
デジタル全盛期の昨今において急速に広まってきたのがインターネットオーディオとPCオーディオです、PCからUSBを介して高音質のデジタルソースを再生するUSB-DACは続々と新製品が誕生してきています。
DACだけの機能の製品もあるのですが多くはヘッドフォンアンプが内蔵している所謂USBヘッドフォンアンプという代物です、またUSB入力だけではなくCDプレーヤーなどの光デジタル入力や他のアナログオーディオの入力も行える製品も誕生してきています。
各種の入力セレクターが付いていてヘッドフォンアンプが内蔵されたDACにはアナログ音声出力コネクタが付いている製品や、スピーカーを直接繋げられるUSBプリメインアンプまであります。
こういった製品で私が注目しているのが各種のセレクタが付いたUSB-DAC付のヘッドフォンアンプです、考えてみるとアナログ音声出力にアナログパワーアンプを繋げば70年代に流行ったセパレートタイプのアンプ構成になるのです。
つまりUSBヘッドフォンアンプがプリアンプと同じ役目を果たすわけです、そしてパワーアンプを好きな音色のものを選べば高音質でスピーカーを鳴らすことが可能になります、真空管パワーアンプを使えばハイレゾのデジタルソースを真空管アンプの音色で愉しむことができます。
PCやCDプレーヤーとUSB-DAC付ヘッドフォンアンプまでがデジタル、ヘッドフォンアンプからパワーアンプを経由してスピーカーまでがアナログというデジタル-アナログのまさに仲介役という存在になります。
パワーアンプは小型のデジタルアンプを使うと、極めてコンパクトなサイズで大音量でスピーカーを鳴らせるシステムが組めます。
理屈では理解できるものの私はなにかしっくりきません、でも時代に合わせて自身を変化させ愉しんできた私です、おそらくデジタル全盛時代も自分流の愉しみ方をチャレンジしつつ見つけ出していくのでしょう。

50年以上も前から存在するオーディオ神話に、「ジャズはJBLで、クラシックはタンノイで聴け」というものがあります。
JBLはアメリカ発祥のスピーカーメーカーでタンノイはスコットランド発祥のスピーカーメーカーです、どちらもスピーカーメーカーとして早くから世界ブランドを確立しファンを二分してきたスピーカーの一大世界ブランドです。
確かに軽快に鳴らすJBLのスピーカーはジャズやロックに向き、繊細な音でゆったり鳴らすタンノイのスピーカーはクラシックに向きます。
また定説の補足的に存在するのが、ジャズの本場はアメリカでJBLは楽器奏者にもPAを通して親しまれてきてジャズやロックに必要な音を知っているからというのがあります。
同様にタンノイは、ヨーロッパで生まれた多くのクラシック音楽に精通した音作りをしておりクラシックに向くのも確かな根拠があります。
こういった定説を鵜呑みにして自身で経験していない人は多いと思います、つまりJBLでクラシックをタンノイでジャズやロックを聴いてみたことがあるのでしょうか?
実際に聴いてみるとJBLでのクラシックもタンノイでのジャズも全然悪くない音で鳴ってくれます、そもそもですが世界ブランドを確立するような製品はジャンルを特定して開発しているわけではないのです、良い製品はどんなジャンルの音楽も綺麗に鳴ってくれるのです。
メーカーの目指すものとそれを使う側の求めるものが違ってくるのはどの業界にでもあります、おそらくですがスピーカーユニットの音そのものよりも外見から来る偏見的なものが多いのではないかとさえ思うのです。
JBLを不動の世界ブランドに押し上げた製品に1957年発売のD44000(俗称パラゴン)があります、幅2メートルの左右一体となったまるで家具のようなスピーカーで家具職人が1台ずつ手作業で作り上げます。
日本に初めて上陸したのは1965年で170万円でした、現在でも内外をオーバーホールされた完全なものだと中古でも300万円ほどで取引されています。
その後にはミニチュア化させたミニパラゴンを多くのマニアが設計図を基に手作りで作成し、それが世に安価で出回っています。
このパラゴンはクラシックファンに親しまれた製品です、そしてパラゴンに使われていたスピーカーユニットがその後のJBLスピーカーユニットの系譜を作っていったのです、つまりJBLスピーカーでクラシックも綺麗に鳴らすことができて当たり前なのです。
同じようにタンノイでジャズやロックを聴く人も居ます、そもそもヨーロッパでもジャズやロックフェステバルが数多く開催されファンも多いのですから当たり前なのです。
定説も良いけど囚われてはいけません、でも確かにジャズはJBLとかアルテック、日本製ではダイヤトーンとかオンキョーのスピーカーを使い大音量で鳴らすと音の響きは最高なのです。

自動車や家電などではオーバーホールというメンテナンスサービスが存在しています、オーバーホールは医療でいう蘇生手術と同様で古い機種を全て分解して悪い個所や部品を直しながら新品の時と同様の性能が出るようにするサービスです。
例えば、40年以上経ったボロボロになったアンプが当時の元気な姿で再度使用できるようになるのです。
フルオーバーホールされたサンスイAU-6500
綺麗に傷防止テーピングや湿気防止のラッピングされて戻ってくる

この究極のメンテナンスとも言うべきオーバーホール料金が半端じゃありません、技術者が全て手作業で行いますので当然かもしれませんが、既に手に入らない部品まで手に入れて交換するのですから手間と時間を考えれば相応の料金だと思います。
交換された部品は、このように別袋に入って付いてくる
これは、何をどれほど交換したかというエビデンス
今回はトランジスタとレギュレーション用サイリスタが交換されたようだ

そんなニーズが昨今多くなったのか、オーディオメーカーを引退した人が細々と個人事業主として行っているケースもあり、メーカーよりも安価で丁寧に対応してくれますので好評のようです。
概ねですが70年代のミドルクラスのプリメインアンプですと購入価格以上の費用がかかることもあります、したがってオーバーホールされた名機は当時の定価の倍の中古価格であっても決して高くはないのです。
普通なら買い替えたほうが良いと考えるのですが、70年代の音はどんなにお金を積んでも今では手に入らないのです、音の価値とはこういうことです。
スピーカーやアンプは音の媒体にすぎないというのが私の持論です、したがって価値があるのは音そのものなのです。
その価値ある音を得るためにお金を払う、そんな考え方をすればオーバーホールで現在に無くしてしまった音が蘇るのであれば願ったり叶ったりです。
またオーバーホールに出すと基板のクリーニングや錆びついたトランスも綺麗にペイントされて戻ってくることもあります、コネクタもつまみ類もピカピカ、スイッチ類の接点不良なども全て綺麗になって帰ってくるのです。
オーディオ製品は機械ですが大病を患って入院し元気になって退院するという、まるで生き物のように感じてしまう瞬間です。
サンスイ指定業者でオーバーホールした検査合格証
いまだに当時のサンスイのシールが使われているなんて・・・


レコーディングなどの業務用オーディオ界にはエンハンサーという聴き慣れない編集装置があります、このエンハンサーという機械は何をするのかというと原音を元に各種の整形を行う装置です。
例えば楽器の音の強弱や波形をシャープにさせて刺激的な音にするなど音を詳細に加工するのです、最近ではこういったエンハンス装置を使って古い録音を最近録音されたように加工するというリメイク版のCDなどは当たり前のように存在しています。
昔の録音のぼやけた音がくっきりした迫力ある音に変わるのです、まさに魔法の装置です。
また音だけではなく映像用のエンハンサーもあります、同じように昔のぼやけた映像がくっきりした現代の映像に変わります、更にモノクロ映像がカラーになったり1K動画が4K動画になるなど効果は凄いものがあります。
エンハンス技術は最近のものは全てソフトウェアによって行われます、つまりエンハンサーという装置にはDSP(デジタルシグナルプロセッサ)が入っており、高性能な信号処理を行う専用のパソコンだと思えば解りやすいでしょう。
こういった音や映像を加工する技術ですが、最近の高級ユニバーサルプレーヤー(DVDやCDなど全てのファイルを再生できるプレーヤー)や高級AVアンプにも搭載されています。
つまりリアルタイムに自動で音や映像が加工され、それを愉しむことができるのです。
一度でもリアルタイムエンハンスの音や映像を体験してしまうと、麻薬のようにそれ無しでは物足りなく感じてしまうようになります、こうして高額の製品を買うようになってしまうのです、メーカーの戦略って凄いです。
今ではデジタル対応と謳っている製品はすべてにGPUが入っています、アナログな音の世界もスピーカーの直前まではデジタル加工によって音が作られている製品も多いです、そんな意味でも「オーディオもデジタル全盛時代」と言われているのです。

現在売られているCDの中にはSACD方式で録音されているものが存在しています、SACDとは「スーパーオーディオCD」のことでソニーとフィリップスが共同開発したCDの録音再生技術であり、1999年に発表され2000年以降にSACD対応のCDプレーヤーやCDが発売され初めました。
低域も広がったのですが、特に高域特性が100KHzまで伸びており繊細なクラシックの録音再生を可能にしました、現在ではミドルクラス以上のCDプレーヤーに対応しているものが在ります。
また近年では更にハイレゾ方式が出てきていますが、SACDに対応していれば当然ハイレゾ対応の製品だと考えても間違いでは無いでしょう。
尚、SACD対応のCDを非対応のCDプレーヤーで再生すると普通のCDと同様の方式で再生されるようにアップグレードとなっています。
私は、こういう意味でも最新のアンプのDACを信用してCDプレーヤーは消耗品として考え、定期的に新しいエントリークラスを購入する方が賢いと考えています。
最近のオーディオは完全なデジタル時代であり、どんどん新しい方式のDACが誕生して価格も大幅に下がってきています。
10年前の20万円以上のミドルハイクラスのCDプレーヤーでも、現在の5万円のエントリークラスのCDプレーヤーに音質特性的には完全に負けてしまうということも起こりえるのです。
クラシック以外のジャズやロックを楽しむ人なら外付けDACを好みのものに固定して、CDプレーヤーは消耗品と考え数年単位で最新のエントリークラスを買い繋ぐのがよろしいかと思います。
ただCDプレーヤーの中にはレコードプレーヤーのような構造の100万円以上する超ハイエンドのものであれば、製品そのものの骨董価値もあるので持つ意味はしっかり存在していると思います。
買い替えで使わなくなったCDプレーヤーは売っても二束三文ですから、BGM用やおやすみ用のセカンドシステムに使う方が得策です。
ちなみに10年前の15万円のミドルクラスのCDプレーヤーと5万円以下の最新のエントリークラスのCDプレーヤーの音質を同じアンプに繋いで比べてみたのですが、驚くことに最新の5万円以下のエントリークラスのCDプレーヤーの方が音がはっきり分離されて周波数レンジも広く感じるのです。
もっともリファレンスで使ったCDはジャズで50年代~80年代にかけて録音された物です、したがってリメイクされてはいるものの周波数レンジはそれほど広くはありません。
結論としてCDプレーヤーは安価なエントリークラスなものにして、高音質を目指すのであれば外付けのDACを購入する方が賢いし結果的に後悔することもないと思います。
オーディオは正確に原理と理屈を知って割り切ることが肝要です、何事にも知識と知恵がある者が無駄なお金を使わずに済み得をするのです。