2023年4月 8日 08:00
音を一度も確認せずに見た目だけで買ってしまう、私としては極めて異例なことですが、その代表格がヤマハA-5(1979年発売、4.5万円)だと思います。
購入は81年ごろで、社会人3年目のオーディオ熱が急上昇していた頃です。
ヤマハ A-5
何といってもクリスタルのような大きな半透明のパワーボタンと6個のセレクトボタンが灯るのです、これが部屋を暗くすると実にカッコいいのです。
また、高さが2/3の薄型は当時では斬新でしたが、他社も含め流行の兆しだけで終わり数年で元の大きさに戻ってしまいました。
当時のインテリア性に欠けるごっついオーディオ製品の中にあってファッショナブル且つ上品で一際存在感を示した1台です。
サンスイのAU-6500と並べてみるととても同時代のアンプとは思えません。
今でも、ヤマハの最新のアンプだと言っても誰も疑わないデザインです。
また、当時の私の中でのヤマハとはバイクと楽器の会社というイメージで、アンプはサンスイとラックスマン以外は気にもとめなかったので購入したときは自分に驚いたほどです。
尚、ヤマハA-5は外見だけで買ったにもかかわらず、いまだにコレクションとして残っているということはそれなりの捨てられない貴重な音色だからなのです。
当時ではエントリークラスの価格でありながら、各社が必死に取り組んだDC(直流)アンプ構成であり周波数レンジが広いのが音でも確認できます。
当時こそ4.5万円とはいえ、大卒初任給から現在に換算すると15万円ほどとなり、音質的にも決して安物ではありません。
中高音域の押し出しや切れといったサンスイアンプのようなシャープさや、輪郭のくっきりしたソニーやテクニクスアンプのような繊細さこそないのですが、ラックスマンのような上品で優しい音で音楽を愉しませてくれます。
この音質の傾向はスピーカーに何を繋いでも同様です、これもラックスマンのアンプ同様に癖が無いようでいてしっかり個性を持ってます。
ただ、低音域が下まで伸びてふっくらしているのですが少しもたつくのが難点です、ラウドネスをオンにすると更にこの傾向が極まります。
こういった音質は聴きやすいのですが、ジャズやロックにはちょっと不向きで個人的には好んで使おうとは思いません。
また、このクラスでMCカートリッジが使えるというのは驚異的なスペックです、上位アンプの流用で戦略的な価格を設定したのでしょう、定格出力45Wというのも時代から考えたら立派です。
ただCDのレンジが広く波形が鋭い打ち込み系の音源は流石に厳しく、どんなジャンルもマイルドな音になってしまいます、それでも確実に手元に置いておきたいアンプです。
もう一つの欠点、それは電源オンから数分間はまともな音がしないのです、これは購入当初からで故障しているのかと思ったほどです。
5分ほどすると徐々に音量も上がってきて音質も太くなってきます、何のせいなのかはよく解りません。
しっかり鳴るまでには20分かかります、これは手持ちアンプの中でも最も長いウォームアップ時間です。
70年代から90年代にかけて、豪華なソファーで落ち着いた雰囲気の中でコーヒーが飲める純喫茶がそこら中にありました、こういった喫茶店では必ずモダンジャズやクラシックが静かに流れていたものです。
今のように天井に小型のスピーカーを付けて有線放送を流しているという安っぽい設備ではありません、多くがハイエンドのコンポーネントオーディオでJBLやタンノイなどの本格的なフロア型スピーカーを使っていました。
A-5は、そんな当時の純喫茶で聞いていた懐かしい音が再現できるアンプです。
こういった優しく包み込むようなマイルドな音色はサンスイのアンプでは絶対に表現できません、ヤマハA-5の音色を確認していてそんな時代のことを懐かしく思い出していました。