
世界中で今や日本のラーメンは一つの食文化として認められ、どの人も美味しいと口を揃えて褒め称えます。
ラーメンの発祥の地である中国や台湾の人でさえも、日本に来れば本場の日本のラーメンを食べ歩きするそうです、今やラーメンは日本の一つの食文化となり本場の中国のものとは別物という認識をされています。
またB級グルメであるラーメン店がミシュランの1つ星を獲得したときには世界中が驚きました、そんな日本のラーメンはどの店のを食べても一様に美味しいのですがスープも麺も具もどれをとってもみな異なります。
更には製法まで異なり料理の本来的には別の料理かというくらいに異なりますが、どれもすべてラーメンでありどれもそれなりに美味しいのです。
この気付き、実はオーディオも同じなのではないかと思うのです。
ハイファイオーディオのカテゴリの製品であれば、どのメーカーのどの機種をどのように組み合わせて聴いても一様に「良い音」に感じます。
特にハイファイオーディオに耳が慣れていない人は、どれをどのように組み合わせても「どのラーメンも美味しい」と同じように、「どの組み合わせも良い音」と思うでしょう。
ところがラーメンを食べ歩きし、評価記事を書くようなラーメンの達人はスープ・麺・具・を詳細に分析し、そのバランスや味の根源食材まで見抜いて評価を出します。
これもオーディオマニアと極めて似ています、「良い音」は当たり前として、どのように良いのか悪いのか更にもっと良くなる組み合わせは何かを聴き分けているのです。
そして同じお金を払うならバランスの良い音質で聴き疲れの無い組み合わせを徹底して探るのです、これがオーディオの面白さであり道楽という所以なのです。
音質を極める人は味にも厳しい人が多いのも事実です、自身の五感に感じる存在を意識して極めるのか、それとも無意識で過ごすのか、その差は極めて大きいと思います。
私はオーディオ製品の音も料理の味もワイン・日本酒・ウイスキーなどのアルコールの香りやコクも全部気になります、世の中に存在している見えなくも五感に感じる物を看過できないのかもしれません。

オーディオ道楽とは、本来は音楽をできるだけ良い音で聴きたいからシステムに拘るようになると思っているのですが、中にはオーディオ製品そのものに価値を感じる人もいるようです。
過去にローカルな飲み友達から高いオーディオ製品を買ったのに良い音がしないという愚痴をこぼされました、早々に見に行ったのですがCDがCDプレーヤーに入っているものしかないのです、「これだけ?」と聞くと「そう、他に聴きたい曲もないし」と言う返事です。
良い音が出ない原因の多くはスピーカーの結線ミス(左右の位相反転)か、アンプの調整ミスが多いのですが特にこれといったミスは見つかりません。
でも本当に低音も高音も出ておらずモゴモゴした薄い音なのです、これは私も経験したことがありません、と言うより聴いた記憶が無い音質です。
いろいろ考えているうちに、はっと気が付きCDプレーヤーからCDを取り出して見ました、はい原因はすぐ解りました、なんと入っていたのは自分でPCを使ってダビングしたというCD-RWのディスクです。
確かにPCで録音してPCで再生しても解らないものですが、流石にハイファイオーディオは見事に悪いなりのソースを素直に悪いなりの音に再生してくれるのです。
これがPCとCDプレーヤーのDAC(デジタル・アナログコンバーター)の桁違いに大きな差なのです、おそらくスペクトラムアナライザーを使って計測すればその差は歴然と表れるでしょう。
引き出しにしまったままのオーディオショップで貰ったチェック用のオムニバスCDをかけてみたら、本来のそのコンポの音がちゃんと出るではないか。
良い音で聴きたいというならPCでのダビングもんは止めましょう、それとオーディオ製品にお金をかけるなら、良い音が入っているちゃんとしたCDを沢山買いましょう。

オーディオ道楽復活直後に市場に溢れる小型ブックシェルフと小型トールボーイ型のスピーカーを見て、一種の絶望感に似た心持になった私も手持ちのアンプやスピーカーの動作確認を兼ねた試聴を繰り返すうちに心境の変化が起きてきました。
そのきっかけとなったのがオンキョーのD-202AX LTDやダイヤトーンの業務用小型スピーカー群でした、しっかり買うべき製品をその時代に買っていながら何故大型密閉型にこうも拘っていたのか、見るべきポイントを見誤っていたのだろうかと自身を問い正し始めたのです。
そして何度も比較試聴を行っていくにつれ小型ブックシェルフを前向きに捉えることができるようになったのです、やはりオンキョーのD-202AX LTDやD-212EXの存在は大きかったです。
理想としていたダイヤトーンの大型3ウェイブックシェルフとの比較試聴で、その数年後に発売された小型ブックシェルフの音質や音色が見劣りすることがないのですから認めざるを得ませんでした、勿論低音域は大型3ウェイに適うはずもありませんがバランスという意味では聞きやすい音色です。
それにしてもオンキョーの小型ブックシェルフに懸ける意気込みは相当なものだったのでしょう、容量が1/4でユニット口径面積も1/4にも関らず低音域から高音域までフラットに出ていて、しかもその張り出し感も文句なしなのですから。
価格こそ大型ブックシェルフ並みのそれなりの価格はしているものの、物理的な特性を克服してのあの音質には流石の私も降参しました。
ということで、ようやく小型ブックシェルフや小型トールボーイに目覚めたのですがそのメリットは強烈でした。
なにせ設置スペースは取らないし、ストックスペースも取らないなんてマイナス要素はなにもありません、ただし製品を選ばないといけません。
例え小型ブックシェルフといえども価格に比例した音質になることだけは変わりません、ハイファイを追求するなら最低でもペアで6~7万円のクラスでないと本当のオーディオの喜びは愉しめません。
世の中が変われば自身もそれに合わせて生きる「行雲流水」の心持が何事にも不可欠な要素なのだと思うのです、つまらない拘りやプライドを捨てて時の流れに身を任せてみるのが何事にもよろしい結果となるようです。

ファンションなどと同様にオーディオにも年代による流行り廃りが存在しています、アンプはオーディオが一般的に普及しだした70年代のハイエンド機は全てがプリアンプとパワーアンプに分かれたセパレートアンプでした。
この頃には各社はチャンネルデバイダーというマルチアンプ方式を意識した機器も出していました、チャンネルデバイディングは2~4つに周波数を分けそれぞれにパワーアンプを繋げてそれぞれのスピーカーユニットに繋ぐ方式です。
80年代に入るとこれらのセパレートアンプで培った技術を統合した高級プリメインアンプが台頭しセパレートアンプは徐々に市場から消えていきます、スピーカーもネットワークによって2ウェイとか3ウェイに対応する方式が一般的になりマルチアンプ方式は廃っていきました。
80年代のハイエンド機はシルバーやシャンパンゴールドという豪華さを誇る色となり、ミドルクラスとエントリークラスはブラックフェースと色も分かれてきます。
90年代に入るとオーディオ氷河期が始まり横幅が3分の2サイズのミニコンポが主役になります、またブラックフェースはAVアンプに移りハイファイオーディオアンプはシャンパンゴールドに変わります。
スピーカーでは70年代は大型3ウェイが基本でしたが80年代に入るとコンパクトな中型2ウェイとの混在となります、90年代にはサイズは更に小さくなり小型2ウェイブックシェルフが台頭してきます。
80年代後半からはホームシアターが全盛期に入り、トールボーイ型が大量に市場に投入されてきて2000年以降は大型ブックシェルフは市場から一時期姿を消してしまいます。
このようなオーディオの流行り廃り、こういった流れを解っていると次世代の主力はどのようになるのかが解ってきます。
そして「時代は繰り返す」、アナログの復活でアンプもプリアンプとパワーアンプに分かれたセパレートアンプがどんどん出てきています、オーディオもファッションと同様に流行り廃りがあるようです。

アメリカに遅れること10年後の60年代後半、突如として起こった日本におけるオーディオブームですが現在最も熱いブームが起きているのは中国と香港のようです。
70年代~90年代初頭までオーディオショップが乱立していた日本、ショップの売り場の半分以上がアメリカ製のハイエンド機種の再生中古品でした、特にマッキントッシュやマランツのアンプにJBLやタンノイのスピーカーは人気がありました。
マッキントッシュの中古アンプは今なお人気があり、当時の販売価格の数倍で取引されています。
同じような現象が2000年以降に中国や香港で起きています、そして真空管やデジタルICを使ったオーディオメーカーが百社を超えるほどに乱立しています。
その中でも世界ブランドとして名を馳せているメーカーも徐々に誕生してきており、中国メーカーは今後も目が離せません。
同時に日本の中古市場で日本製のビンテージ物のアンプのジャンクを大量に買い求めるために、この数年で日本の中古市場も高騰してきています。
日本での70年代のように、ジャンクを買い取り本国で再生して高値で売るビジネスは大きな経済圏を形成しているようです。
この現象がベトナムやタイなどにも飛び火して、アジアでは70年代から90年代の日本製のオーディオ機器の再生品が高値であるのも関わらず飛ぶように売れているようです。
時代は国を変え回り戻ってくる、日本のオーディオ文化は2005年ごろから復活の予兆と言われ続けていますが、70年代後半から90年代初頭のようにマニアが狂喜乱舞した時代はおそらく二度とこないような気がします。
それよりもアジア諸国に向けた製品を作り出していく方が企業戦略としては正しいのかもしれません、現在のヨーロッパのオーディオブランドのほとんどが海外戦略中心で活路を見出しています。
日本のオーディオメーカーもおそらくは同じ道を辿るようになり、日本のオーディオマニアが買い求める商品の多くは中国や香港製になっていくのでしょう。
時代の流れというのは寂しいものですが抗ったとしても愉しくはないでしょう、それよりも何事も時代の流れに合わせた愉しみ方を探す方が生産的で幸福だと思うのです。