「ちょい悪オヤジ」って死語になりつつありますが、この言葉しか思い浮かばないようなオーディオ製品があります。
それが、このケンウッドK270(1997年発売、16万円)です。
幅30Cmのコンパクトサイズ(ミニコンポサイズ)に、本格的なDAC搭載のCDプレーヤーとFMチューナーを付けた高級CDレシーバーです。
ケンウッド K270
フロントパネルの両脇と側面には木製のお飾りが何ともエレガントに付いています、私が知るオーディオ製品の中で最もエレガントな製品だと思います。
価格がまたちょい悪オヤジらしく何と16万円、当時流行りだしたCDレシーバの価格帯が4~6万円という時代に、何という価格をぶつけてくるのでしょう?
でも16万円の価値は木製のお飾りに相応しくエレガントさだけではないのです、驚くことにこのサイズで高熱を発するA級アンプなのです。
フロントパネルのスイッチでA級とAB級を瞬時に切り替えられます、繊細なクラシックにはA級で、ダイナミックなジャズやロックではAB級でと1台2役で楽しめるように考えられています。
高熱の出るA級アンプを搭載したのは良いのですが、「こんなコンパクトなケースで熱がこもったりしないのか?」という疑問が出ます。
でも、流石に祖業が無線機のケンウッドです、無線機でよく見る発熱部分をケースの外側に出してしまうという小技を使って実現させています。
出力段のトランジスタ部分をケースの裏側に出し、上下に大きな窓を設けて空冷特性を高めています、これならファンレスでも繊細なCDプレーヤー部分に熱が伝わらずに問題無しです。
また、今では当たり前のようなスペックですが当時としては最新鋭の24BitDACを搭載しており、価格に見合う仕様となっています。
CDをセットするトレイの機構もまた凝っています、トレイの蓋が下にスライドしてトレイが現れ、トレイが引っ込むとまた蓋がスライドして閉じます、これが実に見事なまでにスムーズなのです。
DAC性能に余程自信が有るのか、バックパネルに付けたラウドネス的なスピーカーイコライザーだけでトーンコントロールやバランス調整等のコントロール関係は全部排除しています、これもまたハイエンドアンプライクで何とも小粋なのです。
ただ一つ難点があります、それはCDのレーザーピックアップが高性能なのか繊細過ぎるのかは分かりませんが、ちょっとした汚れが付いているだけで音飛びを起こすことです。
逆に良いところは、このK270でかけてみて音飛びを起こしたCDは汚れが付いていると解るので、汚れが付いたCDを発見することができます。
最後に音質ですが、好みの問題かもしれませんがA級もAB級もソフトというか大人しいというかジャンルを選ばない音質に設計されていると思います。
元気さだけが売りのJBLスピーカーに合わせてみても、張り出してくる帯域が何も無いのです、逆にこういった大人の上品さを狙った製品なのかもしれません。
こういう音色は静かにボーカルを愉しむのには良いかもしれません、耳障りな高域の歪感もありません。
尚、ケンウッド・デノン・オンキョー・マランツ・JVCは同時期よりCDレシーバに力を入れはじめており、「CDレシーバ」という一つのオーディオ製品のジャンルをオーディオ界に確立させました。
現行のCDレシーバは更にサイズダウンして、横幅20Cmほどのハーフサイズが主流になっています。
購入当時はビクターのスピーカーSX-311と合わせて寝室でサブシステムとして使っていたケンウッドK270、おやすみ&寝起きの聴き流し用のBGM機としては刺激が無く最適な音質です。
聴き込みようにも聞き流しようにも、スピーカー次第で如何様にも愉しめる逸品です。