
オーディオ道楽とは実に多くの雑学が必要だと思うことがあります、雑学と言えばよく混同される言葉に「トリビア」がありますが、雑学とトリビアとは意味がかなり異います。
トリビアとはラテン語の三叉路を意味し、古代ローマで三叉路は極ありふれた風景であることから「どこにでもある風景」=「どうでもいいこと」を意味する言葉として用いられるようになりました。
近年では、特に「生きていくためには役にたたないウンチク」を指して言われるようになりました。
他方の雑学は確かに役にたたない知識もありますが必ずしもそうでもありません、その意味ではオーディオで身につく雑学の多くは生活に密着しているものも多いのは確かです。
オーディオの技術分野としては電気工学・物理学・流体力学(空力)などが存在していますが、これらを総合させた音響工学、そして金属や木材・紙・布といった素材の知識から各種の特殊工具の知識などが得られます。
これらの知識は、道具や材料が無い時などに代用品のヒントやオリジナルの新たな工具や素材を作る知恵となります。
また電磁波や空気振動で起こる不可思議な現象を理論だって解明することができます、これによって不要に不安になったり怖がらずに済みます。
都会では高層ビルの部屋の窓から話し声が聞こえてくることが多々あります、実はこの現象は音の集音・合成・共鳴・反射などの音の性質の条件が揃ったことによって起こり得るという説明ができます。
直線では1メートルほどしか聞こえないひそひそ話しでも、話す場所によっては集音・合成・共鳴・反射作用によって特定のポイントにだけですが100メートル以上届くことは数々の実験で実証されています。
レストランや居酒屋でもこの現象は起きますので、内密の話しがあるときには角の席は避ける事をお薦めします、特定の場所に居る人に丸聞こえになってしまいます。
こういった知恵以外にも多くの知識や知恵が詰まっているのがオーディオなのです、これを道楽として継続していると自然に自身の体験によって身についてくるのです。
テレビなどの電化製品を本来の使い方だけではなく、ニーズに合わせて他の電化製品と組み合わせて世の中にはまだ存在していない新たな電化製品を作り上げる事も可能です。
オーディオタイマーやオーディオトランスミッターなどはこういったアイデアで生まれた商品なのです、オーディオを通して得られる知識や知恵は意外にも実生活に密接に関係しているのです。

70年代後半ごろの話しですがオーディオ黄金比率というコンポーネントの価格バランスを示す指標がありました、その指標とはスピーカー:アンプ:レコードプレーヤーの価格比率が4:3:3が理想とされていました。
例えば10万円のアンプであればスピーカーは13万円、レコードプレーヤーが10万円で、この価格帯で組み合わせれば音質的なバランスが良いとされていました。
しかしCDプレーヤーが主流となり、またスピーカーが小型で高性能なものが溢れる現在においては70年代の黄金比率ではバランスが悪くなります。
最近のアンプはエントリークラスでも結構優れたDACを搭載しているものもあり、CDプレーヤーは以前のようにDAC性能で買われるよりもCD読み取り機として買われるケースも出てきています。
私もどちらかと言うとCDプレーヤーに関してはアンプのDACや外付けのDACに依存する派で、CDプレーヤーはデジタル音源を読み取ってくれるだけで充分だと考えています。
ただビンテージアンプをメインにするなら話しが変わります、この場合はアンプにDACは搭載されていませんのでCDプレーヤーには高性能なDAC搭載の物か外付けのDACが確実に必要となります。
その意味では、組み合わせるアンプによって黄金比率が大きく変わってきます。
イマイマの時代にビンテージアンプをメインで使うという人はおそらく余程のマニアだけで普通の人ではいないと思いますので、最新のオーディオ製品の性能等を考えて現在の黄金比率を考えてみました。
その結果、スピーカー:アンプ:CDプレーヤーの価格比率は3:5:2が理想的ではないかと思います、ただしアンプに高性能DACが搭載しているというのが条件になります、スピーカーが小型化し更にそれほど高くなくても高音質が期待できます。
ざっくりとした価格ですが、最新型のエントリークラス製品で小型ブックシェルフスピーカー6万、DAC内臓アンプ10万、デジタル出力対応CDプレーヤー4万、この価格以上のセットであればどんな製品を選ぼうが後悔することなくハイグレードな音質で愉しめると思います。
この場合の注意点としては、アンプとCDプレーヤーは光デジタルかデジタル同軸で接続する必要があります。
ちなみに価格をそれぞれ倍にして20万円以上のアンプになるとエントリークラスではなくミドルロークラスとなり、エントリークラスでは味わえなかったぐっと締まった高次元の音質が期待できます。

世界中で今や日本のラーメンは一つの食文化として認められ、どの人も美味しいと口を揃えて褒め称えます。
ラーメンの発祥の地である中国や台湾の人でさえも、日本に来れば本場の日本のラーメンを食べ歩きするそうです、今やラーメンは日本の一つの食文化となり本場の中国のものとは別物という認識をされています。
またB級グルメであるラーメン店がミシュランの1つ星を獲得したときには世界中が驚きました、そんな日本のラーメンはどの店のを食べても一様に美味しいのですがスープも麺も具もどれをとってもみな異なります。
更には製法まで異なり料理の本来的には別の料理かというくらいに異なりますが、どれもすべてラーメンでありどれもそれなりに美味しいのです。
この気付き、実はオーディオも同じなのではないかと思うのです。
ハイファイオーディオのカテゴリの製品であれば、どのメーカーのどの機種をどのように組み合わせて聴いても一様に「良い音」に感じます。
特にハイファイオーディオに耳が慣れていない人は、どれをどのように組み合わせても「どのラーメンも美味しい」と同じように、「どの組み合わせも良い音」と思うでしょう。
ところがラーメンを食べ歩きし、評価記事を書くようなラーメンの達人はスープ・麺・具・を詳細に分析し、そのバランスや味の根源食材まで見抜いて評価を出します。
これもオーディオマニアと極めて似ています、「良い音」は当たり前として、どのように良いのか悪いのか更にもっと良くなる組み合わせは何かを聴き分けているのです。
そして同じお金を払うならバランスの良い音質で聴き疲れの無い組み合わせを徹底して探るのです、これがオーディオの面白さであり道楽という所以なのです。
音質を極める人は味にも厳しい人が多いのも事実です、自身の五感に感じる存在を意識して極めるのか、それとも無意識で過ごすのか、その差は極めて大きいと思います。
私はオーディオ製品の音も料理の味もワイン・日本酒・ウイスキーなどのアルコールの香りやコクも全部気になります、世の中に存在している見えなくも五感に感じる物を看過できないのかもしれません。

オーディオ道楽とは、本来は音楽をできるだけ良い音で聴きたいからシステムに拘るようになると思っているのですが、中にはオーディオ製品そのものに価値を感じる人もいるようです。
過去にローカルな飲み友達から高いオーディオ製品を買ったのに良い音がしないという愚痴をこぼされました、早々に見に行ったのですがCDがCDプレーヤーに入っているものしかないのです、「これだけ?」と聞くと「そう、他に聴きたい曲もないし」と言う返事です。
良い音が出ない原因の多くはスピーカーの結線ミス(左右の位相反転)か、アンプの調整ミスが多いのですが特にこれといったミスは見つかりません。
でも本当に低音も高音も出ておらずモゴモゴした薄い音なのです、これは私も経験したことがありません、と言うより聴いた記憶が無い音質です。
いろいろ考えているうちに、はっと気が付きCDプレーヤーからCDを取り出して見ました、はい原因はすぐ解りました、なんと入っていたのは自分でPCを使ってダビングしたというCD-RWのディスクです。
確かにPCで録音してPCで再生しても解らないものですが、流石にハイファイオーディオは見事に悪いなりのソースを素直に悪いなりの音に再生してくれるのです。
これがPCとCDプレーヤーのDAC(デジタル・アナログコンバーター)の桁違いに大きな差なのです、おそらくスペクトラムアナライザーを使って計測すればその差は歴然と表れるでしょう。
引き出しにしまったままのオーディオショップで貰ったチェック用のオムニバスCDをかけてみたら、本来のそのコンポの音がちゃんと出るではないか。
良い音で聴きたいというならPCでのダビングもんは止めましょう、それとオーディオ製品にお金をかけるなら、良い音が入っているちゃんとしたCDを沢山買いましょう。

オーディオ道楽復活直後に市場に溢れる小型ブックシェルフと小型トールボーイ型のスピーカーを見て、一種の絶望感に似た心持になった私も手持ちのアンプやスピーカーの動作確認を兼ねた試聴を繰り返すうちに心境の変化が起きてきました。
そのきっかけとなったのがオンキョーのD-202AX LTDやダイヤトーンの業務用小型スピーカー群でした、しっかり買うべき製品をその時代に買っていながら何故大型密閉型にこうも拘っていたのか、見るべきポイントを見誤っていたのだろうかと自身を問い正し始めたのです。
そして何度も比較試聴を行っていくにつれ小型ブックシェルフを前向きに捉えることができるようになったのです、やはりオンキョーのD-202AX LTDやD-212EXの存在は大きかったです。
理想としていたダイヤトーンの大型3ウェイブックシェルフとの比較試聴で、その数年後に発売された小型ブックシェルフの音質や音色が見劣りすることがないのですから認めざるを得ませんでした、勿論低音域は大型3ウェイに適うはずもありませんがバランスという意味では聞きやすい音色です。
それにしてもオンキョーの小型ブックシェルフに懸ける意気込みは相当なものだったのでしょう、容量が1/4でユニット口径面積も1/4にも関らず低音域から高音域までフラットに出ていて、しかもその張り出し感も文句なしなのですから。
価格こそ大型ブックシェルフ並みのそれなりの価格はしているものの、物理的な特性を克服してのあの音質には流石の私も降参しました。
ということで、ようやく小型ブックシェルフや小型トールボーイに目覚めたのですがそのメリットは強烈でした。
なにせ設置スペースは取らないし、ストックスペースも取らないなんてマイナス要素はなにもありません、ただし製品を選ばないといけません。
例え小型ブックシェルフといえども価格に比例した音質になることだけは変わりません、ハイファイを追求するなら最低でもペアで6~7万円のクラスでないと本当のオーディオの喜びは愉しめません。
世の中が変われば自身もそれに合わせて生きる「行雲流水」の心持が何事にも不可欠な要素なのだと思うのです、つまらない拘りやプライドを捨てて時の流れに身を任せてみるのが何事にもよろしい結果となるようです。