1985年に始まった世に言うアンプ798戦争、その終焉はバブル景気の終焉と重なり90年代初頭でした。
その後各社の主力ミドルクラスの価格は上昇し始め10万円前後で落ち着きを見せ始めました、どう考えても798戦争時代の主力製品はそもそも10万円前後でもおかしくないスペックだったのですから当然の結果とも言えます。
さて798戦争で圧倒的な強さを誇った勝者はサンスイでした、次から次へと斬新な回路を引っ提げては新機種を出し続けソニーやオンキョーの追従さえも許しませんでした。
そんなサンスイも90年代に入ると価格を上昇させ初めます、それでもトップの座を90年代中盤まで継続させたのだから凄いです。
ところが誰しも20年間続けているサンスイの牙城が継続すると思われていた1996年に思わぬ伏兵が台頭してきます、それはソニーでもオンキョーでもなく798戦争時代にマイペースにデジタル化への移行やホームシアター向けのAVアンプに注力していたデノンだったのです。
当時のサンスイの7シリーズの前衛隊長はシリーズ20周年記念モデルAU-α607MR(10万円)、これに対抗すべくデノンが擁立したのはPMA-2000(1996年発売、10万円)で価格も宣戦布告の意図が丸見えの同額としています。
90年代に入るとサンスイもブラックフェースからシャンパンゴールドに変え大人しいイメージに変貌しています、デノンは伝統のちょっと黄色が強めのシャンパンゴールドに加えデザイン面でもPMA-2000は新しい時代の幕開けを予見させるような洗練された感じを受けたのは確かです。
更にジャンルを選ばないオールマイティな音質は、バブル景気が終焉した後のジャズやロックファンにも受け入れられたと思われます。
バブル景気が終焉すると日本中が祭りの後のように全てに冷静さを取り戻し始めます、こういった精神的な意味でも豪快な音質よりもマイルドな音質が好まれる傾向に当時はなっていったのではないかと推測しています。
そしてデノンPMA-2000は同社のハイエンド名機S1のテクノロジーをダウンサイジングしたスペックで空前の大ヒット&ロングセラー作となり、AVアンプと合わせてデノンは一気にアンプのシェアを拡大していったのです。
思わぬ伏兵の台頭に慌てたサンスイは、翌年の1997年に7シリーズにNRAを投入しますがデノンの快進撃を止めることはできませんでした。
このNRAは後にジャズファンのマニアから、「サンスイがサンスイサウンドを捨てた愚作」とまで言われる始末でサンスイも音質戦略を変えずにいられなかったということでしょう。
こうして20年以上続いたサンスイのオーディオ界における牙城が脆くも崩れたのです、その後のサンスイの衰弱はあまりにも急速で悲惨なものでした、ハイファイオーディオだけでなく当時流行りのミニコンポもAVアンプも何を出してもトップの座を奪還することは無くあっという間に経営危機に見舞われていったのです。
ミニコンポのジャンルでは既にオンキョーやケンウッドが強固な要塞を固めていました、またAVアンプではデノンが先導しソニー・ヤマハ・オンキョーがピタリと追従していました。
この一連の騒動、どんな業界でも時代の流れを見誤るとあっという間にトップの座を追われるという教訓として私の胸の奥に何時までも存在し続けています、良い状況のときほど慢心せずに更に気を引き締めろということでしょう。
1999年を最後にオーディオスピーカーで金字塔を立てたダイヤトーンはオーディオ界から姿を消します、しかし突如としてダイヤトーン70周年アニバーサリーにあたる2017年秋に1台60万円、ペアで120万円という超高級ハイエンドスピーカーDS-4NB70を発売しました。
このDS-4NB70は小型2ウェイの密閉型ブックシェルフで新開発のコーンを使用しています、それにしても小型ブックシェルフでペア120万円とは驚きます。
当時マニアの間では「ダイヤトーンの復活か?」と騒がれましたが、期待のミドルクラスはその後も発表されることはありません、肩透かしを食らったマニア達はこの気持ちを何処へぶつければ良いのでしょう?
この私もオーディオ道楽復活でメインシステムのスピーカーをいい加減に新機種に交代したいのですが、現在買いたい大型スピーカーが無いのです、期待のJBLもググっと心奪われるようなスピーカーが見当たりません。
90年代以降のスピーカーの方向は完全に小型ブックシェルフとトールボーイ型になってきています、トールボーイ型はオーディオとホームシアターの両方を楽しめるようにとのことでしょうが、そもそもオーディオとホームシアターでは求める音質が180度違うのです。
ホームシアターとは別にオーディオシステムを組んでいる人は多いと思うのですが、そういう人の多くはおそらく私のように10年以上も同じスピーカーを使い続けていると思います。
昭和感覚の私のスピーカーのイメージはあくまでも3ウェイ大型ブックシェルフなのです、古き良きオーディオ全盛期のような黄金時代とスピーカーの巨匠ダイヤトーンの復活を強く望むばかりです。
60年代・70年代はアメリカ、80年代・90年代は日本、2000年以降はヨーロッパ、これ何の話かというとスピーカーの話しです。
60年代・70年代にスピーカーと言えばJBL・アルテック・タンノイでした、タンノイはイギリス発祥のメーカーですが1974年以降はアメリカのハーマンの資本傘下に入りアメリカに本社が移っています。
70年代には日本のブランドも多数存在していましたが、世界的なスピーカーブランドまでには成長してなく、当時のマニアの多くはこの3メーカーのスピーカーに憧れて自身の部屋で使うことを理想とするのが当たり前のような時代でした。
80年代に入ると70年代に一定の市民権を得ていたヤマハやダイヤトーンを筆頭に日本のスピーカーブランドが急速に奮闘してきます。
ヤマハ・ダイヤトーン・オンキョー・ビクター・パイオニア・テクニクス・ソニーなどがスピーカーでも世界ブランドとして認知され多くのファンを魅了します、この状況は2000年初頭まで続きます。
90年代に日本メーカーで台頭してきたのはオンキョーでしょう、特に小型ブックシェルフでは金字塔を建てていきます。
そして2000年代に入ると台頭してきたのがヨーロッパ勢のブランドです、90年代中盤以降は日本のオーディオ界は氷河期という日本オーディオ界の空白の時代を迎えています。
この空白の隙間を突いてきたのが、DALI(ダリ)やKEF(ケフ)といった当時設立したばかりのヨーロッパのスピーカー専業メーカでした、またイギリスの老舗メーカーであるタンノイやモニターオーディオも日本市場でシェアを奪っていきました。
DALIはデンマーク、KEFはイギリスのスピーカーメーカーで小型ブックシェルフやトールボーイ型に注力し、あっという間に世界のシェアを奪っていきました。
現在オーディオショップのスピーカーコーナーには大型タイプではJBL・タンノイが並び、小型ブックシェルフとトールボーイにはヨーロッパ勢がずらりと並んでいます。
日本のブランドと言えば小型ブックシェルフばかりが目立ち、展示されているのはヤマハ・デノン・オンキョーくらいで寂しいばかりです、逆にDALIやKEFは専門コーナーまで設けているショップもあるくらいです。
それにしてもDALIのスピーカーは小型ブックシェルフでもトールボーイでも繊細で軽快な音色を放ちます、DALIはデンマークのオーディオマニアが究極の音質を求めた結果誕生したメーカーで音質に真摯に向き合う姿勢を感じられます。
日本のブランドも、80年代に世界に誇ったような繊細でありながら軽快な音質のスピーカーをそろそろ本気で出してほしいと願うばかりです。
バブル経済が崩壊しオーディオ界も氷河期とも言える時代に突入します、そんな90年代前半にはフルサイズのコンポーネントからミニサイズのコンポーネントが市場に溢れるようになります。
30Cm程度の幅の安価なアンプやCDプレーヤーが次々と発売され、エントリークラスのシステムコンポがショップにずらりと並んでいました、またそこに使われているスピーカーはみな小型ブックシェルフで如何にも安っぽい作りだったのです。
そんなオーディオ氷河期に、ミニコンポのスピーカーにおけるグレードアップ需要を見通したのかオンキョーからハイグレードな小型ブックシェルフが単体で発売されました、それがD-202Aに始まる202シリーズです。
小型ブックシェルフでありながら大型ブックシェルフにも劣らぬ音質は、オーディオ評論家やマニアの絶賛を受けオーディオ各誌の賞も総なめにしました。
当時はちょうどスピーカーの大御所ダイヤトーンが新たなシリーズを出していた時期で、シリーズの中型スピーカークラスはかなりシェアを奪われたと思います。
ダイヤトーンから新製品が出ないことを尻目に、次々にオーンキョーはブラッシュアップした小型ブックシェルフを市場に投入してはシェアをどんどん拡大させていきます。
気が付けば数年後の1999年にダイヤトーンはオーディオ事業から撤退してしまいます、まさかのダイヤトーンの事業廃止には本当に驚きました。
オンキョーがダイヤトーンに変わってスピーカーの大御所になるとは時代の価値観の変化とは実に非情な結果を齎すものです、時代の流れに素直に乗れた企業がいつの時代も繁栄するのです。
バブル景気が崩壊した90年代の前半、突然のように各社から安価で小型のミニコンポが揃って売り出されるようになります。
最初は横幅30Cm前後のミニコンポ、更には25Cmになり、ついにはハーフサイズの20Cm幅のマイクロコンポと年を追うごとにサイズはどんどん小さくなっていきます。
その中で、システム販売と並行して単体でも発売される高音質のミニコンポやマイクロコンポの製品群をハイコンポと呼ぶようになりました。
こういったハイコンポ、特徴的な製品の幾つかをコレクションしていますが改めて全製品の音質を確認しました。
6万円前後が主流のミニコンポアンプどころか4万円が主流のマイクロコンポアンプの音質が本当に驚くほど良いのです。
定格出力こそフルサイズコンポに比べると半分にも届かないのですが、出力の低さはどのアンプもまったく感じません、むしろ普通に使う分には適正な出力だとさえ感じます。
更には同年代の各社のエントリークラスのフルサイズコンポの価格よりも30%~50%程度高額な定価設定です、定格出力をあえて下げてでも価格に見合う音質向上を目指したことは明らかです。
逆の見方をすると、ハイコンポ全盛時代に誕生したデノンのPMA390を代表とした各社の薄型エントリークラスのフルサイズコンポは極めてコストパフォーマンスが高いとも言えます、この薄型エントリークラスのアンプも同年代に別の熱き戦いが繰り広げられたのです。
ちょうどこの時代には高性能な小型ブックシェルフが次々に誕生してきました、日本だけではなく世界中のオーディオメーカーが口裏を合わせたかのように同じ傾向になっていきました。
その高性能な小型ブックシェルフと合わせたハイコンポの音質は極めて相性が良く驚くほどの高音質なのです、考えるにどの時代もアンプの音質の傾向はどうもその時代に主流となっているスピーカーの音質に合うように作られているのではないかとさえ思えるのです。
どのメーカーのハイコンポもフルサイズコンポのエントリークラスアンプ以上の音質で、低音域から高音域まで見事に伸びており中高音域のメリハリのある音色はどのジャンルもバランス良く聴かせます。
試聴で改めてハイコンポの実力を再確認しました、各メーカーのそれぞれがサイズに見合わぬ実力機揃いで本当に凄いの一言です。
時代を越えた各種のアンプとスピーカーを繋ぎ換えては聴き比べをすると、これまでに見えなかったものが見えてくるようになります。
オーディオ道楽前にはここまで徹底して短期間で各種の機器を聴き比べた事はありませんでした、この生きた経験は必ずどこかで大きく役に立つことでしょう。
何故なら過去にも意味も理由も無く私が物事に没頭することはないからです、没頭する事には自覚が無いだけで未来のどこかで意味と理由がちゃんと存在していることを知るのです。