
90年代に入るとミニコンポやマイクロコンポなどサイズを小さくしたコンポが生まれます、これらのうち単体でも発売された音質に拘る製品をハイコンポと呼びました。
このハイコンポに各社一斉に新商品を次から次へと継ぎ込み、90年代中盤にはハイコンポ戦争が勃発します。
ここで一つ面白い現象が起きています、それはハイコンポ戦争の裏側にもう一つの戦争が静かに起きていたことです。
それはエントリークラスの薄型コンポです、ハイコンポは横幅をダウンサイジングしたのに対してフルサイズコンポの高さを半分程度にしたのが薄型コンポです。
この薄型コンポは後にデノン・オンキョー・マランツの三つ巴となり定格出力を抑えながらハイスペックなアンプが排出され、音質的には極めてハイコストパフォーマンスが高いアンプ群です。
きっかけはデノンのPMA-390でしょう、1989年発売で約4万円ですが高音質に驚きます。
更にPMA-390はその後大ブレークし、マイナーチューニングを施しながら2020年頃まで後続機が生みだされる大ロングライフなシリーズに発展しました。
次いでオンキョーはインテグラA-913を投入し徐々に参戦するメーカーが増えてきます、パイオニアやヤマハも加わり、オーディオ氷河期の90年代も低価格のエントリークラスではハイコンポ戦争の影で静かなる熱き戦いが繰り広げられていたのです。
マランツは遅れて2000年に入るとミドルクラスからエントリークラスまでを揃えての参戦で、これはこれで実に見応えのある形相を博していました。
ところで、この薄型コンポですがオンキョーA-913(後にA-912が誕生する)やデノンPMA-390などの音質は抜群で、価格からは想像できないほどの愉音を発します。
80年代のアンプ798戦争時代の再来がこの薄型コンポ戦争と先のハイコンポ戦争です、戦争が勃発するところには必ずハイコストパフォーマンスな優秀なアンプが誕生します、それらを確実に拾ってコレクションするのもまた愉しいのです。

2000年頃から、USBヘッドフォンアンプが各社から続々と発売されるようになりました。
ヘッドフォンアンプという存在は昔から在りますが、多くはミュージシャンや録音スタジオなどで使われるプロ用機器でした。
ホームオーディオではアンプの音質調整用やソースの音質確認等に使用され、価格もミドルクラスのアンプほどで高価なものでした。
しかし、現在は各社が次々と多種多様な新製品を出しており、この状況を理解するには時間がかかりました。
というのも、最初は音漏れを気にして大きな音で聴けない人達が多数いるのだろうと思っていたのですが、どうもそれだけではなさそうです。
勿論、そういった利用法も昔に比べたら多いのでしょう、その根拠にヘッドフォンや高級なイヤホンも多種多様なものが売られています。
さて、このUSBヘッドフォンアンプの本来の使い方以外でのニーズが存在していることに気が付いたのは、最新のデジタルヘッドフォンアンプを購入しようとスペックを調べるようになってからです。
何と、アナログ入力が無く光デジタルとUSBソケットしか付いていないものが多数存在しているのです、時代が変わればオーディオも大きく変わるのです。
さて、そして気付きとは、つまりデジタルとアナログの変換アダプターとしての利用法でした。
USBヘッドフォンアンプは、USBデジタル入力をアナログ出力に変換するのに最も安価で購入できる最適なアダプター、つまり外付けDACだったのです。
ヘッドフォン出力端子はアナログですから、変換ケーブルでフォンジャック-RCAにしてアンプのアナログ入力に問題なく繋げます。
またアッテネーターが必ず付いていますので、パワーアンプと直接繋いでUSBプリアンプとしても使用可能なのです。
勿論、プリメインアンプのAUXにも接続でき、この場合はバッファーアンプやラインアンプといったプリ・プリアンプとして機能します。
これなら、PCやスマートフォンからUSBで音源を入力し音質がお気に入りのアナログアンプで再生できます。
なるほど、世の中には本来の目的以外に使える物って沢山あるのですね。
そう考えると、現代は欲しい物は必ず製品化されているのです、出来ないと考えるのは存在と活用方法を知らないだけなのかもしれません。
やはり知恵(ノウハウ)は、どんなビジネスでも道楽でも多く持っていた者が得をするようになっているのです。

近年のハイエンドオーディオ製品の多くは、スピーカーにしてもアンプにしても極めてシンプルです。
スピーカーではミドルレンジやハイレンジのアッテネーターは付いておらず、バイワイヤリングやマルチアンプに対応したコネクタが付いているだけです。
アンプは電源スイッチと入力セレクタ、そしてボリュームしか付いていません、トーンコントロールもバランス調整もフィルター類や録音機能も何も付いていません。
最もシンプルな高級ハイエンドアンプでは入力セレクタすら付いておらず、アナログ入力1つ分しかコネクタが付いていないという究極のプリアンプもあります、つまりレコードを聴くのであれば外付けでフォノイコライザーを別に付けることを前提にしているのです。
この意図としては忠実にソースの音を再現することにあり、必要最小限の回路のみとしてノイズの元になるスイッチなどによる分岐や余計な回路(部品)を全て排除するという究極の選択による結果なのです。
確かに高級なハイエンドオーディオ製品で聴く際は、トーンコントロールなどを全てジャンプするソースダイレクトスイッチをオンにした状態で聴きます。
スピーカーもアッテネーターが付いていない密閉型で聴きます、したがって何も調整する必要が無いのです。
音を調整する必要があるということは、それ自体にソースの音が忠実に再現されていないという証拠なのかもしれません。
究極のハイファイオーディオの姿とは、レコードのピックアップコイルに電流増幅する概念上のケーブルでスピーカーを直結したようなイメージなのだと思います。
きっとハイエンドオーディオ技術者が求める究極のアンプの姿とは、「電流増幅だけを行わせる導線」なのだと思うのです、これを極めた結果において1台500万円を越えてしまったのです。
究極のアンプとはソース音源に対して「何も足さない、何も引かない」、きっとそういう理想に基づいているのです。
私もいつしかアンプとスピーカーで1,000万円以上というシステムを部屋に置き、静かで広い空間でゆったりと音楽を愉しみたいと思います。

昔から多数存在しているオーディオアクセサリー類ですが、本当に音質向上に効果があるのか誰しも疑問に感じていると思います。
最も多いのがケーブル類です、低インピーダンス(交流抵抗)を謳う高級ケーブル類ですが、正直ハイエンドアンプにハイエンドスピーカーを繋いで試聴しても音質の違いを聴き分けられる人は殆ど居ないと思います。
10メートル以上の距離をぐるっと引き回す場合には効果があっても、通常サイズの部屋で愉しむ程度であればハッキリ言うと無用の長物です。
私も過去には、CDプレーヤーが出始めのころはマランツのライントランス、レコードプレーヤーやアンプに振動を伝えないインシュレーター、スピーカーケーブルなどを多種使ったことがありますが、その価格に対する違いを発見することは正直言うとできませんでした。
大理石の石板の上に針のようなピンで支える10万円もするインシュレーターは、本当に価格だけで相当高額なハイエンドレコードプレーヤーでなければ効果も期待できないと思います。
それよりもソニーの80年代のミドルクラスのアンプはシャーシそのものを非金属の一枚形成された物を使用しています、こちらのほうが電磁ノイズ対策など実質的な効果が期待できます。
ライントランスなどは80年後半で5万円もしましたが現在のCDプレーヤーでは回路や部品の特性上意味も成さない代物です、つまり使う根拠がどこにも見当たらないのです。
ライントランスとは、出始めのころのCDプレーヤーにおけるデジタルからアナログに返還する際に発生した高周波ノイズがラインに乗るのを除去する目的で使用するものです。
アナログ全盛の時代には意味があっても、デジタル全盛時代には意味もなさないものが高価で取引されるのはもしかしてそういった電気的知識が無い人が知らずに買っているだけではないでしょうか?
まさか、この時代に80年代後半に出てきた骨董価値も無いCDプレーヤーを一緒に買うのでしょうか?
存在という骨董価値はあっても、音質に意味の無いオーディオアクセサリー類は本当にどうかと思うのです。
そんなスピリテュアル的な気持ちの問題だけで高価なアクセサリー類を買うのであれば、その費用をアンプやスピーカーに振り分けた方がはるかに効果があります。
使ってみたいとか持っていたいという喜びなら別ですが、アクセサリー類はその技術的根拠と使用した場合の効果をしっかりと理解したうえで購入して欲しいと思うばかりです。

私は音の表現で「音質」という表現と「音色(ねいろ)」という表現を使い分けているのですが、これには訳があるのです。
音質は低音域や高音域などの音の質そのものです、レンジが高低に伸びているか締まっていて切れが良いのかもたついているのかなどです。
対して音色というのは、例えば同じ音質でも広い部屋と狭い部屋での響き方が違うように微妙なニュアンスでの味付け的な要素を指しています。
細かい事をいうと余計に解りづらいのですが同じ周波数の音でも金属のお皿を叩いた時の音と焼き物のお皿を叩いた時の音はまるで違います、金属の方が叩いた瞬間からしばらく同じような音量を保ち少しずつ細かなビブラートを残しながら小さくなり消えていきます。
実は基本の周波数の他に複数の小さな周波数の音が出ており、これが合成されてビブラートが生まれているのです、焼き物の場合は叩いた瞬間だけは大きな音量ですが急速に音量が減少しビブラートはありません、つまりこういった微妙な違いを音色として表現して聴き分けているのです。
さて、このような音色の違いはアンプの増幅回路に使われている負帰還(NFB)回路によって生まれていると言っても過言ではありません、必ずしもそれだけではありませんが要素的には大きな位置を占めています。
負帰還(NFB)とは1937年にウェスタンエレクトリック社とAT&T(アメリカの電気通信局)が設立したベル研究所によって提唱され、1947年に発明者である技術者の名前を付けてウイリアムソン増幅回路として発表された方式です。
原理は増幅回路を通って増幅された電流を再度位相を逆にして増幅前の信号とミックスさせて再度増幅させるというもので、ノイズ成分はキャンセルされ信号成分だけが増幅される為に大幅にノイズを低減できるというものです。
ただしノイズは大幅に低減するのですが音のシャープさが落ち、切れの悪い音になることが知られています。
このNFBの負帰還量やどの帯域の周波数に絞ってNFBにかけるかなどが各社のよって異なり、メーカー別のアンプの音質や音色となって現れてくるのです。
ちなみにラックスマンのアンプの中には周波数帯を2つに分けてのデュアルNFB方式をとっているアンプがあります、このアンプの音色は独特でマニアの間では「風邪引き声」もしくは「鼻づまり声」と称されています。
これもまた好みの問題であり、温かみがあってマイルドで聴きやすいという人もいます、聴感覚も十人十色であるようにオーディオアンプの音色も十機十色だということです。