2023年3月18日 08:00
フルオーバーホールから戻り、ようやく音出しできるデノンPOA-1003(1977年発売、定価14.5万円)です。
フルオーバーホールに出してから待ちに待つこと約1年、当時の部品が確保できないとのことで思いの外期間がかかってしまいました。
結局30個ほどのトランジスタとダイオード、そして10個ほどの電解コンデンサを取り換え、入力コネクタを最新のセラミック台座に金メッキピンという贅沢なものに交換してもらい立派になって戻ってきました。
真空管アンプ時代の仕様をそのまま残したネジ式のスピーカーターミナルは、デノンアンプの歴史を保存する意味で手を付けずにそのまま残しました、おかげで音出し確認だけでもドライバーで絞めつけながら行ったので苦労しました。
常用で使う際にはスピーカーケーブルの末端にY字端子を取りつけて固定します。
今では考えられませんが、オーディオ黎明期にはアンプにスピーカーを取りつけるだけで手間と時間がかかったのです。
デノン POA-1003
長期間待った甲斐があったのか音色は記憶の通りです。
17Kg超という重厚で無骨なボディからは想像もつかないほどのクリーンでナチュラルサウンドそのものです、本当にデノンのアンプは昔から素直というか癖が無いです。
周波数レンジは0Hz~100KHzというDC(直流)アンプで驚異の広さを誇り、定格出力も8Ωで85Wと当時のセパレートアンプとしては申し分ありません。
余計な色付けは一切せず、音色の違いはスピーカーに委ねるというアンプの理想を貫く姿勢は立派です。
電源から左右分離回路となっておりチャンネルセパレーションは抜群です、当時の技術のすべてを注ぎ込んだDCパワーアンプで、ノイズの元となる接点部分を全て排除しゲインコントロールさえ付いていません。
つまり、プリアンプかパッシブアッテネーター無しでは音出し確認すらできないのです。
「まさに増幅する電線」というアンプの理想形がここにあります。
外見はフロントはまあまあですが、横に回ればまるでエンジンのように空冷フィンが飛び出しています。
上面パネルを開けると中は大型のトランスと4つの巨大な電解コンデンサが空間を占めています、最終段のトランジスタはサイドの冷却フィンに横付けされるように基盤がそり立っています。
当時、こういった武骨でエンジンのようなアンプが多数存在していました、工学系の私には堪らないデザインと景色(内観)です。
80年代前半にサンスイのプリアンプCA-2000と組んでいましたが、サンスイのお家芸である締まった低音とシャープな切れ味の中高音域がそのままに見事にスピーカーに出力されます。
BA-3000をCA-2000に繋いでしばらく使っていたのですが、このPOA-1003に繋ぎ変えたらまるで別世界の音色に変わります。
BA-3000の感動的でさえあった締まった硬質な低音が、逆に嫌味に聴こえてしまうというPOA-1003のクリアな音色に一発で参ってしまいました、どの楽器の音色も実にリアルに表現されるのです。
圧巻はベースの弦と弦が当たる「ギョン」という音、これほどまでにリアルな金属音は他のどのアンプにも無い音色です。
また、ドラムのハット系の響きも綺麗な金属音で余韻は短すぎず長すぎず丁度良いのです。
音も聴き込んでいくと好みが変わっていくのでしょうか、それとも超ナチュラルサウンドは全ての人を虜にしてしまうのでしょうか、デノンアンプ黎明期の技術の底力を見せつけるかのようなパワーアンプです。
是非とも1度は聴いてほしいと思います、往年のビンテージものの音色は今の製品では決して味わうことができないのですから。
最後になりますが、このPOA-1003はデノンアンプの歴史的にも貴重なアンプです、というのもこの1世代前のPOA-1000Bは真空管パワーアンプでPOA-1003はパワートランジスタを用いた初の本格的なパワーアンプなのです。
POA-1003のスピーカーターミナルはドライバーで締め付けるネジ式です、これは当時の真空管アンプで良く見られた仕様ですが、POA-1000Bの面影を残す極めてレアな方式といえます。
この2年後にクラシックファンに向けたA級アンプ仕様としたデノンの名作パワーアンプPOAー3000が誕生します、その歴史過程を今に残すのがこのPOA-1003なのです、もっと評価されるべきパワーアンプなのかもしれません。
ちなみにジャズファンなら本機POA-1003の音色の方がPOA-3000よりも好みだと思います、前に押し出してくる迫力が全然違います。
音出し確認のあと、80年代前半に組んでいた常用システムを復元して最新のCDプレーヤーとスピーカーを繋いで音色を確認したのですが、これはまた別の機会に記事にまとめましょう。