
オーディオ関連製品は、昔から他の電化製品と異なり一種独特の中古市場が形成されています。
オーディオはその時代によって技術的な進化が激しく、更にその時代でしか使っていない回路や部品の音が聞きたいというニーズが昔から存在します。
そういった技術的且つ電気工学的価値が存在し、中古品でもオーバーホールされて発売当時の価格以上の高値で取引される製品も少なくありません。
オーディオ業界には修理専門の会社が多数存在しており、そういった会社は常に代替え不可能な部品の確保にジャンク品を中古市場で買い漁っています。
既にメーカーの存在すらないサンスイなどの製品はどのような状態であれかなりのニーズがあります、これらは中古ショップの依頼で新品同様に修理されてショップに並びます、伝説のスピーカーユニットやアンプは発売価格の数倍もする物まで存在しています。
そういったオーディオショップ独自の新品に近い状態にした価値のある中古品ではなく、買い取り販売だけのサービスやネットのオークションなどで個人間で取引される単なる中古品は要注意です。
アンプやスピーカーユニットは精密品です、埃や汚れでかなり劣化してしまいます、こういった見えない部分の汚れが写真だけでは解らないのです、買ってケースを開けたら埃だらけだった、虫の巣窟になっていた、線香の臭いが酷い、油汚れが酷いなどの苦情がネットに多数上がっています。
どうしてもその時代の音が欲しいという強いニーズがあるなら、確実にオーバーホールしてから販売しているオーディオ専門ショップで発売当時より高値であっても購入することです。
それ以外の理由で中古品は絶対に購入すべきではありません、買ってから後悔するのは何事も最も良くない結果を生むことになります、それこそ「溝に金を捨てるようなもの」です。

ひと昔前まではFM放送はレコードと合わせて重要な音楽ソースの一つでした、コンポを買うときには必ずといってよいほどアンプと共にFMチューナーを買ったものです。
それも、FMとAM放送を受信するためだけの製品であるにも関わらず結構な価格がしました。
ラックスマンやアキュフェーズなどは、70年代でも10万円以上した高級機種も珍しくありませんでした。
しかし、今の時代は面倒な手順を踏まずに手軽にネットからダウンロードして音楽を楽しむ時代になりました。
そういった理由からか、今ではFMチューナーをオーディオシステムに組み込まれることも少なくなりコンポーネントとして単体製品も少なくなりました。
そんな時代ですが、この頃はワイドFMが誕生しFM放送が見直され始めてきているようです。
ただし昔のようにFMチューナーではなくて、エントリークラスのアンプやホームシアター用のAVアンプにおまけの機能のような感じで付いているのです。
イマイマの時代は、デジタル化してFMチューナーも安価なLSI一つで高性能な機能のFMチューナーが簡単に組み込めるのでしょう。
最も安価なワイドFM付きのエントリークラスのアンプを探していたら、ソニーから2万円程度でワイドFM付きのフルサイズコンポのアンプが出ておりびっくりしています。
ソニーダイレクトで税抜き1万9800円、家電量販店では税込みで1万7000円ほどです、スペックを見てもひと昔前のミドルクラスのアンプと同程度なのです。
昨年、エントリークラスのアンプの性能を確認するために4~5万円のアンプを3台購入したばかり、サブシステムに手軽に使えると考えてもそんなにエントリークラスのアンプのニーズが無いのでどうしたものかと。
どうしても気になってしまうこのソニーのアンプ、販売終了の前に買ってみようかと考えて実物を見に家電量販店に行きました。
音は聞けませんでしたがツマミ類やスイッチの感触は最悪です、重要なボリュームツマミもセレクタもプラスチックで回したときの感触はまるでおもちゃです。
液晶表示もこれなら不要ではないかと思うくらいの程度の入力セレクタだけの表示です、また全体的な作りも叩くとボンボンと鳴る薄っぺらいアルミの前面パネルなどトータルでは価格をそのまま表しており、とてもハイコストパフォーマンスとは言い難い代物でした。
音質や製品自体の作りなどトータルでのハイコストパフォーマンス機って、こうして探してみるとなかなか無いものです。
どんなにエントリークラスと言えども、アンプは最低でも4万円出さないとオーディオ製品と呼べる代物ではないようです、そんな製品も安かろう悪かろうでは話になりません。

オーディオ道楽を始めるとこれまでの感覚と違ってくる感覚が沸き上がってきます、その最たるものが音楽を聴く意味だと思います。
あくまでも自分の好きな音楽を良い音で聴きたいがためのオーディオであるはずです、それが音楽を愉しめなくなってくるのです。
何気なく聴きながせていた何時ものCD、その音の一つ一つが気になり始めてきます。
締まったベースの音が欲しいとか、耳をつんざくような生々しいトランペットやドラムのクラッシャーの音が欲しいなどと、ここで考えなくてはいけないことがあります。
それは先述の音楽を良い音で聴くのが本来のオーディオの愉しみなのです、音楽を聴くことがストレスとなり苦しくなってくるようであればオーディオ道楽を一旦は止めたほうが身のためだと思います。
重い機器を常に入れ替えたり頻繁に音の調整をしたり、納得いかなければ新機種を購入してでも貫く、でもそれをワクワクしながら愉しんで行うことがオーディオ道楽なのです、その結果においてこれまでよりも良い音で自分の好きな音楽を愉しめるのです。
ときどき見受けるのです、音楽を愉しんで聴くのではなく音のチェックのためにだけに聞いている(聴いているではなく聞いている)ような人が、こうなっては道楽としての本分を逸脱しています。
好きなことを愉しんで行えることが道楽の基本中の基本です、だから私はその時に心が欲する音楽しか聴かないのです、例え音質のチェックのためでも欲していない音楽を無理やりに聴くことはしないのです。
例え好きなジャズでも、自分に合わないと思うCDは身近には置かずに買って一度聴いたらすぐに売ってしまうか欲しいという人がいればプレゼントします。
音を追求する前に、オーディオを道楽とするなら音楽を愉しむことができる状況を継続させることが重要だと思ってやみません。
好きな音楽を愉音で聴きたい、その先にオーディオ道楽が存在できるのです。

オーディオ製品はあくまでも家電です、したがって部屋に置く場合には他の家電と同じようにインテリア性を損なわないようにしたいものです。
本当にインテリア性を意識せずにオーディオを思う存分に楽しみたい場合は、専用のオーディオルームを用意するのが好ましいと考えるのが私流です。
生活空間に違和感のないように、自然な形で音の有る空間を醸し出すというような美しいオーディオライフが好ましく思います。
その意味では、オーディオ道楽復活後はオーディオ&ホームシアター専用部屋と、リビングに置くサブシステムを完全に分けて考えています。
オーディオ専用ルームは逆に他のインテリアを置かずに、オーディオ関連のものしか置きません。
リビングのサブシステムは音を追求するのではなく、音楽を流し聴くようなBGM的な要素を多くして、周囲のインテリアと違和感なく調和するような形や色の製品を選んでいます。
とは言いつつも、ただ聴くだけの家電的なミニコンポではない、と言うのがオーディオ道楽を行う人間として最低限の拘りは出しています。
また、さりげなくそこにオーディオ製品が在るというように目立たない薄型のものを置くようにしました。
オーディオマニアの多くの人の家の中とは、生活の全てがオーディオみたいに部屋中にアンプやスピーカーが散乱しているのをよく目の当たりにしてきた私は、他者の振り見て我が振り直せではないのですがオーディオは生活の一部であって全部ではないという思いが強くなってきました。
オーディオを道楽としても、生活の中にはできるだけオーディオを持ち込まないというくらいにインテリア性を重視してほしいと思うのです。

80年代前半にトリオやパイオニアと共にオーディオ御三家と呼ばれたサンスイですが75年頃からの快進撃は凄かったです、一時期はアンプのシェア40%という快挙を成し得ますが自ら勃発させた85年の798戦争以降サンスイの経営に突然のように陰りが見え始めます。
1974年から12年間代表を務める藤原氏から1986年に伊藤氏に変更すると同時に、伊藤氏の元で会社再建策が実施され希望退職者を募り社員数を25%カットします。
1987年にCIを実施しロゴを変更します、1989年にはイギリスのポリーペックインターナショナルから156億円の出資を受け拡大戦略を打ち出します。
運が悪いのか時期が悪いのか、リスタートをかけたその直後にバブル経済が崩壊しオーディオ氷河期に突入します、更に悪いことにポリーペックインターナショナルが経営破綻し後方支援が無くなり再び財務悪化に陥ります。
1990年に代表を稲宮氏に交代し、1992年に今度は香港のセミテックの資本傘下に入りますがセミテックもこの10年後に経営破綻してしまいます。
1994年からは毎年のように代表が入れ替わり工場や本社などの不動産を売却し移転、更には社員のカットなどサンスイはどんどん衰退していきます、2000年には社員数が50人を割り経営状況は更に悪化の一途を辿ります。
2001年にAU-111Gビンテージを最後にアンプの製造が途絶えます、これが事実上のサンスイのオーディオ史の終焉となります。
2002年にはついにオーディオから撤退し映像機器やパソコンのディスプレイなどを手掛け会社の生き残りを模索しますが、オーディオで築いた金字塔が逆に邪魔をして新事業も上手くいきません。
2010年以降は上場廃止など事実上のゾンビ状態と化し、2014年に破産手続きが開始され2018年に完全に法人が消滅します。
この一連のサンスイの衰退劇をオンタイムで見てきた私として、2000年以降のサンスイはとても直視できるものではありませんでした。
アンプからいきなりパソコンディスプレイです、オーディオ界を引っ張ってきたアンプの巨匠が何を考えているのだろうと正直思いました。
そして破綻後に経済アナリストからこんな厳しい言葉が浴びせられます、「山水の社名の由来は"山のごとき不動の理念と水の如き潜在の力"だそうですが、同社が求めたのは"山のごとき不動のオーディオキングの名声と水のごとき豊富に見えた海外資金"だったようだ」と。
海外資本に染まったかつてのアンプの巨匠、日本メーカーは面倒な株主構成のサンスイには暖かい手を差し伸べたくもできない状況だったに違いありません。
1990年以降のバブル崩壊とオーディオ氷河期のダブルパンチ、そんな中でも安易に他者依存せず自助努力で乗り切ったオーディオメーカーも多いです。
何かを間違えてしまったのでしょう、「優秀な技術も人材も、盤石な経営母体が有ってこそのものだということを忘れるべきではない」、当時の私にとっては大き過ぎる学びでした。