2023年9月19日 01:00
私の住む街に有名なホームレスの男性がいました、何時からここに住み着いたのか、何処から来たのか、何をしていたのか、名前も年齢も不詳です。
私が何度か目撃した彼はまさにカリスマ的存在でした、あるときは公園で若い女の子数人にシャンプーをしてもらっていました、またあるときは髪の毛やヒゲをカットしてもらっていました、だからいつもサッパリとした小綺麗な印象でした、彼の身なりもとてもホームレスとは思えないほど綺麗でした。
おそらく彼にお世話になったファンが服を持ってきてくれるのでしょう、最後に見たときにはブルーのボア付きのコートに冬物のチノパンでした、靴もオシャレなワークブーツです。
数人の若いサラリーマンと常宿にしていた大きな街路樹の下で酒を飲み交わしているのを目撃したこともあります、彼は毎日のように新聞や雑誌を読んでいるのか政治も経済も社会的情報を良く知っています、何度かその光景をしばらく見ていたことがあるのですが、話し方も紳士でまるでカウンセラーのようでした。
彼の荷物はスーツケース1個分、クサリで街路樹にスーツケースを結んで外出していました、夜明け前から街中の空き缶やペットボトルを集めながら公園や歩道のゴミ拾いをしていました、だから繁華街なのに、いつも通勤時間には駅周辺はゴミ一つ無く綺麗になっています、空き缶は毎日潰してもリヤカーに溢れるほどになり、それを2時間以上離れたところにあるリサイクル工場に売っては腹を満たしていました。
彼は決して駅周辺やビルの脇などでは寝ません、きっと人の迷惑になることは彼の主義に合わないのでしょう、雨の日も一本の大きな街路樹に寄りかかって眠っていました、そんな彼が数年前に春だというのに雪混じりの雨の日の朝にあの世へ旅立ったのです、謙虚な生き方を二十年以上も貫き通して。
その街路樹には今も献花が置かれています、そしてダンボールに元気だった彼と撮った写真が何枚も貼られマジックで「お疲れ様でした」と書かれています、脇には沢山のビールやタバコも置かれています、こんなに人に惜しまれて世を去るホームレスはいるだろうか、多くの人の心に残る栄誉ある死、形は無いけど立派な勲章です。
孔子論語に「死後称えられないのを恥とする」という一節があります、彼はまさに生前も死後も尊敬され、そして人々の心の中に今も尚生き続けています、「明日は我が身」で自分がどんな状況になろうがどんなに困窮しようがそれは自分の行いの因果応報なのです、それを真摯に受け入れて常に謙虚に生きていたいものです。