2023年5月27日 08:00
80年代にハイブリッドICで構成し、価格を落とすも音質は下げなかったハイコストパフォーマンスアンプがビクターAX-S700(1986年発売、定価6.2万円)です。
接点磨きと内外装クリーニングのメンテナンスから戻ってきてすぐの試聴です、流石にプロのメンテナンサーの仕事は道楽で行うのと違って本当に新品同様になって戻ってきます、高いお金を払ってもコレクション品は定期的にやっておきたいと思います。
どうでもいい話なのですが、メンテナンス上がりのアンプは温まってくるとクリーニング剤に含まれる芳香剤の香りが漂うので新鮮でなかなか爽やかな気持ちになります。
ビクター AX-S700
このビクターAX-S700は自重の半分もあろうかという巨大な電源トランスを採用し、オリジナルの電圧・電流変換増幅Gmドライバー回路でスピーカー駆動力を従来のアンプに比べて大幅に改善したプリメインアンプです。
Gmドライバー回路とは、音楽信号エネルギーを正確にスピーカーへ送り込むための低インピーダンス駆動回路で、信号レベルの変化でスピーカーのインピーダンス低下や逆起電力が生じてもパワー段を安定にドライブできるというものです。
大型スピーカーから小型スピーカーまで、何をどのように繋いでも安定した音質で見事に再生するのには脱帽です、本機を80年代~90年代ミドルクラスのアンプのリファレンスアンプ(聴き比べ用のアンプ)に使っていたほどです。
また、最終パワー段は有害なスイッチング歪を発生しないダイナミック・スーパーA級をハイブリッドIC4個(左右2個使いでプッシュプル)によって実現しています。
そのため部品点数と容積を大幅に削減でき、この時代にしてはハイブリッドICを使ったテクニクス同様に軽量薄型を実現しています。
サンスイやソニーが798戦争で物流勝負する中で、このテクニクスとビクター両社は一歩未来を見て独自のハイブリッドICで低価格化を押し出しているのが何とも立派です、それゆえの私の貴重なコレクションの1台となっています。
またテクニクスとビクターは、ビデオデッキなど技術交流が盛んに行われていました、そんな両社が同時期にハイブリッドICアンプを製品化している事実は実にしっくりいく事実です。
ハイブリッドICの特性なのか、重量が軽いのに音質は信じられないほど低音域が充実しています、ゴリっとした締まった低音で小型スピーカーでも低音がゴツンと響くのには驚きます。
中高音域もシャープで嫌みがありません、これがハイブリッドICの成果だとしたら真の隠れた名機でしょう。
リファレンスに使った小型ブックシェルフのリファレンスであるダイヤトーンDS-200ZAがあまりにも見事な鳴りっぷりで半日もソースを入れ替えては聴き込んでしまいました、私的にはこの音色はかなり気に入ってます。
ちなみに、ビクターはこのハイブリッドICとその技術を同社プロフェッショナル(PA)ブランドのVOSS製品にも活かしています。
ハイブリッドICはヘビーデューティな使用が可能で、電源入れっぱなしが当たり前のプロフェッショナル用としてはベストな選択です。
フォノイコライザーもMMとMCが付いており、出始めのCDも含めたアナログ/デジタルのオールソースに対応しているのも感激ものです。
そして、低ノイズのスーパーA級での出力の割には発熱と消費電力が少ないのも見逃せない最大の魅力です、もっと高評価されてもよいアンプの一つでしょう。