
オーディオ道楽に目覚めると誰しもどんどんエスカレートしていきます、そこで音質を良くしようと考え数段階も上のスピーカーを買って繋いでみたら前の安価な方が良かったなどという理不尽な経験も幾度となく繰り返します。
どんなことにもデグレードという更なる向上を目指した行為が、思いとは裏腹に一時的な劣化を起こすという現象があります。
ことオーディオに関してはある意味ではデグレードの連続です、しかしデグレードという経験こそオーディオテクニックを磨いていくのです。
例えばスピーカーは大きさや密閉かバスレフかなどのエンクロージャー方式によって設置するベストな方法がガラッと変わってきます、たまたま最初に買って設置した方法がそのスピーカーではベストな方法であったとしても新しいスピーカーでは最悪な設置になっている可能性があります。
フロア型は床の反射を考慮してユニット位置などを設計していますし、小型ブックシェルフは空間に浮かせるような設置で最高の音質を出せるような設計になっています。
更にはスピーカーの大きさや設置場所によって最適なリスニングポイントが変わってきます、これを知らないと位相反転での合成キャンセルされる最悪なポイントで聴いている可能性もあります。
こういったことはデグレードを解消していく過程で自然に身についてくるノウハウです、まずは自分で経験しないと身につかないのです。
またエントリークラスの製品同士だと音質の相性が出やすく、手持ちのアンプやスピーカーが沢山あればこういった理由も繋ぎ換えればすぐ解るのですが、最初のうちは数セットだけですから理不尽な思いをすることも多々あります。
高価な物に買い替えたら残念な音質になった、そんな投稿が昔からネット上に溢れています。
私は自身が持っている製品でこういった評価を見るとすぐ理由が解ります、多くはスピーカーの場合は設置方法にありますし、アンプの場合はスピーカーとの相性の問題が大きいです。
音質の癖を消し合うように組み合わせるのか、それとも双方の癖をぶつけて出し合うように組み合わせるのか、それぞれの癖をリファレンスを使って解っていると組み合わせで失敗することも少なくなります。
料理でいう調味料の組み合わせに極めて近いのが、オーディオの製品同士の音質の組み合わせと最終音質です。
そして、最終的にどんな味(音質)にしたいのか、それぞれの調味料(アンプやスピーカー)の味(音質)をよく解っていなければ料理を美味しく(高音質)作れないのと同じです。
オーディオデグレード、大いに苦しみ大いに愉しんでこそのオーディオ道楽です、デグレードを起こしたらチャンスとばかりに愉しんで解消法を導くテクニックにチャレンジしてほしいと思います。

今ではCDレシーバーやエントリークラスのAVアンプにおまけのように付いているFMチューナーですが、音質が良いとはいえあくまでもオーディオソースとしてはFMラジオです。
でも大学時代はそんなFM放送もジャズ特集などをオープンリールデッキで録音しては楽しんだものです、レコードを買う前の内容の事前チェックもできて当時は実にありがたいソースだったのです。
レコードを買うと高いので録音で我慢するのですが、時が経てば結局最終的にはレコードがどんどん増えていきFM放送を聴くことも少なくなります、そしていつの間にかFMチューナーはお飾りとなってしまうのです。
このFMチューナーですが意外な使い方があるのです、それはアンプが故障したときやスピーカーを自作するときなどのテスト用ソースとして極めて手軽でいいのです。
私はこういったケースには小型軽量で扱いやすい90年代に発売されたハイコンポ用のFMチューナーを使っています、CDでジャズやポップスの音を確認してFMチューナーで人の声のテストを行うのです。
FM放送は何時の時代にも必ずニュースや音声ドラマなどが流れています、人の声は極めて重要で音の基本かと思うくらいに中音域中心でこれを生声の様に綺麗に再現する必要があります。
中音域が綺麗だと低音や高音が伸びていなくてもある程度の満足感が得られます、逆に中音域が引っ込んだような音だと小音量でもうるさく感じてしまうのです。
電源オンで各種の音源が得られるFMチューナーは、ある意味では最も手軽なリファレンス音源だと思います。
ちなみに時々聞きたくなるバロック音楽はFMの特集で好きになったジャンルの一つです、わざわざCDを買ってまで聞くまでもないようなジャンルもFMチューナーなら手軽に楽しめるのです。
また、寝起きのコーヒーを飲みながらのFM放送のニュースはテレビを観るよりも疲れが無く快適です、目からの情報は意外と頭が疲れるのです、朝の自覚のないストレスはボディブローのように午後になると襲ってきます。
また就寝前の時間も私のFMタイムです、夜間は静かな曲を流す番組が多いので聴き流しには好都合なのです。
オーディオファンなら、確実に1台はしっかりした音質のFMチューナーを寝室などのサブシステムにセッティングしておくことをお奨めします。

オーディオ道楽とはオーディオだけに限らず多くの知識が自然に身につくものです、中でも身につけておくとオーディオ人生の楽しみが倍増するのが各種のインターフェースとオーディオ機器の電気的な知識です。
それ故にオーディオとはある意味では電気工学と音響工学そのものであり、道楽というよりも学問の学びと同じような性格のものだと思います。
特に各種ソースの媒体による信号の性格、アンプやプレーヤー類の接続に関わるインターフェース、音そのものの性格による音響工学、この知識が更に良い音を作り出すために必要になってきます。
これらの結果において最終的に音になるわけですが、音そのものは空気振動であり耳にどのように入ってくるかなどまでノウハウが必要になることもあるのです。
さて、このような知識とノウハウが貯まってくると自分の思うようにオーディオ機器を繋ぎ好みの音を作っていくことが可能になります。
例えばCDプレーヤーとアンプの間にノイズリダクションと音質向上の目的でラインアンプを入れるとか、パワーアンプだけでCDを聴くとか、不要な機器を外したり必要な機器を加えたりと自由自在に音を作り愉しむことができるようになります。
基本的に信号の種類と電気的特性が同じであればどのような機器でも接続することが可能であり、場合によってはホームオーディオ用の機器とPA用の機器も各種の変換ケーブルを駆使すれば混在させることができます。
これは先ほど説明したようにコネクタの違いこそあっても、信号の種類と電気的特性が同じなのでコネクタの変換だけを行えばよいわけです。
また85年以前のアンプには「CD」入力端子がありません、でも「AUX」に繋げば問題なく接続できます、こういった知識が更にオーディオの愉しみを味わい深いものにしていくわけです。
時間をかけて、そして実体験を通して各種の知識とノウハウを身につけて大いにオーディオを愉しんでほしいと思います。

何故私はオーディオにハマってしまったのでしょう、その理由を改めて考えてみると基本的に電化製品全てが好きなんだということに辿りつきました。
私は子供の頃から電化製品が好きで、大学時代からは理由も無く本能的に新しい電化製品が出るとつい買ってしまうのです。
大学時代は、アルコールランプ式のサイフォンでコーヒーを飲むのが大流行して私も多分にもれずサイフォンを購入して使っていました。
そんな時、電気式のコーヒードリッパーを家電量販店で見つけてその場で購入してしまいました。
当時は自由な時間にモノを言わせて家電量販店に行くのが大好きで、時代の先端を行く電化製品を見つけると高額でもつい買ってしまっていました。
出始めの頃の電子レンジは30万円近くしてローンで購入、友達は当時の大卒初任給の5倍もする製品を買う私を変人扱いしていました。
社会人になってからも、空気清浄機・加湿器・ロボット掃除機などは製品が出たとたんに購入するのは当たり前として、1回使って納得して放置された調理器具は山のようにありました。
電気グリル・卓上鉄板焼き機・電気鍋・卓上IH・電気てんぷら揚げ器・電気たこ焼き器・ホットサンド製造器・フードプロセッサー・ミキサー・ジューサー・ハンドミキサー・ミル・・・、一度も使ってない物も多数あります。
もし、オーディオが電気式じゃなかったらこんなにもハマっていただろうか?
中学時代から電子工作が大好きでラジオや調光機などを自作しては楽しんでおり、そんな延長線上にオーディオがあったような気もします。
ハマっているものとは必ずその根底に意味も理由も有るのです、好きなものを紐解いていくと見えなかった自分の中に在る思考が見えてくることがあります。
道楽を通して自分と向き合う、時には必要なことなのだと思うのです。

美味しい料理を食べると元気になります、私の場合は音も料理とまったく同じ反応になるのです。
オーディオ道楽復活での音出し試験を兼ねた音質の組み合わせチェックにおいて、これが面白いように身体反応に出るので自分でも笑ってしまいます。
高級なハイエンド名機と謳われたアンプでも、本当に聴くジャンルと合わせるスピーカーによっては最悪な音色を奏でることがあります。
こういうときにはあまりのショックで意気消沈し顔色が一気に変わり、しばらく音出しをやめて別の事を始めてしまうほどに元気をもぎ取られてしまいます。
逆に思った通りの愉音が得られたときには身体も軽くなり、ニヤニヤしながらジャンルをどんどん変えて何時間も聴きこんでしまいます。
優秀なスピーカーはアンプを選ばないと言われていますが、逆に優秀なスピーカーほどアンプの個性をそのまま表現する代物はありません。
その意味では優秀なスピーカーにはアンプとの相性は無いと思いますが、アンプの音色は自分の好みを知らないとせっかく買ったのに最悪の結末を齎します。
最近のアンプでは「大外れ」ということはあまりなく、バランスが取れたナチュラルで良い子の音色ですが、70年代や80年代のアンプは本当に千差万別の癖者ぞろいです。
マニアでなければビンテージアンプを今更あえて使うことはないと思いますが、自身の好みの音色を探るためにこういったビンテージアンプの音質確認も極めて重要で音決めの参考になるのです。
その製品そのものよりもメーカー別の年代による音色の傾向とその組み合わせによる結果が気になるのです、最新の小型ブックシェルと70年代のアンプを組み合わせた音色が最も好みの音色だったなどということが普通に起こりえるのです。
誰が最初に言ったのか、「オーディオはオカルト」という名言(迷言)があるくらいです。
美味しく料理を作るには、それぞれの食材の味を知って合わせる調味料を選んで量を加減します。
食材と調味料のそれぞれの味が解って初めて合わせた時の最終的な味が合わせてみなくてもイメージできるのです、オーディオの音質チェックはこれとまったく同じなのです。
先ずはそれぞれの音質と音色を確認、そして組み合わせての確認、これを通して肌感覚で解るようになると、合わせるまでもなくイメージだけで最適な組み合わせが解ってくるのです。
「音も味と同じ、オーディオ道楽とは音を料理すること」、私の昔からの自論です。