2024年12月12日 08:00
スピーカーユニットを買ってきて、エンクロージャー(箱の意味で、ボックスとは言わない)に入れずにそのままアンプに繋いでみてください。
どんなにボリュームを回しても、音は小さいし「シャリシャリ」と高音域しか聞こえません。
これが、スピーカーをエンクロージャーに入れる理由です。
スピーカーは前にしか音の出ない構造のホーン型を除き、コーン(振動板)を前後に動かす事で空気振動を起こし音にする装置です。
したがって、前と後ろに位相が逆の音が同時に出るのです。
これが、空気中で位相反転の波の合成により相殺され殆ど音が聞こえなくなります。
つまり、後ろから出る音を遮れば前にしか音が出ないので大きく綺麗な音が出ます。
その遮る方法として最も簡単な方法は大きな板にスピーカーを取り付けることです。
ただ、低音になると2メートル四方でも回り込んできます、そこで完全に後ろ側の音を遮るためにエンクロージャーに入れるのです。
ここで、エンクロージャーに入れると今度は別の問題が発生します。
それは、後ろに出た音(空気振動)の行き場です。
行き場の無い音は、スピーカーユニットのコーンを抑えて次の振動の邪魔をします。
これを防ぐために充分な容量を確保し、内部を吸音する素材で満たす必要があります。
そんな音響科学の塊によってスピーカーは出来上がっているのです。
また、後ろ側に出た音をダクトによって共鳴させて低音域を伸ばすのがバスレフ方式で、長いラッパ状の経路によって共鳴させて低音域を出すのがバックロードホーン型のスピーカーです。
バスレス型は前か後ろに穴が空いているのですぐ解ります。
このバスレフ方式が確立されたことによりスピーカーエンクロージャーの小型化に拍車がかかりました。
後ろ側の音が閉じ込められる事が無いので、ユニットにも負担がかからず安価な小型ユニットでも低域再生が可能になります。
バックロードホーンはエンクロージャー内に、複雑な音の経路を作り低音域の周波数を共鳴させることで低音域を増強する方式で大きな穴が空いています。
さて、スピーカーにはいろいろな方式が採用されているのですが、スピーカーユニット自体が優秀であればバスレフやバックロードなどの小手先技術を使わなくてもパワフルな低音を響かせてくれます。
最近では見かけませんが、70年代から90年代前半のダイヤトーンの主力スピーカーは殆どが密閉型です。
価格も半端ではないのですが、その音はバスレフやバックロードホーンなどでの地を這うような疑似低音ではなく、ストレートにドカンと身体にぶつかってくるような硬く締まった低音です。
密閉型でありながら、バスレフと同じ30Hz台を軽々と再生できるユニットは神器だと思います。
密閉型はユニット自体の性能が音を決めてしまう為に、本当に性能の良いユニットを使う必要があり、更には閉じ込められた音でエンクロージャー自体が振動しないように硬質で強固なエンクロージャーを作る必要があります、したがってめちゃくちゃ重いのです。
密閉型は、逆に言えばスピーカーメーカーの音に対する自信の表れでもあります。
私も密閉型スピーカーは数多いスピーカーコレクションの中でヤマハNS-10MMなどの超小型サラウンドスピーカーを含めても7セットだけです。
ダイヤトーンの2セットは共に本格的3ウェイ大型ブックシェルフ型で、ビクターは2ウェイ中型ブックシェルフ型です、
また、オンキョーのHTS-SR10とHTS-C10はホームシアターの世界音質認定である「THX」を取得したサラウンド用スピーカーとセンタースピーカーで、メインユニットは13cmでありながら許容入力150Wとハイパワーをぶち込んでもびくともしない恐るべきスピーカーです。
世の中に存在するサラウンド向けスピーカーの殆どが許容入力は50W以下であり、150Wというのはフロント用のメインスピーカーよりも高い許容入力値なのです。
その音は、13Cm口径での密閉型とは思えないほどの締まった低音がドカンと直接襲いかかってきます。
エントリークラスの低能率(音圧が低い)フロントスピーカーを組み合わせてしまうと、完全にサラウンドとセンターに負けてしまいアンプでは調整不可能な状況になってしまいます。
こんな音を1度でも聴いてしまうと、まず他の小型ブックシェルフの音がとても聴きやすいマイルドな音に感じてしまうでしょう。(悪い音という意味ではなく、音色の感覚的な意味で)
密閉型のスピーカーは今の時代にほとんど製造されていません、ユニット開発とエンクロージャーにお金がかかり過ぎてスピーカー本体の価格が高くなってしまうからです。
しかし、密閉型スピーカーが奏でる低音は偽装された低音とは異なり、物凄いエネルギーと硬く引き締まった独特の音を響かせます。
ベースはゴリンゴリンと、バスドラムはドスン・パシーンと響き渡るのです。
世に存在する多くの打楽器、例えば和太鼓やドラムなど殆どが筒の両側に皮などを貼り密閉されています。
ここに密閉型のスピーカーの低音が硬く引き締まっているという根拠があります、つまり音を発する装置と同じ再生方法を採っているいるのですから。
こういった楽器の原理を理解しオーディオの原理との差異を考え、その差を埋めるような工夫を凝らして行くのも大きなオーディオの愉しみなのです。
オーディオをいろいろと体験してくると、スピーカーを一瞬見ただけで聴くまでもなく、おおよその発する音色が解るようになります。
逆に、その予想を覆すような音色を発するスピーカーは例外なく私のコレクションルーム行きとなります。
機会があったら是非一度、本物の硬く引き締まった低音というものを聴いてみてほしいと思います。