アンプ798戦争勃発前夜に発売されたオンキョーA-817RXⅡ(1986年発売、8万円)は、前作A-817RXをマイナーチューニングされたアンプです。
オンキョー A-817RXⅡ
1970年後半から日本のオーディオ界は戦国時代に突入しました、オーディオメーカーが乱立し主導権争いが繰り広げられていました。
70年代後半には既にサンスイが一歩先を行き、オンキョーもintegra(インテグラ)シリーズを引っ提げて必死についていこうとしていました。
サンスイがAU-DシリーズのDCアンプで牙城を築いていく中で競合他社も負けじと戦略的なハイスペックアンプを次々と投入していきます。
そんな中でのオンキョーの先鋒がこのA-817シリーズです。
A-817RXⅡは、A-817シリーズにあって個人的な評価ではありますが80年代のオンキョーアンプらしさが最も発揮された名作中の名作だと思います。
低音域から高音域までフラットで癖が無く、豪快さはかけるものの素直で良い子の音質です。
どのジャンルの音楽も無難にこなしますが、逆に音色の特徴の無さがマイナスに作用してしまった感があります。
アンプとして音質に癖が無いのは本来はプラス要素ですが、この時代には強力な武器となる個性的な音色が必要です。
その意味では、優等生な音質がマイナスに評価されてしまった感は否めません。
30年以上たった今、改めて音質を確認すると本当に素直で嫌みの無い万人受けする音色です。
クラシックからジャズ・ロック、そしてポップスとマルチジャンルのアンプってあまり無いので、こういったアンプは逆に貴重なのです。
サンスイの強固な牙城を崩すことは叶わなかったのですが、80年代のミドルクラスアンプの名作の一つであることは確かです。
70年代から80年代のオンキョーアンプの音質の変化を確認する為だけの目的でコレクションに加えているオンキョーA-817GT(1981年発売、定価7万円)です。
オンキョー A-817GT
70年代のオンキョーのアンプはロックファンやポップスファンに人気があったくらいに若干ドンシャリ気味な派手な音色が愉しめます。
80年台の中盤に起きたアンプ798戦争時代のオンキョーは太くてずっしりしたジャンルを選ばない音色が愉しめます。
そして、このA-817GTは70年代でもないし80年代でもないという何とも中途半端な音色がするのです。
まず低音域がほぼ全滅で良いところが見出せません、高音域の伸びも張りがあるもののイマイチです。
名前からは想像できないほど大人しい音色で、どちらかというとマイルド系なのですが全体的に薄味な音色です。
当時のカタログに「今までに聴いたことがない音」とありますが、確かに間違ってはいません、もしかして透明感のある音色とはこういう音を指して言うのかもしれません。
私的には決して好みの音色では無いのですが、何故かコレクションに加えているのです。
それはきっと、こういう音色がするアンプが他にはなくリファレンス的な要素で取っておきたいという気持ちかもしれません。
どこかの段階で「こんな音もアリだな」と思うときがきっと来るかもしれない、そんな気持になるのも確かです。
それとスピーカーとの相性で、もしかしてすごく相性の良いスピーカーに出会えれば絶賛する音色に変わるのかもしれません、そんな期待感を何故か持ってしまうアンプなのです。
最後に一言、ピアノとボイスの音色だけはハッと息をのむような素晴らしいものがあります、ソースを選べば物凄い音色を奏でるアンプなのかもしれません。
アンプ798戦争勃発後に放ったソニーアンプの代表格のTA-F333ESX(1986年発売、8万円)はソニー渾身の逸品である。
ソニー TA-F333ESX
ソニーが潤沢な資金力に物を言わせて、798戦争下において主導権を握ろうと送りだした名アンプであり、そのスペックが半端ではない。
ケース内部にはGシャーシと呼ばれる炭酸カルシウムを樹脂で固めた非磁性体の一体形成シャーシを使用し、磁気による歪やノイズを最大限に抑え、強力な電源により骨太な音質を醸し出します。
低音域から高音域までフラットで、これといった癖も無い良音でどんなスピーカーと合わせてもスピーカーの個性そのままに鳴らせるアンプです。
音の傾向としてはオンキョーに近く、外見からは想像もつかないほどの素直で柔らかい感触の音色です。
ジャンルを選ばない音質で、逆にファンを絞り切れなかったのがマイナスに出てしまったのではないかと思います。
正直に言えば、もう少しメリハリというかシャープさというか、聴き込みたくなるような個性が欲しいと思うばかりです。
ただし、長時間試聴していると良さが解ってきます、何とリラックスして心地良くなってくるのです、これは全帯域に渡ってフラットでバランス良い音質だという証拠です。
サンスイの牙城を崩す目的でのリーサルウェポンでしたが、なんと崩されたのはヤマハとオンキョーという連合軍内部の潰し合いに終わったという皮肉な結末となってしまいました。
スペックや投入部品等を考察するに赤字覚悟の戦略アンプであり、10万円以上でも安いのではないかと思える超が付くほどハイコストパフォーマンスな名作アンプです。
ヤマハの80年代の名機と謳われるA-2000(1983年発売、19万円)の弟分ともいえるA-950(1983年発売、12万円)は、A-2000の出力をダウンサイジングしたハイコストパフォーマンスな隠れたミドルクラスの名機と言えます。
ヤマハ A-950
シーリングパネルを開いたところ
このA-950はA-2000と同様にA級アンプの音質とハイパワーを両立するためヤマハ独自のPure A class with ZDR回路を採用しています。
ZDR回路が何かは詳しく解りませんが、ノイズを大幅に減少できる新回路で、簡単に言うとハイパワーな純A級アンプだということです。
A級アンプでありながら定格出力は120Wと当時のパワーアンプかと思うほどの恐ろしいまでの大パワーで、A-2000とのスペックなどを比較して7万円の差はかなりお得感があります。
音質は、確かにA級の繊細さに加えて低音域から高音域までワイドに伸びており、ややシャープさに欠けるところがあるものの安心して聴いていられる骨太な音がします。
70年代のヤマハの音とは若干音色が違います、2000年以降の音色は70年代の優しいマイルドな音色に近いので、この辺りの年代のヤマハの音色が独特なのかもしれません。
もし、この音色で最近発売された製品であればメインシステムのアンプにしたいと思えるほど私好みの音質です。
サンスイサウンドはじっくりと聴き込みたいときの音色で、この時代のヤマハサウンドは音楽を愉しみたいときの音色なのです。
アンプ798戦争下にあって、自分流を通してデジタル時代に対応すべくいち早くDACを搭載したミドルクラスの名アンプが、このPMA-780D(1987年発売、9万円)です。
製品名にも解りやすくデジタルの「D」を入れているのが、デノンのデジタル新時代にかける意気込みを感じます。
デノン PMA-780D
デジタルでCDプレーヤーと繋ぐと録音の3種のサンプリング周波数がランプで自動表示されるようになっています。
今となっては無くてもよい機能ですが、当時はこういうディスプレイが重要な戦略だったのです。
それにしても、この時代のアンプに外付け製品が出始めたばかりの高級DACを搭載してしまうなんて驚きます。
誕生間もない高級品であったCDトランスポーター(DACが入っていないCDプレーヤー)をデジタルで直接繋げて愉しめる、なんという贅沢なアンプをこの時代に作ったのでしょう、本当に驚くばかりです。
ちなみに当時の外付けDACは20万円以上は普及機で、100万円を超す超高級品までありました。
こうしたデノンの努力と自分流を一環として通した独自戦略が、10年後にサンスイの強力な牙城を崩してデノンの繁栄に繋がるとはこの時点では誰も想像もできなかったでしょう。
デジタル対応とはいえ電源に新開発のこれもまた驚きの6.2Kgという超重力級トランスを用いて、アナログの基本である電源回路にも一切手を抜いていません。
またノイズ特性を高めることで知られるネガティブフィードバック(NFB)を用いないストレートな増幅回路を採用しており、曇りのないクリアな音質はカラッと晴れ渡った空のようで実に爽快な音色です。
70年代~80年代のNFBのかけすぎた風邪引き声にうんざりしていたマニア諸氏には、こういうストレートで素直な音質は本当に晴れ渡った空のように感じるのです。
それでいて低音域もしっかり出ているし、高音域は伸び切って余韻も見事に表現しています。
一度試聴し始めると何時までも聴いていたくなるアンプはそう多くは在りません、これは間違いなくデジタル時代を先取りした傑作アンプだと思います。