ラックスマンの祖業は錦水堂額縁店のラジオ事業でした、当時錦水堂が発刊した「ラヂオブック」は多くの電子工作マニアを釘付けにした電子工作の神本でした。
これをきっかけにして、多くの電子工作雑誌が発行されるようになったのです。
ちなみに昭和初期の頃は「ラジオ」ではなく「ラヂオ」と記述していました、面白いですね。
日本の電気工学ものづくりに大いに貢献した1冊、どれほどの価値が有るか解りません。
私が電気工学に目覚めたのは中学2年生くらいの頃です、いろんな物を雑誌を見ながら作りましたが、大作は真空管5本を使ったラジオ(五球スーパーヘテロダイン)です。
生まれて初めてのハンダ付け、祖父に教えてもらいながら半日かかりましたが、音が出た時には嬉しかったですね。
この真空管ラジオ、まだ実家に残っています。
実家から真空管アンプや大型スピーカーを持ってくる時に、一緒に持ってくる計画です。
そんな電子工学少年の育成に貢献した「ラヂオブック」、その頃の雑誌に表紙だけ載っていた記憶があり、50数年経った今ネットで探したらなんと書籍の全てが公開されていたのです、なんという善き時代になったのでしょう。
真空管アンプの基本がここに在ります。
錦水堂ラヂオブック 出筆者:早川迭雄(ラックスマン創業者)
https://ay-denshi.com/download/radiobook_1.pdf
自身のオーディオコレクションを記録管理する目的で年代別に価格と共にリストアップしているのですが、ここで面白い事実が見えてきました。
それは、70年代から80年代のアンプではサンスイが圧倒的に数が多いということです、またスピーカーではダイヤトーンです。
そして、90年以降になるとデノンやオンキョーの製品群が数を増やしていきます、どの年代にもリストに乗っているブランドがヤマハ・ソニー・ケンウッド(トリオ)でした。
これって、オーディオの歴史とオーディオメーカーの黄金時代そのものを素直に反映しているということが解ったのです。
つまり、私も素直にオーディオの時代における変化をそのままに受け入れていることということです。
時代が変わっても頑なに一環として自身の考えを通す人もいれば、私のように時代の変化に順応して自身を変えていく人もいるのです。
どちらにしても、どっちつかずの中途半端に時代に翻弄される人よりも良いかと思うのです。
それにしても、見事なまでに時代を反映しているコレクションデータに流石の私も驚きました。
今回の手持ち製品の発売時期や価格を改めて調べ直していくうちにいろいろなことが解ってきました、コレクションとはただ集めるだけではなく歴史やその周辺の状況などを学べます、これがコレクションギークの一つの愉しみなのです。
1980年代に起こったスピーカー598戦争(1台5万9800円、セットで約12万円)は、オンキョーのD-77の発売によって勃発しました。
そんな激しいミドルクラスのスピーカー598戦争ですが、その裏でも別の598戦争が水面下で繰り広げられていたのです。
その裏の598戦争とは、1988年に勃発したCDプレーヤーの598戦争でした。
この年の5万9800円のCDプレーヤーを一気に列挙してみましょう。
ついでと言ってはなんですが、それぞれの製品の要であるDAC仕様も調べましたので合わせて紹介しましょう。
・ソニー CDP-228ESD バーブラウンPCM58P(モノラルDSPを左右分離で使用)
・ケンウッド DP-7010 バーブラウンPCM58P(モノラルDSPを左右分離で使用)
・ビクター XL-Z521 バーブラウンPCM56P+2bitディスクリートDAC
・パイオニア PD-717 アナログ・デバイセスAD1860N-J(モノラルDSPを左右分離で使用)
・テクニクス SL-P777 松下電器MN6741(独自の1bitマッシュ方式)
さて、その後CDプレーヤーやユニバーサルプレーヤーで名を馳せるデノンはCDプレーヤー598戦争を他所に6万円ジャストの値付けでマイペースな製品作りをしていたのは面白いです。
アンプ798戦争やスピーカー598戦争、そういった世の流れには翻弄されずのこの我が道を行くという姿勢は立派です。
今となってはですが、どの業界でも他社動向に翻弄される企業よりもマイペースに進めていた企業がバブル崩壊後に拡大成長していった、この事実は事実として記憶してほしいと思います。
70年代~80年代のミドルクラス以上のアンプには、フォノ入力でMM/MCという切り替えスイッチが付いています。
エントリークラスのアンプには単にフォノしかありません、切り替えスイッチが無い場合は全てMM型と覚えておいてください。
MM型/MC型というのはカートリッジのピックアップ方式の違いで、MM型はマグネット方式、MC型はコンデンサ方式というものです。
マグネット方式はレコードの溝の信号を読み取った針によって稼動するマグネットがコイルの中に入っており、これによって起電させる方式で安価に製作でき一般的な方式です。
対して後から生まれたコンデンサ型は、平行に取り付けた金属片の間隔を溝の信号を読み取った針によって変化させることによって生まれる静電容量の変化を電気信号に変える方式で、MC型専用のイコライザーが必要になります。
つまり、MM/MCの切り替えスイッチが付いているアンプは、MM型とMC型それぞれの2種類のイコライザーが付いているということになります。
さて問題はその音質なのですが、MC型は繊細な音が要求される場合には必須で小さな音でもノイズが入りずらく高音質と言われています。
対してMM型は、ダイレクトに起電された信号を復調するだけなのでダイナミックな音だと言われています。
ただ、マグネット+コイルという機構は周辺に存在する磁気の影響を受けやすくノイズが入りやすいと言われています。
ただ、これも実際に実験してみるとMM型もMC型も大きな違いはないと実感できます。
私の持っているアンプが個性が強い物ばかりなのか、スピーカーのせいなのかは解りませんが、少なくてもエントリークラスの製品ではなくハイエンドのセパレートアンプにオンキョーのD-77MRXという3ウェイの大型ブックシェルフスピーカーで視聴した結果です。
平均的なMM型に比べて高価なMC型、いったいどんなジャンルのどんな音を追求している人が使うのだろうかと思うのは私だけでは無いでしょう。
オーディオ道楽復活で10年間の穴を埋めようと情報収集の日々ですが各種の面白い情報が多数得ることができました、その一つに以前にも増して70年代のビンテージオーディオ製品のニーズが高まっているというのがあります。
特に、過去から名機と謳われているアンプやスピーカーが中古市場で高騰しています。
驚くのは音の出ないジャンク品まで高騰している事実です、これらは海外の業者が修理して販売している裏事情があります。
現在の補修技術は凄いものがあります、ボロボロになったスピーカーユニットも新品と変わらないほど綺麗に補修されるのです。
こういった補修済みの名機たちは驚くほどの高値が付いています、私がビックリするのは当時の販売価格もかなりの高額だった商品が現在5倍もするものが存在しています。
デザインも古臭く、スピーカーエンクロージャーなどは50年の年月で臭いが染み込んでいるのもありますが、それでも高額な金額を払ってまで何故手に入れたいのでしょう。
答えはその当時の音なのです、その音を現在再現しようとしたら1から作り上げなくてはなりません。
それを手軽に再現でき払えるお金で買えるなら安いとまで考えるのです、こういったニーズはマニアは勿論のこと買い集めているのは新規創設のオーディオメーカーなのだそうです。
温故知新、「新しきを創造するには昔の名機に学べ」ということです、こういったことは何もオーディオだけではありません、日本の自動車メーカーも同じことでした。
海外の名車を買いまくっては分解して基礎技術を学ぶのです、こういった手法を「リエンジニアリング」といいます。
アナログ復活で突然のビンテージオーディオの人気、オーディオファンとしては歓迎すべきことなのでしょう。