人の言葉です、現役時代は敏腕営業マンとして社内外で名声を欲しいままにしていたほどの人です。
その人が定年退職するというのを聞いて大阪まで会いに行きました、その目的は当社の取締役としての就任を打診するためです。
約5年の付き合いで年齢こそ私より20歳近く上でしたが友達のように何度も飲みに行ってはカラオケなどで朝まで楽しんだ仲でした、技術中心の当社に無くてはならない営業統括という要職に就いてもらおうと考えるのは極自然の成り行きだったと思います。
その日のうちに就任の約束を頂き数ヵ月後当社の取締役として入社してもらいました、入社当初の数年間はさすがに元大企業の看板効果は絶大でした、それまでの当社では相手にさえしてくれない大企業にどんどん入り込めて行きました。
それが3年過ぎたころから状況が一変してきます、それは多くの企業で取締役や要職に就いていた人が退社し新旧交代劇が時期を合わせたかのように連発したのです。
新しい取締役や本部長に挨拶に彼と一緒に行くのですが「前任者は前任者、私は私」というまったく同じ態度をみなさん見せるのです、よく考えてみればなるほど解ります、これまでの関係は前任者と彼のそれまでの役職における信頼関係で成り立ってきたわけです、つまり大きな看板効果があったわけです。
当然のこと新任者にもお抱えの仲の良い業者がいるのですから、そしてそこには別の看板効果による関係が出来あがっているだけなのです。
こんな状況が続き彼は自ら責任を果たせないと退職を申し出てきました、冒頭の言葉はその時の重い言葉だったのです。
「優先すべき事項が違うんじゃないの?」
起業コンサルティングにおいて起業家志望の人に放った私の一言です、未来を夢見て頑張っている人はたくさんいます、でも結果がともなわない人もまたたくさんいます。
気持や目的意識とは裏腹に現実問題との大きなギャップに押しつぶされ結果を残すこともなく去っていく人もまた後を絶ちません、彼らに共通するのが結果を急ぐあまりに起業家に必要なプロセスを全てショートカットしてしまい、結果的に周囲や支援してきた人に迷惑をかけ自分にも失望していくことです。
信頼関係も一夜にして生まれるものではありません、長年かけて培った信頼関係が築かれた人からの紹介だから相手も話を聞いてくれるのです。
それを相談も報告もなく紹介された直後から勝手に商談を進めてしまう人がいます、そしてちょっとしたミスから相手に大きな不信感を抱かせ私に一報が入り水面下の隠密行動が公になります。
そこで私は冒頭の言葉を放ったというわけです、すべての物事には順序というものがあります、家を建てるときに屋根や壁から作りますか?
これはビジネスでも同じことです、必要なプロセスをジャンプして結果を得られることなど皆無です、人間関係もビジネスも結果を急ぐのであれば必要なプロセスを全て踏んだうえで最終確認を行い行動に移すべきです。
「早ければ良い」などというものはビジネス成功の秘訣には在りません、先ずやるべきなのは最終段階に移行するまでのプロセスです、そこを勘違いしている人が意外と多いのには驚くばかりです。
これらは本来会社員時代に徹底して教育され身につけているべき事項です、やるべき時にやるべく事をせずして気持だけは先行してビジネスしようとする人が後を絶ちません。
その人たちが思ったように結果を出せるかと問われたら私は「100%有り得ない」と回答するでしょう、しっかりプロセスを踏んでない料理ほど不味い食べ物はありません、同様に必要なプロセスを踏んでない起業家もまた上手くいかないのは至極当然なのです。