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近年のハイエンドオーディオ製品の多くは、スピーカーにしてもアンプにしても極めてシンプルです。
スピーカーではミドルレンジやハイレンジのアッテネーターは付いておらず、バイワイヤリングやマルチアンプに対応したコネクタが付いているだけです。
アンプは電源スイッチと入力セレクタ、そしてボリュームしか付いていません、トーンコントロールもバランス調整もフィルター類や録音機能も何も付いていません。
最もシンプルな高級ハイエンドアンプでは入力セレクタすら付いておらず、アナログ入力1つ分しかコネクタが付いていないという究極のプリアンプもあります、つまりレコードを聴くのであれば外付けでフォノイコライザーを別に付けることを前提にしているのです。
この意図としては忠実にソースの音を再現することにあり、必要最小限の回路のみとしてノイズの元になるスイッチなどによる分岐や余計な回路(部品)を全て排除するという究極の選択による結果なのです。
確かに高級なハイエンドオーディオ製品で聴く際は、トーンコントロールなどを全てジャンプするソースダイレクトスイッチをオンにした状態で聴きます。
スピーカーもアッテネーターが付いていない密閉型で聴きます、したがって何も調整する必要が無いのです。
音を調整する必要があるということは、それ自体にソースの音が忠実に再現されていないという証拠なのかもしれません。
究極のハイファイオーディオの姿とは、レコードのピックアップコイルに電流増幅する概念上のケーブルでスピーカーを直結したようなイメージなのだと思います。
きっとハイエンドオーディオ技術者が求める究極のアンプの姿とは、「電流増幅だけを行わせる導線」なのだと思うのです、これを極めた結果において1台500万円を越えてしまったのです。
究極のアンプとはソース音源に対して「何も足さない、何も引かない」、きっとそういう理想に基づいているのです。
私もいつしかアンプとスピーカーで1,000万円以上というシステムを部屋に置き、静かで広い空間でゆったりと音楽を愉しみたいと思います。
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昔から多数存在しているオーディオアクセサリー類ですが、本当に音質向上に効果があるのか誰しも疑問に感じていると思います。
最も多いのがケーブル類です、低インピーダンス(交流抵抗)を謳う高級ケーブル類ですが、正直ハイエンドアンプにハイエンドスピーカーを繋いで試聴しても音質の違いを聴き分けられる人は殆ど居ないと思います。
10メートル以上の距離をぐるっと引き回す場合には効果があっても、通常サイズの部屋で愉しむ程度であればハッキリ言うと無用の長物です。
私も過去には、CDプレーヤーが出始めのころはマランツのライントランス、レコードプレーヤーやアンプに振動を伝えないインシュレーター、スピーカーケーブルなどを多種使ったことがありますが、その価格に対する違いを発見することは正直言うとできませんでした。
大理石の石板の上に針のようなピンで支える10万円もするインシュレーターは、本当に価格だけで相当高額なハイエンドレコードプレーヤーでなければ効果も期待できないと思います。
それよりもソニーの80年代のミドルクラスのアンプはシャーシそのものを非金属の一枚形成された物を使用しています、こちらのほうが電磁ノイズ対策など実質的な効果が期待できます。
ライントランスなどは80年後半で5万円もしましたが現在のCDプレーヤーでは回路や部品の特性上意味も成さない代物です、つまり使う根拠がどこにも見当たらないのです。
ライントランスとは、出始めのころのCDプレーヤーにおけるデジタルからアナログに返還する際に発生した高周波ノイズがラインに乗るのを除去する目的で使用するものです。
アナログ全盛の時代には意味があっても、デジタル全盛時代には意味もなさないものが高価で取引されるのはもしかしてそういった電気的知識が無い人が知らずに買っているだけではないでしょうか?
まさか、この時代に80年代後半に出てきた骨董価値も無いCDプレーヤーを一緒に買うのでしょうか?
存在という骨董価値はあっても、音質に意味の無いオーディオアクセサリー類は本当にどうかと思うのです。
そんなスピリテュアル的な気持ちの問題だけで高価なアクセサリー類を買うのであれば、その費用をアンプやスピーカーに振り分けた方がはるかに効果があります。
使ってみたいとか持っていたいという喜びなら別ですが、アクセサリー類はその技術的根拠と使用した場合の効果をしっかりと理解したうえで購入して欲しいと思うばかりです。
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私は音の表現で「音質」という表現と「音色(ねいろ)」という表現を使い分けているのですが、これには訳があるのです。
音質は低音域や高音域などの音の質そのものです、レンジが高低に伸びているか締まっていて切れが良いのかもたついているのかなどです。
対して音色というのは、例えば同じ音質でも広い部屋と狭い部屋での響き方が違うように微妙なニュアンスでの味付け的な要素を指しています。
細かい事をいうと余計に解りづらいのですが同じ周波数の音でも金属のお皿を叩いた時の音と焼き物のお皿を叩いた時の音はまるで違います、金属の方が叩いた瞬間からしばらく同じような音量を保ち少しずつ細かなビブラートを残しながら小さくなり消えていきます。
実は基本の周波数の他に複数の小さな周波数の音が出ており、これが合成されてビブラートが生まれているのです、焼き物の場合は叩いた瞬間だけは大きな音量ですが急速に音量が減少しビブラートはありません、つまりこういった微妙な違いを音色として表現して聴き分けているのです。
さて、このような音色の違いはアンプの増幅回路に使われている負帰還(NFB)回路によって生まれていると言っても過言ではありません、必ずしもそれだけではありませんが要素的には大きな位置を占めています。
負帰還(NFB)とは1937年にウェスタンエレクトリック社とAT&T(アメリカの電気通信局)が設立したベル研究所によって提唱され、1947年に発明者である技術者の名前を付けてウイリアムソン増幅回路として発表された方式です。
原理は増幅回路を通って増幅された電流を再度位相を逆にして増幅前の信号とミックスさせて再度増幅させるというもので、ノイズ成分はキャンセルされ信号成分だけが増幅される為に大幅にノイズを低減できるというものです。
ただしノイズは大幅に低減するのですが音のシャープさが落ち、切れの悪い音になることが知られています。
このNFBの負帰還量やどの帯域の周波数に絞ってNFBにかけるかなどが各社のよって異なり、メーカー別のアンプの音質や音色となって現れてくるのです。
ちなみにラックスマンのアンプの中には周波数帯を2つに分けてのデュアルNFB方式をとっているアンプがあります、このアンプの音色は独特でマニアの間では「風邪引き声」もしくは「鼻づまり声」と称されています。
これもまた好みの問題であり、温かみがあってマイルドで聴きやすいという人もいます、聴感覚も十人十色であるようにオーディオアンプの音色も十機十色だということです。
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デジタル全盛期の昨今において急速に広まってきたのがインターネットオーディオとPCオーディオです、PCからUSBを介して高音質のデジタルソースを再生するUSB-DACは続々と新製品が誕生してきています。
DACだけの機能の製品もあるのですが多くはヘッドフォンアンプが内蔵している所謂USBヘッドフォンアンプという代物です、またUSB入力だけではなくCDプレーヤーなどの光デジタル入力や他のアナログオーディオの入力も行える製品も誕生してきています。
各種の入力セレクターが付いていてヘッドフォンアンプが内蔵されたDACにはアナログ音声出力コネクタが付いている製品や、スピーカーを直接繋げられるUSBプリメインアンプまであります。
こういった製品で私が注目しているのが各種のセレクタが付いたUSB-DAC付のヘッドフォンアンプです、考えてみるとアナログ音声出力にアナログパワーアンプを繋げば70年代に流行ったセパレートタイプのアンプ構成になるのです。
つまりUSBヘッドフォンアンプがプリアンプと同じ役目を果たすわけです、そしてパワーアンプを好きな音色のものを選べば高音質でスピーカーを鳴らすことが可能になります、真空管パワーアンプを使えばハイレゾのデジタルソースを真空管アンプの音色で愉しむことができます。
PCやCDプレーヤーとUSB-DAC付ヘッドフォンアンプまでがデジタル、ヘッドフォンアンプからパワーアンプを経由してスピーカーまでがアナログというデジタル-アナログのまさに仲介役という存在になります。
パワーアンプは小型のデジタルアンプを使うと、極めてコンパクトなサイズで大音量でスピーカーを鳴らせるシステムが組めます。
理屈では理解できるものの私はなにかしっくりきません、でも時代に合わせて自身を変化させ愉しんできた私です、おそらくデジタル全盛時代も自分流の愉しみ方をチャレンジしつつ見つけ出していくのでしょう。
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50年以上も前から存在するオーディオ神話に、「ジャズはJBLで、クラシックはタンノイで聴け」というものがあります。
JBLはアメリカ発祥のスピーカーメーカーでタンノイはスコットランド発祥のスピーカーメーカーです、どちらもスピーカーメーカーとして早くから世界ブランドを確立しファンを二分してきたスピーカーの一大世界ブランドです。
確かに軽快に鳴らすJBLのスピーカーはジャズやロックに向き、繊細な音でゆったり鳴らすタンノイのスピーカーはクラシックに向きます。
また定説の補足的に存在するのが、ジャズの本場はアメリカでJBLは楽器奏者にもPAを通して親しまれてきてジャズやロックに必要な音を知っているからというのがあります。
同様にタンノイは、ヨーロッパで生まれた多くのクラシック音楽に精通した音作りをしておりクラシックに向くのも確かな根拠があります。
こういった定説を鵜呑みにして自身で経験していない人は多いと思います、つまりJBLでクラシックをタンノイでジャズやロックを聴いてみたことがあるのでしょうか?
実際に聴いてみるとJBLでのクラシックもタンノイでのジャズも全然悪くない音で鳴ってくれます、そもそもですが世界ブランドを確立するような製品はジャンルを特定して開発しているわけではないのです、良い製品はどんなジャンルの音楽も綺麗に鳴ってくれるのです。
メーカーの目指すものとそれを使う側の求めるものが違ってくるのはどの業界にでもあります、おそらくですがスピーカーユニットの音そのものよりも外見から来る偏見的なものが多いのではないかとさえ思うのです。
JBLを不動の世界ブランドに押し上げた製品に1957年発売のD44000(俗称パラゴン)があります、幅2メートルの左右一体となったまるで家具のようなスピーカーで家具職人が1台ずつ手作業で作り上げます。
日本に初めて上陸したのは1965年で170万円でした、現在でも内外をオーバーホールされた完全なものだと中古でも300万円ほどで取引されています。
その後にはミニチュア化させたミニパラゴンを多くのマニアが設計図を基に手作りで作成し、それが世に安価で出回っています。
このパラゴンはクラシックファンに親しまれた製品です、そしてパラゴンに使われていたスピーカーユニットがその後のJBLスピーカーユニットの系譜を作っていったのです、つまりJBLスピーカーでクラシックも綺麗に鳴らすことができて当たり前なのです。
同じようにタンノイでジャズやロックを聴く人も居ます、そもそもヨーロッパでもジャズやロックフェステバルが数多く開催されファンも多いのですから当たり前なのです。
定説も良いけど囚われてはいけません、でも確かにジャズはJBLとかアルテック、日本製ではダイヤトーンとかオンキョーのスピーカーを使い大音量で鳴らすと音の響きは最高なのです。