2023年8月 5日 08:00
今は無きオーディオの歴史を築いてきた名門サンスイが、オーディオ氷河期に見せたアンプの巨匠の意地がここに在ります。
90年代中盤になると、世はパーソナルオーディオ全盛となり安価なミニコンポ(幅30Cm前後のコンパクトサイズ)一色になりました。
そんな時代に、サンスイもアレフシリーズとして小型アンプA-α7(1994年発売、6万円)を投入します。
90年代に入ると、アレフシリーズに限らずサンスイアンプは全体的に伝統のブラックフェースからシルバーやシャンパンゴールドの優しい面持ちに変わります。
サンスイ A-α7
当時のオーディオ界の流れは定格出力を落とし、ハーフサイズ&ロープライスに移行していました。
そんな時代にあって、トーンコントロールなど不要と思える回路の全てを排除して定格出力も50Wとし音質を追求したようなアンプです。
メーカーの説明によると、「増幅回路はダイアモンド差動回路とウイルソンカレントミラー回路を組合せたアドバンスド・ダイアモンド差動回路とし、最終段のパワートランジスタ4つをゆとりをもってドライブするとともに信号の立ち上がり特性がよくなり、変化の激しいデジタルソースにも対応している」、としています。
ダイヤモンド差動回路と言えばAU-Dシりーズです、なるほどAU-αシリーズ時代に過去の資産を活かして作ったと思われます。
4つのトランジスタという事はシングルプッシュプル方式ということになり、出力を落としてもダイナミックでストレートな音質を維持しようとしたことが解ります。
ただ、得意のXバランス型ではなくアンバランス型のノーマルな増幅回路だということがパワートランジスタの数から推測すると解ります。
また、入力セレクトスイッチと同様の大きなツマミを使ったCDダイレクトスイッチ、プリ部とパワー部を完全分離させ各種のエフェクト機器を繋げられるエフェクトイン/アウト端子を装備しています。
このエフェクトイン/アウト端子にイコライザーやトーンコントローラーを繋げば音質調整が可能となります。
サンスイ伝統の大型トランスを新規開発して搭載、左右完全分離の回路設計が施されています。
小型化しても音質はばっちりサンスイサウンドの流れを継承し、サンスイらしいシャープな切れ味の中高音域が健在です。
ただ、ピアノやサックスなどのソロバージョンは極めて気持が良いのですが、アンサンブルになるとそれぞれの音が若干重なり合ってしまい、同じダイヤモンド差動回路のサンスイ系譜のAUーDシリーズのような明快で硬質なメリハリのある愉音とまではいきません。
当然ですが、小型ブックシェルフでは何らの問題もありませんが、大口径ユニットを使った大型ブックシェルフを繋ぐととたんに低音域の腰の弱さが目立ちます、とはいえあくまでもAU-αシリーズに比べたらの話しです。
サンスイらしいド迫力のストレートにぶつかってくるような硬質な低音は、このクラスのアンプに期待するのは無理なのかもしれません。
尚、価格と音質などの総合評価で言うと、同時代のオンキョーやデノンのミニコンポの方が定格出力こそ抑えられてはいるもののコストパフォーマンスがかなり高いと思います。
また、7シリーズのエントリークラスの507で同年にAU-α507XRがほぼ同価格で発売されています、これを勘案するとA-α7はかなりコストパフォーマンスが低いという評価になってしまいます。
こういったところでサンスイは、ハイコンポでシリーズ化できずにオーディオ氷河期を乗り越えられなかったという根拠を残してしまっています。
アンプの巨匠サンスイも、デジタル対応・ホームシアター・ハイコンポなど新時代の全てのカテゴリで後れを取り辛酸を舐続けます。
そして2年後、20年続いたサンスイの強固な牙城が脆くも崩れ落ちるのです。
そんなサンスイの栄光と衰退の歴史を語る貴重なアンプなのかもしれません。
また、「サンスイがノーマルなシングルプッシュプル増幅でアンプを作るとこういう音色になる」、という意味でもこのアンプは貴重な音を残す存在だと思います。
尚、同シリーズの兄貴分として定格出力60Wとしシャーシに銅板を使った高級仕様のA-α9があります、調べてみると回路構成も部品構成もA-α7と同じですので音質もほぼ同じだと思います。
見た目ではツマミ類とサイドパネルが異なり、A-α9の方が高級感に溢れています。