バブル景気まっただ中の80年代中盤頃から、友人と時々ジャズライブを聴きに行っていました。
当時は新宿や銀座・六本木など至る所にジャズやロックのライブハウスがあり、飲んだり食べたり居酒屋同然に気楽に楽しめて、飲食代にプラス2000円程度で生演奏が聴けるのですから当然何時行っても満員でした。
そんなライブハウスで使われているオーディオセットは、当然のこと業務用のPAオーディオです。
その音たるものは「何なんだこれ!」ものの迫力ある爆音で、正直ハイファイオーディオのSN比(ノイズ特性)とか周波数レンジだとかどうでもよくなってしまいます。
重低音は足元からビリビリと身体で感じて、中高音域は皮膚を通して身体を貫くほどに鋭く刺さります。
それでいてまったくうるさく感じず、友人との話し声もしっかりと聞こえるのです。
そんなPAオーディオの音を聴いては、PAスピーカーやPAパワーアンプなどを買って家でもミニライブハウスもどきで愉しんだものです。
バブルの頃には照明にも凝って、ライブハウスのようなスポットライトを幾つも付けてライブ録音のCDをビールを飲みながら週末には朝方までドンシャリ音で聴いていたものです。
業務用のPAオーディオは野外でも使う事を想定していますから、埃や水滴が付いても壊れないような構造をしています、また多少乱暴に扱ってもびくともしません。
それでいて、ハイファイオーディオと同程度のスペックなら価格は半額程度です。
ジャズやロックファンなら、下手なハイファイオーディオを見栄で買うよりもPAオーディオ製品を素直に買った方が思いっきりライブ感を愉しめるのではないかとさえ思います。
「低音が・・」とか「高音が・・」とか見え透いた話しではありません、そんなもの出て当たり前で全音域がバリバリに張り出してないとPAとは言えないのですから。
今現在でも当時のPAオーディオの製品の幾つかが手元に残っています、先日久しぶりに音出ししてみました、やはり音の張り出しはハイファイオーディオの比ではありません、ちなみにこのときはCDプレーヤーをPAパワーアンプにダイレクトに繋いで中型PAスピーカーで試聴しました。
10年ぶりのライブ感に包まれて、正直な話しもう一度当時のホームライブハウスを拡大させて再現してみたくなりました。
小型や中型のPAスピーカーではなく、大型の本格的なライブハウスで使うPAスピーカーをメインに使ってパッシブタイプのバカでかいサブウーハーを専用パワーアンプで繋ぎ、身体で感じる爆音ホームシアターやホームカラオケを是非近未来に実現させたいと思います。
私は子供のころに発病した角膜アレルギーによって、弱視と乱視が混ざった常に遠くも近くも像がくっきりしないという生活を余儀なくされてきました。
子供の頃から角膜に常にアレルギー症状が残り、眼鏡やコンタクトレンズもつけられないことからずっと裸眼で過ごしてきたのです。
昨年の秋ごろからは何とか見えていたパソコン画面もぼやけるようになり、近眼と乱視に老眼も加わりパソコン操作する際には老眼鏡をかけるようになりました。
近眼は老眼になりづらいという話が時々聞かれますが老眼は遠視ではないので関係ありません、老眼は老化現象により遠近の調整ができないために近くの像がぼやける状態なのです、対して遠視は水晶体の慢性的な変形で常に近くの像がぼやける症状です。
さてオーディオと眼鏡の関係なのですが、この1年で老眼鏡を6個も買ったという話です、様々な度数とフレームの形状など種類は全部違います。
これなのです、オーディオでも同じようなアンプを買ってコレクションするのと極めて近いなと思うのです。
機能や音色が異なるとその機能や音色を自身で納得するまで確認したくなってしまうのです、眼鏡も同じようにしっくりくるものに当たるまで買い続けてしまいました。
果ては眼鏡の歴史やレンズの科学まで探ってしまうのです、そして新しい情報を得てはそういった仕様の眼鏡を試してみたくなる、そんなことの繰り返しです。
対象が何であれ興味を持つと同じように納得するまでやり通してしまう、そんな性格からオーディオもきっと今のような状況になっているのだなという話でした。
70年代中盤から80年代中盤にかけて、オーディオ界にDCアンプなるものが存在していました。
当時の高級ハイエンドセパレートアンプや、ミドルクラス以上のプリメインアンプに採用されていたDC増幅回路とは、0Hzつまり直流から増幅できるという恐ろしいアンプでした。
ちなみに、DCとは直流の事で交流はACと言います。
音は当然空気の振動ですから、音楽音源も通常20Hz~20Khzほどの周波数帯域の交流なわけです。
しかし、自然界にはあらゆる周波数帯域の音が存在しています、ただ人間の耳には聞こえないだけです。
例えば波や風の音には5Hz以下の重低音まで含まれています、和太鼓なども単一周波数ではなく10Hz以上の各種の周波数帯域の音の合成によって人間の耳に和太鼓の音として聴こえるのです。
つまり、人間の耳には認識できなくても自然界に存在する音をそのままに再現しようとすると可聴域以外の低い周波数と高い周波数を増幅できるアンプが重要になります。
そこで誕生したのが究極のDCアンプだったわけです。
セパレートアンプではトリオのパワーアンプL-05M、プリメインアンプではサンスイのAU-DシリーズなどがDCアンプの代表格です。
他にも、70年代のヤマハのアンプA-5などはエントリークラスでもDCアンプです。
更に凄いのは周波数レンジの幅です、通常はA級ハイエンドアンプでも20Hz~100KHzですが、サンスイのDCアンプは0Hz~300KHz、トリオの場合は0Hz~600KHzもあり、高域特性も極めて高いのです。
このDCアンプの投入で、サンスイはプリメインアンプのシェア40%以上と一気にアンプ界の頂点に上り詰めたのです。
しかしレコードの再生などで、レコードに傷が有る場合など重低音域の電流がスピーカーに流れコイルを破損する事があります。
そこで、レコード再生時は10Hz以下の音をカットするサブソニックフィルターを付けるという工夫までされているのです。
CDの場合は、音源そのものに20Hz以下は入っていませんのでフィルターオフでも何らの問題もありません。
これらのDCアンプと38Cm口径以上のウーハーで聴く重低音は、もう音ではなく風圧を身体に感じるほどです。
大音量で聴くと、バスドラの重低音でテーブルの上のグラスなどがカタカタと揺れる事もあります。
本物の重低音、一度聴いたら確実に虜になります、こうしてハイファイオーディオの道にずっぽりとハマっていくのです。
音という価値を考えたとき、その製品の持つ絶対的な音質は確かに一つの価値だと思います。
でも私が音に対する価値はもう一つ在るのです、それは貴重な思い出という価値です。
特にオーディオに目覚めた大学時代から、私の多くの善し悪しの思い出が音というメディアに閉じ込められているように感じます。
当時の音を聴くとその当時の出来事が鮮明に思い出すのです、これが私の音に対する一つの価値だと思います。
これと似たことが研究によって確認されています、それは香りや匂いです。
過去の記憶が突然蘇るきっけかの多くに、香りや匂いが関連している場合が多いのだそうです。
夏草が枯れた後の蒸しかえるような匂い(フィトンチッドという化学成分)で少年時代に野原で遊んだ思い出や田舎の風景を思い起こす人も多いと思います、これは無意識の記憶を司る領域に匂いと共に思い出が記憶されているからだとする研究結果があります。
私はこの香りや匂いと同じように音や音楽も無意識の記憶として、当時の思い出と共に記憶されているのだと思うのです。
そういう意味では私のオーディオアンプのコレクションは製品そのものをコレクションしていると同時に、その製品が奏でる音とその音に記憶された思い出のフォトアルバムだと考えているのです。
だから何時でも聴けるように定期的なメンテナンスも苦にならないのです、思い出メディアのコレクションだと考えると更にオーディオ製品に愛着を感じてやみません。
日々コレクションアンプやスピーカーの動作確認を兼ねた音質確認を行っているのですが、ここで面白い結果が表れてきて驚いています。
その面白い結果とは、90年代のハイコンポの音質が極めて優れているということです。
シャーシサイズに合わせて定格出力を下げ、高性能ながらも軽いトロイダルトランスを使用するなど各オーディオメーカーは安価ながらも音質を向上させた製品を大挙投入しました。
事実として、同年代の同メーカーの3倍以上もするミドルクラスのアンプよりも軽快な愉音がするハイコンポが多いのです。
設置も移動も軽量なので楽ですし、ダイニングや寝室で使うサブシステムに選んだ候補の多くがハイコンポだったのは必然でした。
低出力とはいえ、70年代のプリメインアンプ以上の出力でパワー不足はまったく感じません、むしろボリュームつまみが9時の位置でも大きすぎると感じるほどです。
オーディオ道楽黄金期は、サンスイの重量級アンプにダイヤトーンの大型ブックシェルフがメインだったので、小型ブックシェルフやハイコンポ類は確認のための投資という感じでろくに聴き比べもせずストックしてしまっていたのでしょう。
今考えるとなんてもったいないことをしていたのかと後悔しきりです、現在こういったハイコンポたちを存分に使ってあげようと各種の計画を練っています。
ハイコンポは音質が良く消費電力が少ないのも魅力で、高性能なプリアンプとチャンネルデバイダーを使ったマルチアンプシステムのパワーアンプとかAVアンプのプリアウトに繋いで音質改善とか利用方法は幾らでもアイデアが出てきます。
それが可能となるのはこういったハイコンポの多くがプリ部とパワー部を分けて使用できるというスペックになっているからです、これも驚きの機能なのです、80年代までは高級プリメインアンプにしか採用されていなかったスペックなのですから。
こういうスペックを見ても、パワーアンプ部の音質に自信があるという根拠を見つけることができます。
90年代のハイコンポ、何か急に親近感を覚えてしまいました。