2023年4月29日 08:00
70年代初頭に起こった日本オーディオビッグバン、躍起になる各社を尻目にテクニクスは薄型や全自動化レコードプレーヤーなどのユニークな商品群で勝負していました。
そんな大資本企業が余裕を見せながら、新しい世代のオーディオファンを取り込むための戦略的プリメインアンプの一つがSU-8055(1979年発売、定価5.2万円)でした。
当時の大卒初任給が6万円ほどですから、けっして安価なエントリークラスのアンプではありません、むしろ当時では高額商品です。
テクニクス SU-8055
この時代の一つのキーワードともなったDCアンプ構成で、パワーアンプの前段には独自開発のリニアICを使うなど未来志向の技術を惜しむことなく投入しています。
定格出力こそ45Wと、同年代の競合他社アンプに比べて低めですが、とにかく低音域が驚くほど豊かでしかもピシッと締り、中高音域は明るい音色で50年代のモダンジャズやハードバップ(クールジャズ)が見事なまでに本当にクールに響きます。
特にベースの押し出しと高音域のピアノとハット系ドラムの音色は極めてシャープに響き気分も一気に元気になります。
サンスイの低音が「ゴリゴリ」と評されるなら、テクニクスの低音は「ゴンゴン」と前に張り出してきます、これはこの年代と普及クラスだということを考えると本当に凄いの一言です。
この見事な音質のアンプの誕生で、80年代に入ると各社一斉に締まった低音域再生に力を注ぎ出します。
締まった低音域とシャープな高音域に支えられたサックスやボーカルの中音域の響きたるものは、他に例えようも無い音色で感動さえ覚えます。
このアンプ、本当に本当に凄いです!
往年のジャズファンには堪らない音色でしょう。
是非とも、JBLやダイヤトーンの明るく元気なスピーカーと合わせて聴いてほしいアンプです。
明るく元気な音色は、オーディオ評論家の言葉を借りて表現するとまさに「カルフォルニアサウンド」そのものです。(カラッとした明るいサウンドを指して言うのだそうです)
ジャズだけではなく、ロックもポップスも極めて元気な明るい音色で気持ち良く鳴ってくれます。
また、大型の液晶ピークレベルインジケーターも付いており、新世代の購入意欲をこれでもかとかき立てました。
SU-8055のピークレベルインジケーター
消費電力も少なく、何よりも重量が軽いのが扱いやすく最高です。
テクニクスやパナソニックのアンプは奥行きが短いのが特徴ですが、このSU-8055は私のコレクションの中で最も短く25Cmで極めて扱いやすいサイズで好感できます。
重さと大きさで勝負の80年代のアンプ、これでもかというくらいの大きな電源トランスと電解コンデンサを積んでいます。
対してこのSU-8055は軽量ですが、音質は骨太でずっしりしています。
音質は重さやサイズには、どうも比例しないようです。
70年代最後の隠れた名機、ジャズファンなら躊躇することなく良質中古を見つけたら価格に関係なく即買いをお薦めする逸品です。
ちなみに音出し確認でこの音色を再度確認したら、1ヶ月近く他の機種の音出し試験を放って毎日ソースを変えては聴き込んでしまいました。
近年のアンプでは絶対に味わえない愉音&快音、私の手持ちアンプの中でも理想的な明るい音色でジャズを元気に聴かせてくれる1台です。
最後におまけの一言、実はこのアンプはマイク入力が付いておりカラオケ用のアンプとしても機能するのです。
マイクの音量とエコーコントロールが可能で、当時流行していた8トラやカセットテープでのホームカラオケユースにも対応しているのです。
当時は、テープラックにモニタースタンドなどをセットにしたホームカラオケセットが大流行していました。
逆に、このカラオケ仕様が仇になって当時の純粋なオーディオマニアは音の確認もせずに購入するのをスルーしていた可能性があります。
そんな意味でも、ジャズを聴き込む為の隠れた名アンプかもしれません。
ジャズファンなら先ずは一聴の価値あり!