2023年5月 6日 08:00
70年代初頭に起こった日本オーディオビッグバン、各社がオーディオに乗りだしてきた70年代末期にソニーが満を持して持てる技術を全て注ぎ込んで市場に投入したのがこのTA-F60(1979年発売、定価7万円)でした。
当時の初任給の平均が6.5万円、1ヶ月の給与に相当する金額でありながら年齢を問わず人気を博したアンプです。
当時のプリメインアンプは、サンスイ・トリオ・パイオニアが大半のシェアを握っていましたが、ここに大資本企業のソニーが宣戦布告して本格的に参戦してくるのです。
ソニー TA-F60
パルス電源という独自の電源回路を搭載し、一旦直流にした後に20Khzという高周波パルスに変換し再度直流に整流するという乱れの無い完全且つ安定した直流を得ています。
まさにデジタル電源とも言うべき電源回路で、後に「スイッチング電源」として各社からパソコン用電源などに応用され販売されます。
こういった礎を齎したソニーの功績は極めて大きなものと私的に大評価しています。
その意味でもこのアンプは、アンプコレクターのコレクションアイテムとしても貴重な1台と言えるのです。
ただし、この電源の最大のデメリットはパルスによるノイズを発生させてしまう事にあります、ただ高周波なので耳に聞こえるノイズではないのですが、その後高音質化で高域が伸びてくる事で影響を無視できなくなります。
したがって、この高周波ノイズ対策をしなくてはならない為にオーディオにおいては定着することはなくパソコンや業務機器などに応用されて行きました。
この完璧な電源に裏付けされた増幅回路はハイファイトランジスタによる低ノイズアンプで、プリ/パワーを完全分離させた構成となっています。
また、高出力トランジスタの熱を冷却する為に銅パイプの中にオイルを入れ、ヒートシンクを貫き水冷と空冷を巧みに利用した冷却装置を編み出し投入しています。
部品配置は最短で入力から出力までを繋ぎ、これでもかという程の贅沢な技術を惜しなく投入しました。
流石世界初のトランジスタラジオを製造した技術のソニーです、その技術的アイデア力と基礎技術はずば抜けています。
また、パネル最上部に付けた左右13段階のLEDによるデジタル方式のピークレベルメーターも当時では斬新で、ソニーのオーディオにかける意気込みを伝えるアンプです。
そんな当時のオーディオ技術の塊のようなアンプは、70年代とは思えないほどの骨太でシャープな切れ味でありながら、癖が無くストレートのみの直球勝負な音色です。
音色的にジャンルを選ばずにどんな音楽でもこなしますが、ジャズボーカルでは特に張り出しオンキョー同様に中音域が綺麗なアンプです。
この時代にこの価格で75Wという定格出力は立派過ぎます、ツマミやスイッチも全てアルミダイキャストと超豪華、セレクトボタン周りの贅沢過ぎる作りも豪華としか言えません。
完全に赤字覚悟の戦略製品です、こういった傾向は当時のテクニクスにも見出せ、大資本企業の新たな事業分野を開拓する為のライバル企業潰しの施策の恐ろしさをまざまざと見せつけられるアンプです。
こういった技術が数年後に、TA-F333ES&555ESシリーズに受け継がれていくのです、その意味では極めて貴重なアンプの一つだと言えます。
「ソニーのアンプってこういう音」、を確立させたと言ってもよいほどの貴重な音質を今に残すプリメインアンプの傑作中の超傑作です。
ソニーコレクターには必須のコレクションアイテムです!