コンピュータシステムを構築していくうえで、一部のプログラム性能を向上させると全体的には以前より性能が著しく劣ることがあります。
本来であれば一部でも性能を上げたのですから全体的にも幾らかは向上するはずなのですがそうはなりません、この状況をIT業界では「システムデグレード」と呼びます、つまり一時的な劣化現象です。
これは今まで各機能を司るプログラムが性能が悪いなりにもバランスよく調整されていたのに、一部を向上させたことで全体のバランスが崩れて最終的に性能劣化という状況を起こしてしまったのです。
この現象はなにもコンピュータシステムだけではありません、企業の組織変更や新規社員の入社などでも同じことが言えます。
活性化を目指して組織変更や優秀な社員を雇用しても、今までの阿吽の呼吸が乱れるように社内に混乱や伝達ミスが起きてきます、結果として一時的な組織内業務フローにおけるデグレードが起こるのです。
業務フローのデグレードが起きると経営者は慌てます、向上を目的とした行為が突如逆に出るのですから。
しかし、これはあくまでも一時的な限定現象に過ぎません、コンピュータシステムでいえば他のプログラムとの整合性やチューニングを行うことで、また他のプログラムもバージョンを上げることで見違えるように性能が上がるようになります。
企業でいえば新組織で慣れてくれば、能力の有る社員が機能化しあっという間に以前より成果を出し始めます。
企業も同じように新規事業を開始したとたん、その事業が軌道に乗るまではしばらく各所で各種のデグレードを起こします、新体制に反発して退社する者や取引停止する企業など去るものも出てきます。
どのような場合でも何かを変化させると必ずデグレードを起こすのです、この厄介な「デグレード」ですが実は本質はより良くなるための「好転反応」なのです。
物事も企業も人も全てにおいて、これを知っているのと知らないのとではそのときの判断に大きな違いが出ます。
慌てず騒がず、デグレードを起こしている間は必要な対処をしたなら好転を信じてじっと耐え忍ぶことが肝要です、そして当初の計画以外は何もしてはいけません。
間違っても元に戻したりまた別の方法を導入することのないようにしなければなりません、更に人もまたデグレードとグレードアップを繰り返し徐々に人間性が大きくなっていくのです。
ここで真に成長し成功するためにはデグレード時の判断と行動が最も重要になります、ところで人はどのような状況のときにデグレードを起こすのでしょうか。
多くは生活環境の変化、職業・職場の変化、異文化の遭遇、遇ったことのない思考を持つ人との接触、未知の情報の大量流入などにより自分の中での価値基準の大きな変化が起きたときではないでしょうか。
つまり、今までの行動や考え方を大きく変えなくては生きていけないというような状況、つまり一種の環境カルチャーショックを起こしたときなのです。
更にある種の哲学や思想に深く感銘し影響を受けた場合なども同様に無意識のうちに今までの思考や行動を変えようとします、そうすると今まで何の苦労もなくスムースにできていたことが自分や周囲に対して妙な不安や不信を抱くようになります。
また、今までの自分の思考や行動との著しい不一致により、拒否観念や強迫観念に変わることさえあるのです。
つまり「受け入れがたい事を受け入れなければ生きて行けない」とまで考えるようになります、この状況こそ一時的な性能劣化でありデグレードなのです。
人のデグレードもコンピュータシステムや会社などと同様に、成長するための本質的な好転兆候と言えます。
したがって、デグレードは成長段階には必ず起こるものであるという認識を持って更なる試練を積極的に受け入れて欲しいと思うのです。
志を持って果敢に試練に挑戦していく過程では多くの経験や学びを行います、この過程において一つのカテゴリーの思考が大きく成長してしまうと他のカテゴリーの思考とのバランスが一時的に悪くなるのです。
つまり他のカテゴリーの思考も試練を乗り切るごとに向上してくれば全体的に一回り大きいバランスの取れた思考となるのです、これこそが精神的に「一皮剥けた大人」という状態ではないでしょうか。
デグレードは誰にでも訪れます、そして誰しもその過程で自分を見失い自失の念に押しつぶされるでしょう、でもそれは自分で変化する事を望んだ結果です、それが自分の選んだ道なのです。
デグレードの本質を再認識し、更なる試練を受け入れてデグレードからグレードアップに変え一人前の大人としての経営者に成長してほしいと思います。