2023年4月 1日 08:00
「たった1台のアンプやスピーカーがメーカーの未来を左右する」、そんなことが突然起こるのがオーディオ界です。
日本のオーディオ黎明期に投入されたヤマハ渾身のハイエンドな芸術的名機がこのCA-1000(1973年発売、9.8万円)です。
9.8万円は、ラックスマンの同年発売したL-507という最高位機種のハイエンドプリメインアンプと同額であり、当時は「だったらラックスマンを買う」という人が多い中、新参ヤマハに期待する人が本器を購入しました。
ちなみに当時の10万円は、現在の相対価格にして50万円ほどとなります。
当時は、高級オーディオ1セットで自動車が買えるほど高級な電化製品だったのです。
ヤマハ CA-1000
ヤマハが本格的なコンポーネントタイプのプリメインアンプを発売したのが、1972年発売のCA-700でした。
その1年後に、クラシックファンを虜にした芸術的名機CA-1000が発売されたのです。
このたった1台によって、楽器のヤマハから「オーディオでもヤマハ」が決定されたと言っても過言ではありません。
また、CA-1000はマイナーチューニングを繰り返し、CA-1000Ⅲの上位機種であるCA-2000もまた後に伝説の名機として謳われます。
1972年、日本のオーディオ界にトリオの創業者春日氏による高級ハイエンドブランドであるアキュフェーズが誕生します。
当然のことヤマハはこれを意識せざるをえません、そんな背景から生まれたヤマハ渾身の70年台を代表し、今もなお欲する人が後を絶たない名機中の名機なのです。
私がこの存在を知ったのは80年ごろで、オーディオ雑誌に「名機図鑑」的な特集があり、それを見てからです。
私がオーディオにハマる以前に発売されていたこのアンプ、オーディオショップに行くたびに優良美品を探し求め、購入できたのは90年ごろだと思います。
中古なのに発売当時の定価に近い価格でした、今ではフルオーバーホールされたものは20万円以上の価格になっています。
A級とB級を切り替えられる仕様で、クラシックファンからジャズファンまでが絶賛した逸品です。
また、外見が白木調のウッドケースにホワイトシルバーのフェースで、何とも上品でエレガントな面持ちということもあってか高価格でありながら大ヒットを飛ばしました。
回路的にもプリ部とパワー部に分かれた電源トランスを使用し、トランジスタと当時では珍しいFETを混合させた増幅回路で定格出力をA級で15W、B級で75Wという高出力を実現しています。
ダイナミックパワーはB級で200W、当時ではセパレートアンプのパワーアンプ並みのスペックです。
周波数レンジもB級で5Hz~50Khz、A級にすると100Khzまで伸ばしており、この時代に現代のハイレゾ対応のアンプ並みの周波数レンジは脱帽ものです。
音質は、当時のプリメインアンプの中では最も低音域が伸びている感じで、中高音域もメリハリはサンスイには敵わないまでもナチュラルサウンドで非常にバランスが取れており、73年のアンプとは思えないほどの高音質で極めて聴きやすい音質です。
ベースソロなどの低音域の音質は、サンスイの80年代アンプのように硬く締まった音質とは対照的にマイルドですが下からグンと押し上げるような力強い音色で、これはクラシックファンには堪らない低音域の音色だと思います。
ロンカーターのピッコロベース(チェロほどの大きさの小型ベース)の音色は圧巻です。
サンスイの低音域が「ゴリゴリ」と表現するのに対して、「グングン」と下から湧き上がるような鳴りかたで、極めて特徴的な低音域の鳴り方は本当に未来に残すべき貴重な音色です。
最新の高性能な小型ブックシェルフと大型ブックシェルフで音質確認すると、70年代初頭のアンプとは思えないほど低音域から高音域までバランスが取れた音質で、現役で使ってもまったく違和感がありません。
否、むしろ最新のスピーカーと合わせて現役で使いたいと思わせるほど完成された見事な音質のアンプだと思います。
またデザインも実にヤマハらしいエレガントなデザインで、最新のヤマハアンプにもこのデザインが残っています。
A級、B級と切り替えられるアンプは切り替えても殆ど音色が同じなのに、このCA-1000ははっきり違いが解ります。
A級の音色はまさに至福の音色で、オーディオ各誌が揃って「名機」と称えるのは納得です。
また、多くのオーディオメーカーが先ずセパレートアンプを出し、その後に技術を引き継いだプリメインアンプを出しますが、ヤマハの戦略は逆で高性能なプリメインアンプの後に更にハイエンドなセパレートアンプを出して大成功を収めます。
尚、ヤマハはホームオーディオ向けにこういった名機の数々を出した後にライブハウス用のPA設備に乗り出して、これも大成功を収めます(ヤマハプロフェッショナルというブランドで一斉風靡します)、この見事な製品戦略はビジネス成功の秘訣が数多く隠されています。