普通の人は勿論、マニアでもまず買わないだろうというアンプがあります。
そんな代表格がこのティアックAG-H600(2008年初版発売・2014年再製版発売、定価12万円)ではないでしょうか。
オーディオ道楽復活で取りあえず買いたいアンプが無い中で、ちょっとハイファイデジタルアンプに色気が湧いてきてデジタルアンプを数台購入して音質を確認しました。
スペックを調べてちょっと高いかなと思いながらも再生産版を買ったのですが、これが意外や音質的には大当たりのアンプだったのです。
ティアック AG-H600
横幅30Cmのミニコンポサイズのハイファイデジタルアンプですが、ティアックの音に対する姿勢を理解していなければ価格的にみて普通の人は買わないかもしれません。
近年、1万円もしない安い小型の中華デジタルアンプが市場に溢れていますが、同じデジタルでもハイファイデジタルはそもそものコンセプトから別物であり、「デジタルアンプ」という一つの括りで考えてしまうと真のハイファイデジタルアンプの姿が見えてきません。
安物のデジタルアンプはIC一発使い、高級なハイファイデジタルアンプはトランジスタやFETなどで作るディスクリート回路でのデジタルアンプであり、まったく別のカテゴリの製品だと認識した方がよいでしょう。
ちなみにD級アンプとは、A級・B級・C級アンプ以外の増幅回路を指していますので、デジタルアンプはどのような回路方式であってもD級に区分されてしまうのです。
もう一つ、この年代のティアックのデジタル製品は極めてコストパフォーマンスが高いのです、その理由は2004年にティアック100%の子会社として設立したESOTERIC(エソテリック)という高級デジタルブランドがあり、この優れたデジタル技術がティアック製品にも投入されているからです。
同じようなデジタル製品が、超高級ブランドESOTERICの半額以下で買えるという時期だったのです。
そういった歴史を知っている人が、今もなお美品中古のAG-H600を探しては買い求めているのです。
さて、スペックで先ず目を引くのが電源です、高級なトロイダルトランスを使って極めて強力な電源にして究極なまでに音質を高めることを追求しています。
その音質は曇りがまったくない素直な音質で、75Wの充分な出力をもって小型ブックシェルフから大型ブックシェルフまで余裕をもって鳴らします。
中高音域の澄み渡った曇りの無い音質に驚き、さらに低音の響きには正直驚かされます。
この低音域の響き方はかなり好みが分かれるところかもしれません、量感は在るものの締まった音色とは違います。
高音域は余韻がものすごく綺麗に響きます、デジタルアンプは全体的に中高音域は綺麗に出ているような気がします。
全体的な印象は大きな癖も特徴も無く、ただただ録音された音をとにかく素直に出力することだけに注力したような純粋無垢な音質です。
サンスイサウンドのように硬く引き締まった低音やシャープに響く高音ではないのですが、下まで無理なく伸びきった低音域はなんとも言えない至福の響きで一聴の価値があります。
また出力から見ると発熱量も消費電力も流石にデジタルアンプだけに少なく、ケースにスリットが一つもない7mm厚のフロントパネルが高級感もあり未来的で斬新です。
スリットから埃が入るのを心配することなく使えるのは、ベッドルームでも気楽に使えるので理想的なアンプです。
操作性も文句無しです、流石祖業から技術力の高さを誇るティアックだけはあります。
デジタルオーディオ全盛期を迎える今、近未来を予感させるような存在感のあるデジタルアンプで、メインアンプとして使っているクラシック系のオーディオマニアもいるほど癖の無い素直な音色は人によっては堪らない音色だと思います。
相性の良いスピーカーを見つけようと、手持ちスピーカーを総投入しての試聴は物凄い日数を要しましたが実に興味深い結果を齎しました。
大型のスピーカーが明朗に鳴ると思いきや、意外や小型ブックシェルフでも気持良く鳴ってくれます。
小型ブックシェルフでは、2010年以降の高音域が綺麗に伸びているタイプに相性の良さを感じます。
オンキョーのD-212EXなどが特に相性の良さを感じ、数段階上のスピーカーの音色で鳴ります。
高音域が貧弱で、低音に独特の癖があるBOSEスピーカー55WERをも見事に鳴らしきるのには正直驚きました。
JBL・フォステクスはややドンシャリ気味となり中高音域が耳につく音質ですが、これは好みの問題で高音域を抑えぎみに調整すると聴きやすくなります。
トーンコントロールは音量ツマミを押す度に切り替わり低音、中音、高音の3バンドでそれぞれを調整できます。
この機能は何故か一般には公開されてなく、実際に買った人でないと「トーンコントロール機能が無い」と勘違いされるかもしれません。
このAG-H600、おそらく数年後には他のハイファイデジタルアンプと共にコレクションラックに確実に収まっているでしょう。
ということで、常用とコレクション用に2台必要となるのでもう1台購入してしまったのです。