黙って聴けば型名の意味が解る、そんなスピーカーがオンキョーD-202AX LTD(1998年発売、ペアで9.4万円)です。
オンキョーの持てるスピーカー技術を結集して作られた、同社のフラッグシップ(象徴)的存在の小型ブックシェルフとしてレジェンドとなったスピーカーの一つです。
それにしても、当時約10万円もした小型スピーカー、中型~大型のミドルクラスが買える価格であり購入を決めるに一瞬躊躇った記憶が蘇ります。
オンキョー D-202AX LTD
初代D-202A(1992年発売、6.8万円)に始まるD-202Aシリーズの最終作且つ究極バージョン(LTDはその意味で付けられています)です。
D-202Aはマイナーチューニングを施しながら型式を変え、D-202AX(1998年発売、7.6万円)でウーハーがより強力なユニットに変更されます。
D-202Aのウーハーユニットのエッジはウレタン製で経年経過で一気に崩壊しやすいのですが、D-202AXからのウーハーユニットは和紙をベースにしているので突然崩壊することもないでしょう。
このD-202AX LTDはD-202AXのエンクロージャーを限界なまでにチューニングを施し、小型ブックシェルフの音質の限界にチャレンジしたオンキョー渾身の名作です。
D-202AXのエンクロージャーの奥行きを3Cm深くして約3リットル容量を増やし、モジュール構造で内部の不要な共振を抑えている完璧なまでの小型ブックシェルフです。
D-202AX(上)よりもD-202AX LTD(下)の方が奥行きが3Cm深い
D-202AX LTDのモジュール構造
<「オーディオの足跡」より拝借>
正面の寸法からは想像できない容量を奥行きで稼ぐ手法は、その後の小型スピーカーのスタンダードモデルともなりました。
更には内部に鉄板を貼り、フロンドパネルは驚異の30mm厚(D-202AXは25mm厚)としてエンクロージャーの共振を完全に抑えることに成功しました。
1999年、日本製スピーカーの権威を一手に担ってきたダイヤトーンがオーディオ事業から撤退します。
その陰に、こういったオンキョーの新時代に対応した超優秀なスピーカーが在った事を忘れてはいけません。
オンキョーは、その後日本スピーカーを代表するブランドに伸し上がっていくのです。
そんな歴史に名を残す、このD-202AX LTDの音質は小型ブックシェルフの域を越えており、16Cm口径のウーハーでありながら大型ブックシェルフ並みの低音域である35Hzまで低音域周波数特性を伸ばしています。
大きさからは考えられないほどの骨太な低音がストレートにドスンと響きます、しかも中高音域も極めてシャープでメリハリがあり、「凄い!」の一言しかありません。
同世代のダイヤトーンの3ウェイ大型ブックシェルフDS-700Zと比較試聴してみましたが、エンクロージャーの容積比で1/5以下のD-202AX LTDの方が低域音が豊かに響くのです、これには本当に驚きました。
ただし、DS-700Zのように硬質な締まった低音ではなくストレートにドスンとはくるものの、バスレフ特有の部屋全体に響き渡るような低音でむしろ聴きやすい音色とも言えます。
ニアリスニングでも音場がバラけることもないのですが、距離をとって聴いた方がまとまりがある響きが得られるスピーカーです。
このD-202AX LTDの音質があまりにも凄いので、後日ノーマル版のD-202AXを購入しエンクロージャーの違いでの音質の差を比較したほどです。
同じユニットを使っているD-202AXと比べて低音域の豊かさが若干増しています、低音域の量感が若干なりとも違うとこんなにも全体的な音色が異なるとは驚くばかりです、本当にスピーカーは微妙なエンクロージャーの違いが大きく音に出てしまうのですね。
更に同じユニットのはずなのですが、色が明るく見えるのは気のせいではなさそうで、これはロッドの違いかもしれません。
D-202AXとの価格差1.6万円以上の音質の差があります、ということはペアで10万円程のD-202AX LTDはコストパフォーマンスが極めて高いとも言えるのです。
更には、エンクロージャーの仕上げはD-202AXとはまるで違っていて豪華な光沢仕上げといい価格差以上の高級感があります。
ちなみにD-202AXは全体的な作りが安っぽくてバックサイドの突板がすぐ剥がれてきます、これはいけません。
小型ブックシェルフでありながら聴かせる音色、私の小型ブックシェルフに対する偏見を一蹴したスピーカーです。
このD-202AX LTDに惹かれた私は、その後もD-212EXなどオンキョーの小型ブックシェルフの大ファンとなるのです。
マニア間の合言葉「迷ったらオンキョー」、間違いないでしょう!