
昔から「男の料理」という概念的な言葉があります、昭和な時代に言われるようになった「男の料理」とは、勿論食べる事を目的にしているのですが作る喜びとその過程を愉しむ料理といえます。
食材の持つ美味しさを究極なまでに引き出す「男の料理」は極めて比経済的でもあります、手間を惜しまず時間をかけるところはしっかりかけて熟成や煮込みを行います。
食べて美味しければよいだけでは納得しないのです、美味しいのは当たり前でそこに熟成や煮込むことでの微妙な味の向こう側に在る要素を引き出そうとするのです。
食材にも拘ります、安かろう不味かろうでは納得せず世界の有名なハムやチーズを取り寄せたりして本物の味をしっかり学んでから料理に活かします。
こんな「男の料理」とオーディオって凄く似ているなと思うのです、納得するまで時間と手間とお金を惜しまない、本物をまず自分で確認してから自分流の方法を編み出していく。
まさにオーディオ道楽は「男の料理」そのものです、オーディオマニアに「男の料理」を行う人が多いのも頷けます。
時間と手間とお金を惜しまず目的としたものを追求する、きっと世界観的に同じものを感じるのでしょう。
「音楽が聴ければ何でもいい」、という男性は多分「食べられればインスタントでもいい」という人なのではないでしょうか、道楽を愉しむ人は確実に食にも拘る人なのです。

オーディオを通して生きたビジネス戦略を学ぶなどという人はほぼいないと思います、私はオーディオから多くのビジネス戦略をリアルタイムで学び、25歳で個人事業主での独立起業や28歳での法人設立しての企業経営に大いに活かしました。
ITで製品化を夢見ての独立&起業も大学時代に読んだオーディオ史を作ってきた多くの天才創業者伝記を読んでいたからに他なりません、更にはそういった創業者が執ったその時代の戦略は勝者と敗者に綺麗に分かれ、本当に多くをオーディオを通してリアルタイムに学び自身でも実践してきました。
特に85年のスピーカー598戦争やアンプ798戦争での各社の戦略、またその後に起きたデジタル大変革での戦略、更にはオーディオ氷河期での戦略、面白いように各社が繰り広げたユニークな戦略戦術が存在しています。
そして一時的に敗者になっても天の時を待ち次代の勝者となるなど、まさに生きたビジネス戦略の多くがオーディオ史に残っています、私のオーディオ道楽黄金時代は私のビジネス黄金時代とぴったり重なっています。
独立や起業、またその後の経営にこういったオーディオ各社から学んだことが大いに活かされたことは否めません。
一時的に王の座を奪っても新たな変化の時代に翻弄され、自流を通せなかった戦略なき企業はあっという間に衰退し崩壊していくのです。
オーディオとは私にとっては単なる道楽ごとです、しかしオーディオ業界の各メーカーは常に死活をかけたサバイバルを繰り返して今に至っています。
道楽というオフの次元で見るビジネスというオンの次元の熱き戦い、自分なりに冷静に他社の経営戦略をリアルタイムに垣間見れたことは極めて大きな生きた学びでした。
そういう意味で「私にとってオーディオは単なる道楽ではなく必然の道楽」、と思えてしまうのです、「オーディオに係る費用はビジネス戦略を学ぶ代金」、何故ならオーディオ各社の戦略戦術は見事なまでにその時代の音に現れているからです。
伝記を読んだだけでは実際の信念は読み解くことはできません、その時代の製品を実際に買って音を聴けばオーディオ各社がどんな戦略を以って未来を見ているのかが解るのです。
学ぶ人はどんな事からもどんな人からも学びます、そして確実に実践を重ねて自分流を編み出していきます、学ばない人は何度教えても頷くだけで何時まで経っても変わるわけでもなく行動の一つも起こさない、つまり何一つ学ばずルーティング人生で終わるのです。
子曰く「一つを学んだら、一つをやってみる」、知識は経験する事で知恵となり、重ねればノウハウとなり徳となるのです、孔子論語で最初に登場する教えが「学びの姿勢」です。
最初の学びが出来ない人に、その後に続く学びの本質を理解できないのは当たり前なのかもしれません。

超高額な所謂ハイエンドと呼ばれるオーディオ製品にあってスピーカーは何故か1本売りが常識化しています、2台1セットで使うオーディオスピーカーが何故1本売りされるのでしょうか、製品によっては左右対称のスピーカーもあり型式も違うので2製品を買って初めてペアで使えるようになります。
オーディオ初心者はスピーカーというのは2台1組のペアでの価格というのが当たり前で1本売りの製品の存在すら知らない人もいます、こういった人がネットなどで購入し「届いたら1本しか入ってなかった、詐欺だ!」と製品レビューなどで大騒ぎしています。
確かに私もそういった製品のネット販売の製品情報を見たのですが確かに1本での価格という表示は何処にもありません、ネット販売業者は騙しているわけではなくメーカーの品版と小売価格を表示しているにすぎません。
ネットに情報を上げる人は単純作業でやっているに過ぎず、オーディオに詳しい人なら誤解されるので一言入れようという発想もできるのですが、それは過度の期待というものでしょう。
やはり購入者は製品の情報をメーカーサイトでしっかり確認したうえで購入すべきでしょう、そもそもオーディオ製品はショップで音や製品を確認したうえで購入するのが当たり前でネットで購入するのはショップで確認した物だけにするのがよいかと思うのです。
こんな混乱を起こしながらも何故メーカーはハイエンド品を1本売りするのかですが根拠はしっかり有るのです、それはメーカー保障できないようなユーザー責任での致命的な破損をした場合に1本だけで購入できるようにしているからです、これが2本ペアなら無傷の1本が余ってしまうし不要なお金を使わせてしまうからという配慮からなのです。
例えば現在ではペアで50万円位のスピーカーから1本売りが散見されます、つまり1本が致命的な破損で購入する場合は25万円で済むということです。
ところでユーザー責任でのメーカー保障外の致命的な破損とは何かというと、それは子供やペットにユニットを凹まされたり破られたりした場合が殆どです、また引っ越しの際に落としてしまいエンクロージャーに大きなヒビや割れを作ってしまった場合などです。

みなさんはオーディオのブランドをあげてみて下さいと言われたときに、名前をあげるトップ3ブランドは何でしょう?
私の世代の人であればスピーカーでは圧倒的にJBL・タンノイ・アルテック・ダイヤトーンなどで、アンプで言えばマッキントッシュ・マランツ・アキュフェーズ・ラックスマンなどではないかと思うのです。
ところが若い人に聞くとBOSE・ソニー・パナソニック・パイオニアなどの名前があがります、時代が変わるとその時代に代表されるブランドも変わってくるのだなと実に興味深いです。
ところで国が変わるとこれも面白い結果となります、例えば現在ヨーロッパで日本のオーディオメーカーをあげてもらうと、日本ではあまり名前があがらないオンキョーやヤマハの名前があがってきます。
アメリカではティアックやナカミチなどです、昔のテープデッキ時代に世界を一斉風靡した日本のオーディオブランドがいまだにあがるのです。
またアメリカでのオーディオマニアへのアンケートで最も名前があがったブランドはB&O(バングアンドオルフセン)というデンマークのオーディオメーカーで、2位はアメリカのBOSE、なんと3位は日本のナカミチだったのです。
現在ではアメリカにおいて最もブランド力を誇るのはクリプシュやBOSEであり、JBLやマッキントッシュは過去のメーカーになってしまった感があります。
また日本のメーカーなのに日本ではあまり人気がなく海外では大人気を博しているのがオンキョーやケンウッドです、東南アジアではソニーがいまだに根強いです、日本では見かけない海外バージョンの製品が至る所で見ることができます。
時代や国が変わればブランドも変わる、その時代や地域に根付く価値観とは本当に面白いです、何故そのブランドなのか、時代とその地域の文化と合わせて考えると納得する答えが見えてくるのです。

近年ネット上に何かと話題を振りまいている日本で設立されたオーディオメーカーがあります、地方都市の畑に囲まれたガレージのような工場で製造される純国産のオーディオメーカーですが、その製品が悪い意味で話題となっているのです。
その理由はケースを開けたらすぐ解ります、ケースの中はスカスカで小さな基板とスイッチ類や可変抵抗が縦横無尽に引き延ばしたケーブルで接続されています。
フロントパネルに可変抵抗がナットで直接取りつけていて基盤が宙に浮いています、トランスや使用している部品はDIYオーディオ必達の極普及品の安価なものばかり、それでいて信じられない定価なのです。
ほとんどの製品が10万円を超えセパレートアンプではセットで20万円以上します、ざっくりとマニアが公開している写真で部品価格を出すとどう見ても数千円です。
開発コストや製造コストを考えても2万円がせいぜいでしょう、2万円といえばケンブリッジオーディオの日本限定販売のアンプが買える価格です、製品だけの価値から言えば日本一コストパフォーマンスが悪い製品群だと思います。
それでも買う人がいるのだから経営が成り立つのでしょう、なんと10年以上継続しているのですから。
それで問題ですが10万円以上の定価が付いているにも関わらず自社ネット販売では30%程度の価格で売っているのです。
これを見た人はメーカー直販なので在庫処分か何かで訳が有り安いのだと思うでしょう、そして高価なものを安価に手に入れたと大喜びする人もいるでしょう。
また、メーカーサイトには代表の顔入りでコメントが載せられています、こういった事実や私なりの検証をした結果、正直もの凄い怒りと悲しみが沸き起こります。
詐欺とは言わないまでも未来のオーディオファンを泣かせることはしないでほしいです、オーディオ製品は確かに物の価値ではありませんし音の価値です。
音が良ければ1万円の商品を100万円で売ったとしても何も法律的な問題にはなりません、とは言え物事には限度というものがあります、限度を超えたビジネスは既にビジネスではありません、そして世間から支持されない企業は何れ淘汰されると思います。