ヤマハの80年代の名機と謳われるA-2000(1983年発売、19万円)の弟分ともいえるA-950(1983年発売、12万円)は、A-2000の出力をダウンサイジングしたハイコストパフォーマンスな隠れたミドルクラスの名機と言えます。
ヤマハ A-950
シーリングパネルを開いたところ
このA-950はA-2000と同様にA級アンプの音質とハイパワーを両立するためヤマハ独自のPure A class with ZDR回路を採用しています。
ZDR回路が何かは詳しく解りませんが、ノイズを大幅に減少できる新回路で、簡単に言うとハイパワーな純A級アンプだということです。
A級アンプでありながら定格出力は120Wと当時のパワーアンプかと思うほどの恐ろしいまでの大パワーで、A-2000とのスペックなどを比較して7万円の差はかなりお得感があります。
音質は、確かにA級の繊細さに加えて低音域から高音域までワイドに伸びており、ややシャープさに欠けるところがあるものの安心して聴いていられる骨太な音がします。
70年代のヤマハの音とは若干音色が違います、2000年以降の音色は70年代の優しいマイルドな音色に近いので、この辺りの年代のヤマハの音色が独特なのかもしれません。
もし、この音色で最近発売された製品であればメインシステムのアンプにしたいと思えるほど私好みの音質です。
サンスイサウンドはじっくりと聴き込みたいときの音色で、この時代のヤマハサウンドは音楽を愉しみたいときの音色なのです。
アンプ798戦争下にあって、自分流を通してデジタル時代に対応すべくいち早くDACを搭載したミドルクラスの名アンプが、このPMA-780D(1987年発売、9万円)です。
製品名にも解りやすくデジタルの「D」を入れているのが、デノンのデジタル新時代にかける意気込みを感じます。
デノン PMA-780D
デジタルでCDプレーヤーと繋ぐと録音の3種のサンプリング周波数がランプで自動表示されるようになっています。
今となっては無くてもよい機能ですが、当時はこういうディスプレイが重要な戦略だったのです。
それにしても、この時代のアンプに外付け製品が出始めたばかりの高級DACを搭載してしまうなんて驚きます。
誕生間もない高級品であったCDトランスポーター(DACが入っていないCDプレーヤー)をデジタルで直接繋げて愉しめる、なんという贅沢なアンプをこの時代に作ったのでしょう、本当に驚くばかりです。
ちなみに当時の外付けDACは20万円以上は普及機で、100万円を超す超高級品までありました。
こうしたデノンの努力と自分流を一環として通した独自戦略が、10年後にサンスイの強力な牙城を崩してデノンの繁栄に繋がるとはこの時点では誰も想像もできなかったでしょう。
デジタル対応とはいえ電源に新開発のこれもまた驚きの6.2Kgという超重力級トランスを用いて、アナログの基本である電源回路にも一切手を抜いていません。
またノイズ特性を高めることで知られるネガティブフィードバック(NFB)を用いないストレートな増幅回路を採用しており、曇りのないクリアな音質はカラッと晴れ渡った空のようで実に爽快な音色です。
70年代~80年代のNFBのかけすぎた風邪引き声にうんざりしていたマニア諸氏には、こういうストレートで素直な音質は本当に晴れ渡った空のように感じるのです。
それでいて低音域もしっかり出ているし、高音域は伸び切って余韻も見事に表現しています。
一度試聴し始めると何時までも聴いていたくなるアンプはそう多くは在りません、これは間違いなくデジタル時代を先取りした傑作アンプだと思います。
サンスイ独自のα-Xバランス増幅回路を初めて採用したサンスイAU-α607(1985年発売、8万円)、この発売によってアンプの戦国時代であるアンプ798戦争が勃発します。
競合他社から続々と戦略的なアンプが798(¥79,800)で発売され出すや、お家芸のα-Xバランス増幅回路をマイナーチューニングして競合他社を引き離すようにサンスイが市場に投入したのがこのAU-α607i(1987年発売、8万円)でした。
サンスイ AU-α607i
α-Xバランス増幅回路が、2年の年月をかけて完璧にチューニングされ、ついに完成に至ったアンプと言っても過言ではないでしょう。
私はこの2世代目の発売を首を長くして待ち続け、発売と同時に即購入しました。
ことアンプに関してはメジャーチェンジした直後の製品ではなく、その2世代目以降のマイナーチューニングされた製品は完成度が高く、音質に関するコストパフォーマンスが極めて高いのです。
サンスイ独自のα-Xバランス回路とは、それまでのプラス信号とアースによるアンバランス型の増幅回路からプラス側とマイナス側をそれぞれ増幅するバランス型の増幅回路で、2つのアンプを1つのアンプとして機能させるBTL接続という原理構成のアンプです。
つまり、左右の2つのチャンネルで4つのモノラルアンプを使っているということになります。
α-Xバランス増幅回路によるプラス側とマイナス側でのスピーカードライブ方式は、サンスイ独自の低音域の厚みに加えて中高音域までも極めてシャープで全体的に硬質でレスポンシビリティが高い切れの良い音質となります。
この音質は、まさにサンスイサウンドの見本そのものです、つまりザ・サンスイサウンドがここに在ります。
このAU-α607iは、サンスイサウンドの中でもキングと呼ぶべき全ての音域に渡り切れがよく極めて音質のバランスが取れた逸品です。
ジャズのライブなどは間近で演奏されているような臨場感であり、特にピアノやサックスの中高域の飛び出すようなリアル感がもの凄く、ボーカルの張り出しはピカイチです。
特に、男性のジャズボーカルは骨太の音の中に繊細な響きも加わり至福の音色です。
それなりのスピーカーなら何を繋いでもサンスイサウンドとなり、一度聴いたら忘れられない音を響かせる、それがサンスイサウンドの最大の魅力なのです。
この後に最新のミドルクラスのアンプを何台も買うも、このAU-α607iを超える私好みの音質のアンプに出会うことはありませんでした。
それほど私個人的には理想とする音色を放ちます。
本来はコレクションではなく、メインでずっと使っていたくなるほどのアンプです。
しかし、そこは後輩に座を譲りコレクションラックに収まり時々愉音を聴かせてくれます。
α-Xバランス増幅回路を持つサンスイAU-αシリーズは、世代別に何台も予備に持っていたいアンプの名機中の名機です。
低音キングと謳われるサンスイサウンドを確立したアンプと言っても過言ではないサンスイAU-D607F、そのAU-D607Fの上位機種であるAU-D707F(1980年発売、10.8万円)です。
サンスイ AU-D707F
ウッドケースが何とも上品で豪華!
DCアンプ構成のダイヤモンドXバランス増幅回路が繰り出す低音域は絶品で、これぞサンスイサウンドと呼ばれる音質の模範ともなる新時代のサンスイサウンドを残す名アンプです。
この硬質で切れの良い低音こそ低音キングと呼ばれる最大のサンスイサウンドの特徴です。
更に、この低音をベースに中高音域の伸びとシャープに響く音色はまさにクールサウンドそのものです。
他社のアンプでは絶対に得られないサンスイファンには堪らない硬質な音色であり、これがサンスイアンプの最大の魅力なのです。
シリーズ中核のAU-D607Fよりも中音域のシャープさと張り出しがより一層強調された感じで、硬く締まった低音域とミックスされたシャープな中高音域が織りなす破壊力は最大級です。
是非、合わせるスピーカーはJBLやダイヤトーンのカラッと晴れ渡るような音色の元気なスピーカーを選んでほしいです。
更に「F」の型式名の由来のスーパー・フィードフォワードという、これまで一般的なNFB(ネガティブ・フィードバック)を大幅に改良したノイズ性能を上げる回路を搭載しています。
これによって、よりシャープでメリハリのあるストレートな音色を醸し出し、ジャズやロックファンを大いに魅了しました。
また、魅力は低音域だけに留まらず、ピアノやサックスの高音域が綺麗に響き、ドラムのハイハットやクラッシャーの金属質なリアルな響きは絶品です。
こんなアンプ、名機と言わずに何と言う?
アンプ798戦争前夜に投入されたケンウッドKA-990V(1985年発売、8万円)です。
ケンウッド KA-990V
サンスイ・パイオニアと70年代後半にオーディオ御三家と謳われたトリオのニューブランドであるケンウッドの名作アンプです。
既にレコードからCDに移行するのを意識したマイペースな製品作りとなっています。
電源ノイズを完全にカットし更にノイズを最終段に伝えない独自回路を搭載し、究極なまでにノイズ特性に拘った逸品です。
音質は伝統のカラッとした明るい音色でジャズやロックを軽快に鳴らします。
特に高音域が綺麗でサンスイの高音域に迫るシャープさが光ります。
低音域がちょっと弱い感じもしますが、ドンシャリ傾向を嫌がる人に好まれる音色だと思います。
長時間聴いていても疲れを感じさせない音色は、ストレスフリーで心地良いものがあります。